コトダマ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ハヤテ
「…? そしたらおかしくねぇか?
じいさんの遺言って、じいさん死ぬ前に妹いねぇんじゃ伝えようがねぇじゃねぇか!」
ハヤテの的確な指摘に、メンバー全員が感心した。
ハヤテ
「…ん? オレなんか変な事言ったか?」
ソウシ
「いや…ハヤテも大人になったなぁって…」
褒められたような空気が嬉しかったのか、
ハヤテは照れ隠しに、「何んスか?」と拗ねた表情を見せた。
シン
「…単細胞め…」
こんな事で感心されている事に気づかないハヤテに向けて
ボソリとシンが呟いたが、その声は届かなかったようだ。
ジョルジュ
「そうだ。
だから、オレはじいさんとデマを流した。
妹は生きていて、オレしか知らない場所にいると…」
リュウガ
「…切り札に妹役の女が欲しかったって訳か…」
ジョルジュ
「…聞こえは悪いかもしれないが、もちろんそれ相応の礼はする。
危険に巻き込む事にもなるしな…」
ヒロインは体が震えるくらい、胸がドキドキしていた。
もしこの話を断れば、ジョルジュの父は違法な薬品をばら撒き続ける。
そしてジョルジュの居場所もなくなる。
今日初めて会ったこの男に、そこまで同情する事はないのに
何故か力になってあげたいと思うのは、リュウガに似ているからだろうか…。
ナギ
「…何故ヒロインなんだ?
探せば口が堅い女もいるだろう」
ナギはヒロインを身代わりにするつもりなんてなかった。
万一、この仕事を引き受けて
ジョルジュが宝を見つけ、そして父親を引きずり降ろせたとしても
ヒロインの身の安全はどこにあるのだろう。
遺言を知る『妹』となれば、父親側の人間は
ヒロインを殺しに来るだろう。
何としてでもジョルジュに当主の座を渡さないと…。
ナギの意見はもっともだと、ジョルジュはゆっくりと立ち上がり
ヒロインの前まで歩いた。
ヒロイン
「っ!」
怯えるヒロインの前に来ると、ジョルジュはグッとヒロインの顎を掴み、上を向かせた。
ジョルジュ
「この目だよ…
意志の堅い、頑固で強気な目…妹にそっくりだ…」
大通りで出会った時、どれだけ強引に連れて行こうとしても
怖がっているにも関わらず、一歩も折れなかった。
しかしジョルジュは、思いっ切り動揺して
目が泳ぎまくっているヒロインを見て、吹き出してしまった。
ジョルジュ
「ふっふははっ!!
あの時の強気な目はどうした?
守ってくれる男が傍にいると、こんなに弱っちくなっちまうのか?」
ヒロイン
「え…?」
大笑いするジョルジュを前に、ヒロインはキョトンと見つめる事しか出来なかった。
そしてグッとオナカに手が回り、力強くナギが引き寄せた。
ナギ
「…気安く触るな」
ジョルジュ
「あ~はいはい!
悪かったって! バンダナの兄ちゃんの殺気がハンパねぇなぁ…クククッ」
そう言って、ジョルジュが席に戻ると
リュウガも笑いながら言った。
リュウガ
「過保護だからよ?
あんまからかってると、命を落とすぞ?」
ナギ
「チッ!」
ジョルジュの事を全て信じた訳ではないが、シリウス海賊団の中では
ジョルジュに協力する気持ちが膨らんでいく。
ジョルジュ
「…どうだ? オレに協力する気はねぇか?
宝の場所はまだ教えられねぇが、お前らを信頼出来たら必ず教える。
嘘じゃねぇ」
ジョルジュは強い瞳でリュウガを見つめた。
数えきれない程の人間を見てきたリュウガには
この目が嘘ではない事くらいすぐに分かった。
…となると、答えを出すのは自分ではない。
リュウガは椅子を回転させ、ナギとヒロインを見つめた。
リュウガ
「どうするヒロイン?
この話は、お前次第だ。
ジョルジュの言う通り、かなり危険な賭けだ。
お前が決めろ」
ナギ
「船長、そんな言い方…」
ナギは怒りで血管が切れそうになった。
リュウガの言葉は、あまりにも汚かった。
いかにもヒロインが使命感に燃え、「やります」と答える聞き方だ。
ヒロインの性格を知っているだけに、上手く誘導していると言ってもいい。
そしてナギの思った通り、ヒロインは力強く答えた。
ヒロイン
「…やります!!」
ナギ
「ちょっと待て!!」
ジョルジュ
「ホントか?! 本当にやってくれるのか?」
ヒロイン
「あの…私なんかでいいのか分からないですけど…」
ナギ
「ヒロイン! お前はもう黙れっ!」
ジョルジュ
「ありがとう! ありがとう…」
ジョルジュはヒロインの両手を取り、深く頭を下げた。
ナギ
「っ! ……チッ…」
こうなると、もう撤回なんて出来ない。
ナギは怒りでどうにかなってしまうかと思った。
リュウガ
「ナギ落ち着け、ヒロインが単独で行動する事のないように手筈をつける。
常にお前が傍にいればいい。 …だろ?」
意地悪な笑みを浮かべながら、ナギに言う。
ナギ
「!!」
ナギはその挑発的な物言いにカッとなり、そのまま部屋を出て行ってしまった。
ヒロイン
「ナ、ナギ?!」
リュウガ
「ほっとけほっとけ!
恋愛ボケしてる海賊なんて追い掛けなくていい」
そう言うと、リュウガはグラスに残った酒を煽った。
すると殺気を感じる程の視線に気づく。
リュウガ
「!?」
ヒロイン
「だからってそんな言い方ないです!!
船長のバカっ!!!」
ヒロインはナギの後を追い掛けて、走っていった。
取り残されたメンバーは、その光景にしばらく呆けてしまった。
ジョルジュ
「ふ…ふふっ」
リュウガ
「くっ…くはっ!がーははっ!
見たかよあの目っ!!」
ジョルジュ
「ぶははっ! あぁ…クククッ
あの目の原動力は、あのナギってヤツのお陰って事か…」
大笑いしながら顔を見合わせリュウガとジョルジュ。
そして2人とも、清々しい笑顔を浮かべた。
リュウガ
「…誰も危ない目に合わせるつもりはねぇからよ?
ヒロインにもしもの事があったら、お宝よりもお前の命をもらうからな?」
ジョルジュ
「分かってる。
シリウスのお宝をお借りするんだ。
オレだって命がけで守る」
その答えを聞き、リュウガとジョルジュは硬い握手を結んだ。
ヒロイン
「ねぇナギっ! ナギ待って!!!」
船から降りて、怒ったナギの背中を追い掛けるも
歩くスピードは緩まず、走ってようやく追い付いた。
ヒロイン
「ナギっ!」
やっと掴んだナギの手を、力強く握った。
するとナギは我に返ったかのように立ち止まってくれた。
ヒロイン
「はぁ…良かった止まってくれて…」
ホッと息を吐くと、ヒロインは前を向いたままのナギを覗き込んだ。
ヒロイン
「…怒ってる…よね?」
恐る恐る問いかけたが、ナギは硬く目を閉じたまま黙り込んでいた。
ヒロイン
「あの…勝手に決めて…ごめんなさい…
でも力になりたくて…」
ナギが怒るのも無理はない。
力になりたい一心で即答してしまったが、ナギはいつだって身の安全を考えてくれる。
出来れば海賊としての仕事に関わらせたくないと思っている事も知っている。
だが、その反面
同じ船に乗っていながら、自分だけ役に立っていない仲間はずれのような気持ちに陥る。
娼館にみんなが行った時、女の自分は何も出来ない。
それに戦いになったと時も、自分は見つからないように身を潜めるくらいだ。
だから、自分に出来る事があれば何だってしたい。
それはナギにだって分かっていた。
だからこそ、リュウガのあの言い方も気に入らなかったし
巻き込みたくないと思っていたのに、結局ヒロインを危ない目に合わせてしまう自分が不甲斐無い。
やはり海賊の自分と一緒にいる限り、平穏な生活をさせてやるのは
無理な話というのだろう…。
ナギは必死に謝ってくるヒロインを見下ろし
タメ息をつきながら、そっと頭を撫でた。
ヒロイン
「…ナギ?」
ナギ
「…ごめんな…?
結局またお前を危ない目に合わせてる…」
危ない目に合わせたくないのに、それでも離れるという選択肢を選べないナギ。
ヒロイン
「えっ!? な、何で??
何でナギが謝るの?
危ない目に合わせてるって…むしろ私からいつも飛び込んでるっていうか…」
ナギの切なく歪む目を見て、ヒロインは慌てて答えた。
ヒロイン
「でもっあの何も考えてない訳じゃないよ?
その…ナギも…不安だったり嫌な仕事、する時あるでしょ?
だから私だって、私が役に立てる仕事だったら
力になりたいの…
心配掛けちゃうけど、でも私…っ! ナ、ナギ?」
思いつくままに話していると、突然ナギに引き寄せられ
ギュッと抱きしめられた。
ナギ
「………」
ヒロイン
「???」
ナギは何も言わず、力強く抱きしめるだけだった。
だが、大切そうに抱いてくれる感触に
何だか嬉しくて、じんわりと涙が浮かんできた。
シリウス号に乗ってから、いつだって寂しい時や悲しい時
ナギはこうして抱きしめてくれた。
まだつき会う前の頃、初めてナギにこうしてもらった時
ようやく甘えられる場所を見つけたようで、ワンワン泣いてしまった。
…今だってそうだ。
本当は、ジョルジュの妹の身代わりなんて
ちゃんと務められるか分からないし、海軍や役人までもが引いてしまう程の
権力者と立ち向かうなんて、想像を遥かに超えている。
あれだけ勢いよく答えたのに、ナギの胸の中にいると
何でもないただの女の子に戻ってしまう。
ヒロイン
「…ヒッ…ごめ…ね?」
ナギは何も言わず、ずっと背中をトントンと優しく叩いてくれる。
あまりにも心地よくて、ヒロインはゆっくり目を閉じた。
ヒロイン
「グズッ…ふふっ…ナギってお母さんみたい!」
ナギ
「あ?」
ヒロイン
「ふふふっ、美味しい匂いがして
優しくて、あったかくて…」
ヒロインは深くナギの胸に顔を埋めた。
ヒロイン
「…大好き…
私、頑張るから…だからまたこうやってギュッてしてくれる?」
少しだけ顔を上げ、潤んだ瞳で見上げると
ナギは優しく微笑んでくれた。
ナギ
「ふっ…頑張んなくてもいつでもしてやる。
…お前だったら、いつだってどこだってしてやるよ」
その言葉に、胸がドキンと高鳴った。
だがヒロインは思わず微笑んでしまった。
ヒロイン
「クスクス…どこだっていうのは嘘だよ…
ナギ、皆の前でこんな風に出来るの?」
ナギ
「チッ…泣いたり笑ったり、忙しいヤツ…」
ナギが照れながら顔を背ける。
こんなに照れ屋なのに、それでもこうやって分かりやすく甘えさせてくれる…
ナギの優しさが愛しくて、キュンと胸が締め付けられる。
ヒロイン
「ふふっナギだ~~~い好き!!」
ナギの首に手を回し、チュッと唇を押し当てた。
ナギ
「!?」
ヒロイン
「ナギもいっぱいいっぱい甘えてね?
私もナギにだけ…ナギにだけしかこんな事言わないよ?」
まっすぐナギを見つめると、ナギは無表情に見下ろしてきた。
(あれ…? 何か引かれちゃった??)
ナギの反応に戸惑っていると、突然体がフワッと浮かんだ。
ヒロイン
「えっ?! ちょっナギ何してっっ!!」
抱き上げられた事に驚き、慌ててギュッとナギの首に手を回した。
至近距離でナギと見つめ合う。
ナギ
「…オレも甘えていいんだろ?
じゃあ宿でゆっくりそうさせてもらう…」
ヒロイン
「!?」
ニッと意地の悪い笑みを浮かべると、抱き抱えたまま
宿屋へと歩き出す。
ヒロインは深くナギの肩に顔を埋め
嬉しくて笑みがこぼれ落ちた。