コトダマ
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ナギ
「…寝込みを襲おうとしてたんじゃねぇだろうな…」
殺気立つナギの視線に、リュウガはたじろぐ。
リュウガ
「アホッ! 怪我人相手に勃つかっつーの!!」
目の前でとんでもない話が飛び交い
ヒロインはキョトンとして眺めていたが
何だか元の場所に帰って来れたんだと
安心して、笑みがこぼれた。
ソウシ
「? どうしたの?
ニコニコしちゃって…」
ヒロイン
「あ…すいません。
いつもの皆さんだなぁって思って…
ご心配掛けてすみませんでした」
そう言って深くお辞儀をすると、リュウガが優しい笑みを浮かべて声を掛ける。
リュウガ
「よく頑張ったな。
まぁ色々言いてぇ事はあるが、それは後にして
今夜はジョルジュも交えて宴だっ!!
ナギ、頼んだぞ!」
ナギ
「分かりました」
トワ
「僕も手伝います!」
ハヤテ
「この島の酒、スゲー興味あったんだよなぁ!」
浮かれ出すメンバーを余所に、シンが冷静な声で言う。
シン
「ヒロイン、お前昨日のアレは何だったんだ?
突然打ち合わせにもない事を口走り出して…」
ジョルジュの父親と対峙した時、ヒロインは明らかに暴走していると思っていいほどの行動をしていた。
リュウガ
「シン、その話は…」
シン
「ヒロイン、答えろ。
お前の話次第では、オレは許さない。
あんな無鉄砲で、むちゃくちゃな行動をしておいて
命があっただけ良かったと思え。」
それはナギもジョルジュも同じだった。
何故突然あんな事をしたのか、一番気になっていた。
ソウシ
「でもヒロインちゃん、目が覚めたばっかだし
食事もしてないから…」
ヒロイン
「いいんです!
…ちょうど皆さんにも聞いて頂きたかったので…」
ヒロインは顔を上げ、真っ直ぐにジョルジュを見つめた。
それからメンバーとジョルジュは食堂に向かい
ヒロインを囲って座った。
ヒロイン
「あの…本当に今回はすみませんでした…
助けて頂いて…」
シン
「いいからさっさと始めろ」
ヒロイン
「あ…は、はい!」
そう言うと、ヒロインは一度医務室に戻り持ってきた
小さな古びたノートをテーブルに置いた。
リュウガ
「…何だコレ…」
ヒロイン
「…コレはジョルジュさんのおばあさんが書いた日記です」
ジョルジュ
「!?」
その言葉に反応して、ジョルジュは目を丸くした。
ヒロイン
「…黙っててごめんなさい。
ジョルジュさんの船に乗っている時
私の使っている部屋に置いてあった箱の中から出て来たんです」
ジョルジュはゆっくりと手を伸ばし、パラパラとページを捲る。
ヒロイン
「…ジョルジュさんのおばあさん…ヤマトの出身だったんですね…
書いてある文字もヤマトの言葉だったので…」
ジョルジュはページを捲りながらも、文字を読み取る事は出来なかった。
ジョルジュ
「…こんなのがあったなんて知らなかった…
でも何でオレに話してくれなかった?」
ヒロイン
「…見つけたのが港に着く直前で…
それにここに…」
ヒロインは最後のページを指差した。
ヒロイン
「『どうか正しい道を示しますように…』って書いてあります。
ジョルジュさんの中で、お父さんは悪い印象しかなくて
あの状態のジョルジュさんにこの話をしたら、
きっとおばあさんが伝えたかった気持ちが消されてしまうと思ったんです」
ヒロインは知っていた。
ジョルジュが洋服の下に、銃とナイフを隠し持っていた事を。
父親を殺す覚悟でいるという事を…。
ヒロイン
「…だから…だから私が伝えたかったんです。
ヤマトの血が流れている私だったら、お父さんも何か感じるかもって…」
ジョルジュ
「それでもっ! それでもお前があんな思いをする事はなかったはずだ!」
ヒロイン
「…確かに、銃を向けるお父さんの前に飛び出したのは軽率でした…
でも伝えなきゃって思ったんです。
あの時、私が言った事は全て本当です。
お父さんは妹さんを孤児院に届けた後、おじいさんに手紙を出して
何とかして欲しいと願っていた。
…そして、ジョルジュさんが大きくなり
造船の腕に才能を感じ、娘を捨てた罪悪感と
ジョルジュさんへの嫉妬…
何としてでも事業を成功させようと、魂まで売ろうとしていると…
おばさんもおじいさんも、全て分かっていたようです…」
ジョルジュ
「そんな…
親父をあんなにさせたのはオレって事か?」
ジョルジュの顔が蒼白し、クシャッと前髪を握り
俯いた。
リュウガ
「…それは違げぇだろ。
ばあさんが何の為にこの日記を残して、
じいさんがお前に隠し財産のありかを教えたと思う?」
ジョルジュは混乱する思考のせいで、答えを導き出せない。
ヒロイン
「あなたとお父さんで、クォーツ家の事業を立て直して欲しかったからですよ!
お父さんは心が弱く、支えてくれるはずの奥さんの存在が逆にツラく
あの時言っていたように、孤独だったんだと思います…」
ジョルジュは幼い頃の記憶を呼び起こす。
記憶の中の母親は、いつだって父親を罵り
「ダメな人間だ」と幼い自分に毎日のように言ってきた。
そして最後は他に男を作り、父親に分かるように男を家に呼んだりもしていた。
ヒロイン
「…ジョルジュさん…お父さんの事…許せますか?」
ヒロインの問いかけに、ハッと意識を戻したが
その質問にはすぐに答えられなかった。
ヒロイン
「…ジョルジュさんが探している物、私多分どこにあるか分かります。
おじいさんが隠した財産…
良かったら、おじいさんから教わった言葉を教えてくれませんか?」
するとジョルジュはポケットに手を突っ込み
擦り切れた紙を広げた。
ジョルジュ
「…これだ…死に際にじいちゃんが言った言葉…」
その紙にはこう書いてあった。
『あおい家を焼け 時計がうしのこくを差したら
一気に火を放て』
ジョルジュ
「…青い家なんてどこにでもあるし、うしのこくって意味分かんねぇし…」
するとソウシが声を上げた。
ソウシ
「コレって…ヤマトの古い言葉じゃないの?」
ジョルジュ
「何!?」
するとヒロインはゆっくり頷いた。
ヒロイン
「そうです。
今では使わない言葉ですが、昔の人は使っていたはずです」
ジョルジュは驚いて、ヒロインを見つめた。
ジョルジュの祖母は12歳の頃に亡くなっている。
優しい人という記憶はあるが、ヤマトの人間だった事は知らなかった。
ヒロイン
「…あおいと言うのは、『緑』の事で
牛の刻は…確か午前2時頃を差すと思います。」
ジョルジュ
「緑の家…?」
ヒロイン
「…お父さんがジョルジュさんに薬を持ってくるように言った倉庫…
あの倉庫、緑じゃないですか?」
ジョルジュ
「!」
シン
「…なるほどな…
じいさんは違法薬品の売買も知っていて、お前に焼き尽くして欲しかったって事か…」
ジョルジュ
「だったらそう言えば…!」
その言葉を口にした途端、ジョルジュはハッとした。
祖父が息を引き取る直前、祖父のベッドの周りには
たくさんの人がいた。
最後まで息子を庇い、祖母が使っていたヤマトの古い言葉を用いて
孫の自分に止めさせようとしていたのだ。
それなのに自分は、父親への憎しみだけで
3年近くもの歳月を無駄に過ごしていた。
反りの合わない父親への反抗と、悪事を知った時に感じた嫌悪。
祖父から聞いた財産の隠し場所を探すのに躍起になり
父親の事を考え出したのは、ここ数ヶ月の事だった。
結局、父親から逃げ出した事を解決しない限り
祖父の志しも、金も、全て手に入る事は出来なかったのだ。
本当の父親は、優しく慈悲深い人。
祖母の残した日記が、ジンワリと滲む。
リュウガ
「…ジョルジュ、こうなったら
今日は宴じゃなく、派手にキャンプファイヤーでもするかっ!」
しんみりした気分だったジョルジュは、
リュウガの言葉に拍子抜けした。
そして、腹を抱えて笑い出した。
ジョルジュ
「クッ…くはっ! クククッ
普通もっと気ぃ使うだろっ!? ふはははっ!!!
あ~~ハラ痛てぇ~~クククッ…そうだな!
ど派手にキャンプファイヤーするかっ!」
リュウガの陽気な言い方に、ジョルジュはクヨクヨ悩んでいるのが
馬鹿らしく思えてきた。
ジョルジュ
「…よっし! そんじゃ付き合ってくれるか?
って…何でそんな遅い時間なんだ?
そんな時間に火ぃつけたら、騒ぎが起きちまわねぇか??」
確かに昼間に火をつけるのも目立つが、夜中にしている方が
逆に怪しまれる。
すると、ソウシが言った。
ソウシ
「…どれだけ倉庫に薬があるのか分からないけど、
倉庫ごと燃やす訳だから、燻されて薬品の煙を関係ない人たちが吸い込まないようにする為とか…」
トワ
「あぁ! なるほど!!
…というか、僕たちも大丈夫なんてしょうか?」
ソウシ
「量にもよるけど、今回の薬は
濃度の濃い物を急激に吸引したり、常習しないと
人体にはそれほど影響はないよ」
それを聞いて、皆安心した。
ハヤテ
「…てかよー、聞いてて思ったんだけど
そもそも財産ってあんのか?」
リュウガ
「あ?」
ハヤテ
「だってよぉ、じいさんはその薬を燃やして
ジョルジュの親父さんを立ち直らせようとしたんだろ?
そこに金があるかなんて、分かんねぇじゃん!」
『財産』が必ずあると 信じ込んでいたメンバーとジョルジュは
意表をついた発言に目を丸くしてハヤテを見た。
ハヤテ
「あ? 何だよ?」
シン
「…お前、どっか頭でも打ったか?」
ソウシ
「今回、結構頭使ってるよね、ハヤテ」
ハヤテ
「どーいう意味ッスか?」
ジョルジュも今気づかされた。
祖父は『財産』とハッキリ言ってきた訳ではない。
『頼みたい事がある。
お前が意志を受け継いでくれ…
そうすれば豊かになる』
祖父はそう言っていた。
『豊になる』が自分の中ですっかり『金』に変換されていたが
ハヤテの言う通りかもしれない。
ジョルジュはここまで巻き込んでしまった事に申し訳なくなり
胸が痛んだ。
シリウスのメンバーの事は、心底信頼している。
財産が見つかったら、根こそぎ渡してもいいとさえ思っていた。
だが、財産がないとなったら
何を返せばいいのだろう。
ヒロインを怪我させた上に、錯乱状態の父親の介抱や
気持ちの面でも、相当助けられた。
その恩に値する物なんて、何も持ち合わせていない。
表情が強張るジョルジュを察し、リュウガはまた陽気な声で言った。
リュウガ
「今夜のキャンプファイヤーは盛大にしようじゃねぇかっ!
お宝があるかないかなんてどうでもいい。
サルマのじいさんが燃やせって言ってるんだから、やるしかねぇだろ!」
リュウガがそう言うと、メンバー全員優しい笑みを浮かべ
ジョルジュを見た。
ジョルジュ
「…いいのか?
ホントに何もないかもしれねぇぞ?」
リュウガ
「いーんだよ!
終わった後は宴だぞっ!」
シン
「…終わった後って、午前2時以降から始めるという事ですか?」
リュウガ
「あ? 何か文句あっか?」
メンバー
「「………」」
視線を泳がすメンバーを見て、ジョルジュは小さく笑った。
そして「ありがとな」と呟いた。