コトダマ
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・・・・・・・・・
話し合いが終わると、ナギが軽いご飯を作ってくれると言って
厨房に入ったので、手伝おうとしたが追い出された。
怪我人に出来る事はねぇと、厨房にすら入れてもらえなかった。
出来上がるまでの時間をどうしようかと
甲板に出てくると、舳先の所で海を眺めているジョルジュの背中を見つけた。
傍まで歩き、そっと声を掛けた。
ヒロイン
「ジョルジュさん」
ジョルジュ
「! おっヒロイン!
どうした? メシ食うんじゃなかったのか?」
ヒロイン
「…追い出されちゃって…隣いいですか?」
ジョルジュ
「…あぁ…」
真実が分かったジョルジュは気持ちの整理をしていた。
父親の事を考えると、あれだけ穏やかだった人を
あんな風にしてしまったのは自分なのではないかと
どれだけ謝っても、償い切れない…。
隣に立って海を眺めていたヒロインは、ジョルジュの暗い空気を感じた。
ヒロイン
「…あのジョルジュさん…」
ジョルジュ
「ん?」
ヒロイン
「あまり…自分を責めないでくださいね?
ジョルジュさんはまだ子供で、分からなかったんです。
お父さんの心の闇を…
これからですよ… おじいさんの意志を継いで
お父さんとやり直して行くんですから」
ジョルジュはそう言葉を掛けるヒロインをボンヤリと見つめた。
どうしてだろう。
ヒロインが本当の妹のようにしか見えない。
妹に会ったのは、数回しかない。
病弱で青白く、線の細い印象で
ハツラツとしたヒロインとは全く違うのに
まるで妹が乗り移ったようだ。
ヒロイン
「…? ジョルジュさん?」
ジョルジュ
「あ…あぁ…そうだよな…
……ヒロイン、あの時お前と出会ったのは妹とじいちゃんたちのお陰かもな…」
ヒロイン
「え?」
ジョルジュ
「ばあちゃんの日記を見つけてくれたのも…
ヒロインがヤマトの人間だったのも…
何だか全部がそう思えてくる…
本当にありがとな」
ジョルジュの大きな手が、優しく頭を撫でる。
ヒロイン
「あの…お父さんは、あの後どうなったんですか?」
ジョルジュ
「今、療養所にいる。
じいさんの代からよくしてくれてる先生で、内緒で親父を匿って
薬が抜けるまで面倒を見てくれるって言ってくれてな…
それに、シンが親父の銃を弾くとき
銃だけ狙ってくれてな。
船大工が手ぇ失ったらお終いだからよ…
ずげぇ腕だよな! あの距離でよぉ」
ヒロイン
「そうですか! あぁ…よかった…
お父さん、早く良くなるといいですね」
ジョルジュ
「…だけど、オレはまだ許せる自信がねぇ…
薬の事もそうだが、ヒロインを撃とうとした…」
ジョルジュはヒロインの頬に手を掛け
切ない目で見下ろしてくる。
ヒロイン
「…お父さんが撃った2発目…確かに私の頭を狙っていたんですけど
目が…」
ジョルジュ
「…目?」
ヒロイン
「…目が撃ってなかったんです…
申し訳ないって…ごめんなって…そんな目で見つめられました…
薬のせいで結果はこうなっちゃいましたけど、撃つ気はなかったのかなって…」
ジョルジュ
「ヒロイン…」
見上げるヒロインの目が優しくて
ジョルジュは胸の中が熱くなるのを感じる。
ジョルジュ
「…お前は本当に不思議だな?
あんだけ怖い思いしておきながら、もっとオレを責めてもいいのによ…
でも思い出したよ。
造船所に入る前に、お前おまじないしてくれただろ?
こうやって手に…」
ジョルジュは手を広げ、そこに人差し指で手の平をなぞった。
ヒロイン
「はい」
ジョルジュ
「…あれな?
実は妹が一度だけオレにしてくれた事があったんだ…
全然忘れてたのに、あんな状況で突然やられるから
マジで妹が乗り移ったかと思ったぞ?」
苦笑いをするジョルジュの横顔が、何だか切なく感じる。
どれだけ頑張っても、祖父母も妹もいない。
これからはジョルジュがひとりで頑張っていくしかないのだ。
ヒロイン
「…お父さんは大丈夫でしょうか?
妹さんが生きていたと思ってますよね?
ガッカリされないでしょうか?」
ジョルジュ
「それは平気だ。
ちゃんと話せば分かってくれる。
本物はいないが、真実はちゃんと残ってるしな?」
ジョルジュはニッコリ笑って見せた。
ヒロイン
「…ジョルジュさんは強いですね。
ジョルジュさんみたいなお兄さんがいたら
スッゴイ自慢ですよ!
かっこいいし、強いし、船も作れちゃうし…
私にはお兄ちゃんなんていなかったから、無条件に守ってもらえる存在って
何だか憧れちゃうな」
ジョルジュ
「ふっ何だよ、慰めてくれてんのか?
別にホントの妹にそんな事する時間もなかったし…
全然いい兄ちゃんなんかしてねぇよ…
でも…」
ヒロイン
「?」
そう言い掛けると、手すりに掛けていた手に温かな感触が走る。
ヒロイン
「ジョルジュさっ!」
優しく手を握られると、ジョルジュとの距離が縮まる。
ジョルジュ
「…お前に怪我をさせて、知らん顔出来るほど
関係は薄くねぇ…」
ヒロイン
「えっ…ちょっ…」
ジリジリと追い詰められ、トンッと背中に手すりがぶつかり
ヒロインは手すりと、ジョルジュの腕の中に閉じ込められてしまった。
ジョルジュ
「ヒロイン、やっぱお前は妹なんかじゃねぇな…
妹にこんなにドキドキなんかしねぇし…」
そう言って、スッと頬に唇が触れる。
ヒロイン
「やっジョルジュさっ何をっ!」
距離が近過ぎて、上手く抵抗出来ない。
ジョルジュ
「無条件に守る存在は、兄妹じゃなくてもなれるんだぜ?」
ヒロイン
「っ!」
ジョルジュの息がふっと耳に掛かり、ヒロインはギュッと目を閉じた。
ジョルジュ
「なぁ…この傷、オレに責任取らせてくれねぇか?」
チュッと怪我をした腕の方の肩にキスを落とす。
ヒロイン
「やっ! ジョルジュさん、いい加減にしないと
私怒りますよ?」
ヒロインはキッとジョルジュを睨んだ。
ジョルジュ
「…その目…堪んねぇな…
オレだけのモノにしたくなる…」
ヒロイン
「やぁっ!」
ジョルジュの顔が近づき、腕の痛さも忘れ
両手で抵抗すると、突然ピタリと動きが止まった。
ヒロイン
「………?」
ギュッと目を瞑り、背けていた顔を
ゆっくりと元に戻し、目を開けた。
ジョルジュ
「…わぁーったよ! 何もしてねぇって!!」
そう言って、閉じ込められていた腕が緩み
ジョルジュは軽く両手を上げながら
振り返った。
ヒロイン
「???」
何が起こったか分からないヒロインは、ジョルジュの背中からヒョコッと顔を出した。
ヒロイン
「ナギ!」
甲板の入り口で仁王立ちになって、鎖鎌を構えているナギがいた。
ジョルジュ
「チッ…やだねぇ…
シリウスのメンバーは、ヒロインの事になるとこうも取り乱しちゃって…」
そう言うジョルジュの背中を、ドンッと思い切り突き飛ばした。
ジョルジュ
「うぉ!」
ヒロイン
「ナギは特別です!!
ジョルジュさんの事、いい人って思ってたのに
もう知らないっ!!!」
思いっ切り顔をしかめて、ヒロインはナギの元へと走って行ってしまった。
ジョルジュ
「…ちょっとやり過ぎたな…」
背中を見送りながら、本気の想いを話してしまった事に後悔する。
ナギに大事そうに肩を抱かれながら、船内へ入っていくヒロインを見て
ジョルジュは「はぁ…」とタメ息をついた。
・・・・・・・・・・・
そして、牛の刻。
深夜2時を回り、シリウスメンバーとジョルジュは
例の緑色の倉庫の前に立っていた。
倉庫は思っていたよりも大きくなく
その上、使用されている感が全くなかった。
念の為、ジョルジュが鍵を開けて中に入ると
部屋の隅に段ボールが数個積まれており
中を開けると、薬や吸引用の道具などが出て来た。
トワ
「…コレだけだったら、箱だけ燃やした方が良くないですか?
わざわざ建物を燃やすなんて…勿体ないですよ…」
ソウシ
「それは言えるね。
建物燃やせば、火も大きくなるし…」
そうジョルジュに問いかけたが、ジョルジュは首を振った。
ジョルジュ
「じいちゃんの最後の言葉だ。
火をつける」
そう言って、ジョルジュは燃料を部屋中に巻き始めた。
ナギ
「ヒロイン、外に行くぞ」
ヒロイン
「あ…うん…」
むせ返るような匂いに包まれ、ヒロインは持っていたタオルに鼻と口を押し付けた。
やはり父親は、薬の売買をしていたのだ…。
どこかで嘘なんじゃないかと思っていたが、やはり本当の事だった。
ヒロインは何故か胸が痛くなり、そっとジョルジュを見たが
ジョルジュ自身は、何も感じていないようだった。
全員が外に出たのを確認し、タイマツを持ったジョルジュが
ゆっくりと倉庫に火を近づける。
すると、火が壁に一瞬触れただけで
あっという間に、倉庫を炎が包んで行った。
傍で見ているだけでも熱いが、目を離してはいけない気がする。
ヒロインは焼け落ちる倉庫を、ナギの腕を掴みながら見つめた。
ジョルジュは舞い上がる炎と灰を見上げ
突然大きな声で叫んだ。
ジョルジュ
「じぃちゃ~ん!! やっと終わったぞぉ~!!
全部片付けて、親父と頑張るからな~~!!!」
牛の刻を祖父が選んだというのに
ジョルジュの大声は、近隣住民を起こしてしまうのではないかという位だった。
シン
「…じいさんの意志がまるで伝わってないな…」
ジョルジュ
「あ?」
シンの言葉に、首を傾げたが
ジョルジュの顔はイキイキとしていた。
全てが吹っ切れて、意欲に満ちた目をしている。
倉庫を燃やす火が、赤々とジョルジュの頬を照らす。
すると、一部の壁がボロッと焼け崩れた。
ソウシ
「あっ! あれって…」
壁の間から出て来たのは、小分けにされた大量の薬だった。
リュウガ
「じいさんは知ってたんだな?
だから倉庫ごと燃やせと、お前に言ったんだな」
ジョルジュは色を変えて、焼け焦げていく薬を見て
何だか情けなくなった。
隠そうとする知恵はあるのに、何故断ち切るという思考は働らかなかったのだろうか…。
ジョルジュは悔しさが込み上げ、持っていた固形燃料を
薬目掛けて投げつけた。
しばらく無言で焼け落ちる倉庫を眺めていると
リュウガが「よし」と声を上げた。
メンバー全員が、焼け跡から財産を探すのかと
スコップや土木用のピッケルを手に持った。
リュウガ
「じゃあ、そろそろ船に戻るとするかっ!!」
ジョルジュ&メンバー
「「!!?」」
皆作業に取り掛かろうと動き出したが、ピタリと立ち止まった。
ジョルジュ
「何言ってる…?」
リュウガ
「あ? 倉庫も燃やしたし、もう用は済んだ!
オラっ!さっさと帰る支度しろっ!」
そう言われ、リュウガの意図を理解したメンバーは何も言わずに
帰り支度をする。
ジョルジュ
「ちょっと待て!
何だよ、突然… まだ金だってあるか分かんねぇのに…」
ジョルジュは引き返そうとするリュウガの肩を掴む。
すると、リュウガは優しい笑みを浮かべて振り返った。
リュウガ
「サルマのじぃさんの財宝なんて、興味が無くなっただけだ!
…それにじぃさんには世話んなったしな…」
ジョルジュ
「!? じいちゃんを知ってるのか?」
リュウガはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
リュウガ
「シリウス号がすげぇ船って、何でか分かるか?」
ジョルジュ
「あ?」
突然、質問の答えにもなっていない事を聞かれ
戸惑うジョルジュ。
リュウガ
「海中敵だらけで、船なんかしょっちゅう壊されたり
色んなトコが腐ったりしてる。
だが、1カ所だけ一度も手をつけた事のねぇ場所がある」
そう言ってリュウガはジョルジュの目を見る。
リュウガ
「…動力んトコだよ。
あの精密な組方のお陰で、一度も修理した事がねぇ。
お前もさっき見ただろ?」
ジョルジュ
「あ…あぁ…」
確かに動力室で見た時、あまりにも精巧に出来ていて
目を奪われた。
リュウガ
「…誰が作ったと思う?」
その問いかけに、ジョルジュはハッと顔を上げる。
リュウガ
「ふっ、そんじゃじぃさんの分まで頑張れよ?
そうは言っても、そろそろ限界きてもおかしくねぇから
そん時はお前に修理頼むわ!
せいぜい腕を磨いておけよ?」
リュウガは肩に掛けたジャケットを翻し、それ以上何も言わず歩き出す。
ソウシ
「ふふっ気まぐれな船長でごめんね?
あぁ、焼け焦げた薬品は、土に埋めた方がいい。
海にも近いから、雨が降って流れ出してもたいへんだからね」
シン
「…今度船の構造の話を聞かせてくれ。
シリウス号は、無駄が多すぎる。
もっと速度を速められるはずだ。」
そう言ってメンバーはひとりひとりと去って行く。
最後に残ったナギとヒロイン。
ナギは何も言わず、腕組みをしながらヒロインを見守った。
ジョルジュ
「ふっ…律儀だな?
あんな事したヤツにも、別れの挨拶をするのか?」
するとヒロインは、ジョルジュの手を取って
手の平に文字を書いた。
ヒロイン
「ジョルジュさんの周りには、助けてくれる人が沢山います。
だからひとりで無理はしないでくださいね?」
ジョルジュ
「ふははっ、人にされるとやっぱくすぐってぇな…
てかよ、何て書いてんだ?」
ヒロイン
「ヤマトの漢字で、『人』って文字です。
支え合って立つから『人』って形なんです」
そう言ってヒロインは、広げたジョルジュの手に思いっ切り右手を打ち付けた。
静かな街に、パチンという乾いた音が響く。
ジョルジュ
「痛って!!」
何事だと、ジョルジュは手をブラブラさせながら
顔をしかめてヒロインを見つめた。
ヒロイン
「妹からの忠告です!
あまりニヤけた顔ばっかしてると、今みたいにバチが当たりますよ!」
ヒロインは一瞬、あの強い目を見せたかと思うと
ニッと意地悪な笑みを浮かべ、ナギの元へと走り
手を振りながら、闇に消えて行った。
焦げ臭い臭気が漂う中、取り残されたジョルジュの胸には
意欲がみなぎる。
ジョルジュ
「ふっ…こんな事されたら、顔も緩むっつーの!
…さぁて、どこから取り掛かるかな親父!」
ジョルジュは真っ黒に焼け焦げた倉庫を見つめ
療養所にいる父親を思い
スコップを握りしめた。
☆END☆ おまけ&あとがき⇒