コトダマ
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部屋が静寂に包まれると、小さな寝息が聞こえ始めた。
ナギは腕枕していた腕を、そっと外し
安心しきった寝顔を見せるヒロインを見つめた。
そして「ふっ」と微笑むと、オデコと剥き出しになった肩に優しくキスをした。
毛布をしっかり掛けてやると、ナギは音を立てないように
そっとベッドから抜け出した。
脱ぎ散らかした衣類を見つけ出し、身に付けていると
部屋のドアが小さくノックされた。
ナギはドアに向かい、細く開けると
そこにいたのはシンだった。
シン
「…明日、この港を出るそうだ。
午前中買い出しをして、作戦会議の後出航だそうだ」
ナギ
「分かった。
…途中で抜け出して、悪かったな」
ナギがそう言うと、シンは呆れたように
「はぁ…」とタメ息を漏らした。
シン
「いい加減、ヒロインの性格を分かったらどうだ?
アイツは言い出したら、何を言っても聞かないし
やると決めたら貫く女だろう」
ナギ
「………」
(そんな事分かってる…)
シン
「フン、どうせ巻き込みたくないだの何だので
あんな事言ってたんだろうが、
ヒロインだって海賊だ、心配ならお前が守ってやればいいだけの話だ」
腕組みをして話すシンの言葉は、ごもっともではあるが
そう簡単には割り切れない。
シリウス号に乗ってから、かなりの月日が経つが
それでもヒロインには海賊として染まって欲しくないと思う。
危険な事をさせたくない。
そう思うのは勝手な事だろうか…。
一言も言い返して来ないナギに、シンはまたタメ息をついた。
シン
「船長が一緒に部屋で飲むヤツ探してたぞ?
オレは断ったがな…」
そう言って、シンは廊下を歩いて行ってしまった。
ナギは部屋の中を振り返り、ベッドの中で眠るヒロインを見つめた。
(…守ってやればいい…か…)
言葉にするのは簡単だ。
そう思いながらも、何度危ない目に合わせてきただろう。
ヒロインの体に残る傷跡や、敵に捕まって拘束されている姿が浮かび
ナギは顔をしかめた。
そして部屋を出て、リュウガの部屋を目指した。
ナギ
「…船長、オレです。
入っていいですか?」
ドアをノックして、返事を待つと
すぐに陽気なリュウガの声が聞こえた。
リュウガ
『おう! 入れ!!』
ドアを開けると、まるでシリウス号の船長室を思わせるような
強い酒の匂いが漂っていた。
リュウガ
「待ってたぜナギ! オラ、さっさと座れ!」
そう言って、ソファーに座るリュウガの目の前にある椅子へと促され
ナギは静かに座った。
リュウガ
「やっぱ海の上じゃねぇと、どうも酒が美味くねぇなぁ…
つまみもナギのに比べたら、つまんねぇのばっかだしよ…」
ナギ
「厨房借りて、何か作ってきます」
そう言って立ち上がろうとするナギを見て、
リュウガはドンッとナギの目の前に、並々と注がれたワインのグラスを置いた。
リュウガ
「いいから飲めっ!
ここのワイン、なかなかの味だぞ?」
ナギは浮かせた腰を椅子に戻し
勧められるまま、グラスの中のワインを飲んだ。
リュウガ
「ヒロインは寝たのか?」
ナギ
「…はい…
さっきは…すいませんでした…」
リュウガ
「あん?」
神妙に頭を下げるナギを横目に、
リュウガはまたガブリとワインを煽る。
ナギ
「…海賊として…シリウスの一員として
あの発言はどうかしてました」
ナギの真面目さに、リュウガは思わず笑ってしまった。
リュウガ
「クッ…クククッ!
どうかするに決まってるよな!?
ヒロインのような女は、オレも初めて会った!」
ナギ
「……ですが…」
リュウガ
「…オレも悪かった。
ヒロインを焚き付けて…」
ナギ
「!?」
リュウガ
「オレは別に宝に目が眩んだ訳じゃねぇ。
ジョルジュのじいさんにはちょっとした恩があってな…
それに…やっぱ悪事を目の前に、見過ごすわけにはいかねぇだろ?」
そう言ってニカッと笑うリュウガを見て、ナギは遠い日を思い出した。
そうだった。
リュウガはいつだって利益や損得だけで動く男じゃない。
その証拠に、高額懸賞首の自分を船に乗せている。
命懸けで何度も助けてくれた。
そういう自分の命を省みないリュウガの行動を何度となく目の当たりにしているのに
当の自分は、大切なモノを守るのに必死だ…。
情けなくて、リュウガの目を見る事ができなくなる。
リュウガ
「…ナギ、お前昔を考えてみろ。
船長の為に何でもするって言っていたお前が
今はヒロインを優先してんだぞ?
いい事じゃねぇか!
あのまま追い掛けられ続けたら、
オレ、ナギに犯されてたかもな?」
冗談めかして、豪快に笑うリュウガ。
言われた通り、昔の自分はリュウガへの恩を返そうと
それ以外の事に目もくれていなかった。
リュウガ
「オレは嬉しいけどな?
ナギがこんな風にオレの酒に付き合ってくれるのも、
オレに楯突いてまでヒロインを守ろうとするのも…
大切なモノがなきゃ、海賊なんてやってらんねぇよ!」
リュウガの言葉が優しくて、また救われた気持ちになる。
物事を堅く受け取ってしまう自分は、何度リュウガの柔和な考えに救われただろう。
時折、本当にハメを外し過ぎている所もあるが
それでもリュウガの考えには芯が通っている。
だからどんな無茶をしてもついて行こうと思える。
リュウガ
「ヒロインが大事なのはよく分かる。
だが、あまり溺れ過ぎんなよ?
アイツも少しは海賊っていうモノが分かってきて
力になろうとヒロインなりにもがいてる。
そういう時に、お前が過保護に囲うと余計アイツは苦しむぞ?
もう少し『仲間』として、ヒロインを客観的に見る事も大事なんじゃねぇか?」
ナギ
「…客観的…?」
リュウガ
「そうだ。
ヒロインはお前が思っている以上に、強い女だ。
お前が庇ったり、囲おうとするほど
疎外感や孤独感を感じてる。
危険な事もお前と一緒にいる事で、存在意義ってのを感じるんだよ。
荷物じゃないんだってな?」
ナギ
「荷物だなんてオレは…」
リュウガ
「だぁから、そう思ってるのはお前だけなんだよ!
後から船に乗って、ロクに他のメンバーと同じような仕事も出来ない。
その上、関わるな近寄るなって言われたらどう思う?
オレだって素人のヒロインを借り出すのは気が引ける。
だが、ヒロインの中ではもう素人ではなくなってんだよ!
考えてみろ! 普通の女が海賊船なんかに残ろうって思うか?」
リュウガは『シリウス号に残る』と頑固な表情をして言ってきたヒロインを思い出した。
ナギ
「…それはオレが…」
リュウガ
「違ぇよ! まぁお前と付き合い出したってのは大きいかもしれねぇが
アイツは自分で選んだんだよ!
今回の件もそうだ、アイツ自身が選んだ答えを
もう少し見守ってやれ!
ヒロインは空気が読める女だからな…本当に無理な事はアイツがSOSを出す」
リュウガが言っている事は、本当によく当たってる。
むしろ自分なんかよりも、ずっとずっとよく知っている。
さっき部屋の前で話したシンだって、ヒロインの事をよく見ている。
近くにい過ぎて、ヒロインの事が見えてなかったのは自分だけなのではないか…。
ナギは頭の中が混乱し始めた。
(酔いでも回ったか?)
その様子を見て、リュウガはまた吹き出した。
リュウガ
「ぶはっ! クククッナギぃ…お前なんつー顔だよ!?」
ナギ
「!?」
リュウガ
「あ~いいもん見たなぁ…クククッ
ヒロインの力ってすげぇのな?!」
そんなに深刻な顔をしていただろうか?
でも確実に言えるのは、こんな風に誰かの事を考えられるようになったのはヒロインのお陰だ。
こういう感情が面倒だと思っていたのに、今ではもう昔の自分を思い出せない。
リュウガ
「まぁお前は器用そうで、そういう所は不器用だからよ?
もっと正直にヒロインに伝えてもいいんじゃねぇか?
不安や心配はもちろんするに決まってる。
それでもヒロインが決めた時は、支えてやればいい」
ナギ
「…そう…なんですが…」
リュウガ
「ふっ…そう考え込むなって!
案外こうして話してるのもヒロインは知ってるかもしれねぇぞ?
アイツ、結構勘もいいからな…ククッ」
ナギ
「!」
冗談のつもりでそう言ったが、ナギはピクリと反応した。
そしてグラスをテーブルに置くと、立ち上がった。
リュウガ
「オ、オイ! 冗談だっての!」
ナギ
「…いや…今日はもう休みます」
そう言ってナギは部屋を出ていってしまった。
リュウガ
「何だよ…つまんねぇな…」
そう言いながらリュウガは、ナギの表情を思い出した。
最近ではナギのあぁいう顔は見慣れた物になったが
いつからだろう。
ナギがあんなにも感情を現すようになったのは…。
ナギはもっと無骨で、冷たさすら感じる男だったのに…。
リュウガはグラスの中のワインを見つめた。
この船の中で一番変わったのはナギだ。
ヒロインといると、割り切れていた想いや行動が
無責任に出来なくなる。
あの真っ直ぐで、純粋な目を見ると
何も隠せない。
それはナギだけでなく、リュウガだって思い当たる節はある。
リュウガもそれだけ変わったという事だ。
現に今、そろそろ酒を飲むのを止めようと思ってる。
明日ヒロインに「酒臭い」と言われない為にだ。
リュウガ
「全く…誰がこんな話信じる…ふっ…」
残りのワインをグッと飲み干すと、リュウガはしっかりとボトルに栓をして
「ふぁっ」と欠伸をするとベッドへ身を沈めた。