コトダマ
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ソウシ
「…よしっ! 血も止まったね!」
カランっと音を立てて、消毒液を浸したガーゼとピンセットをトレーの上に置くと
ソウシは丁寧に包帯を巻いてくれた。
ヒロイン
「…ありがとうございます…」
申し訳なく呟くと、ソウシは「はぁ…」とタメ息を漏らす。
ソウシ
「…ヒロインちゃん、もっと自分の事を大切にしないとね?
自分から撃たれに出るなんて、正気じゃないよ?」
ソウシにそう言われ、ヒロインはベッドで横になりながら
ションボリと目を伏せた。
ヒロイン
「…伝えなきゃって思ったんです…
おじいさんとおばあさん…妹さんの想いを…」
ヒロインは撃たれていない右手をギュッと握った。
ソウシ
「…うん… 分かるよ?
でも2発目の銃弾はヒロインちゃんの頭を貫いていたよ?」
ヒロイン
「え…?」
ソウシ
「今こうしてここで話していられるのは、ナギとシンのお陰。
ヒロインちゃんの頭を狙った銃弾を弾いたのはナギの鎖鎌で
シンが父親の銃を弾き飛ばしたんだ」
ヒロインは目を丸くしてソウシを見つめた。
ソウシ
「…分かる?
死んでてもおかしくなかったって事。
使命感に燃えるのは正しい事だけど、身を守るのも立派な仕事だよ?
ヒロインちゃんはもっと危機管理を…」
いつも穏やかなソウシも、今回はさすがに肝を冷やし
つい感情的にヒロインを諭していた。
すると医務室のドアが開き、ナギが顔を出した。
ソウシ
「…私は街で痛み止めと、消毒液買い足してくるね?
ナギ、もし血が滲んできたら包帯とガーゼ換えてあげて?」
そう言ってソウシは部屋を出て行ってしまった。
怒りのオーラ全開のナギと2人きりになり
ヒロインは緊張感に襲われ、手に汗を掻いた。
なかなか話しかけられず
背中を向けているナギの様子を伺っていると
突然バンッと薬品の入った棚をナギの手が力強く叩いた。
ヒロイン
「っっ!」
ビクッと体が跳ねた。
怖くて声も出ない。
…こんな女、もう彼女にする気にもなれないだろう。
周りが何も見えてなく、あまりにも無防備な自分を悔いた。
そしてまだ着替えをしていないナギのシャツには血が付いたままだった。
船まで必死に運んでくれたナギ。
ナギに抱かれた事に安心して、なすがまま身を任せていた。
今思えば、ナギの顔は必死で
悲しみで歪んでいたようにも思える。
そんなナギの気持ちも考えずに、ヒロインは心配掛けさせまいと笑って見せたが
ナギは余計に顔をしかめた。
ヒロイン
「ナ…ナギ…」
ヒロインの目には涙が浮かんでいた。
もう滲んでナギが見えないくらいだ。
ヒロイン
「…ごめんなさ…」
ナギは背中を向けたまま、一言も話してくれない。
数日前にジョルジュの手伝いをすると勝手に決めた時も
ナギがこうして怒ってくれたが
その時とは空気が全然違う。
ナギとヒロインの間には、もう何もなくなってしまったかのように
胸を切り裂くような沈黙しか返ってこない。
また新しい涙が浮かび、堪え切れなくなり
ボロッと目の端から零れ落ちる。
ヒロイン
「…ナギ…」
ヒロインはようやく理解した。
自分がした事の意味を。
ジョルジュの役に立ちたいと思った。
そしてあの父親を救いたいと思った。
それだけしかなかった。
その結果、自分の大切なモノを失いそうだ…。
ヒロインは右手でゴシゴシと涙を拭い
ゆっくりとベッドから起き上がった。
ヒロイン
「っ!」
少し動かすだけで、左腕は悲鳴を上げる。
それでもナギに言わなきゃいけない。
ヒロインはベッド下にある靴を足で寄せて
踵を踏みながら履くと
ナギの傍まで歩いた。
ヒロイン
「…ごめんなさい…」
一歩近づく度に、その言葉を口にする度に
涙腺を刺激して、また涙が浮かんでくる。
ヒロイン
「…ナギ…ヒッ…ごめっなさっ…」
視界がまたボヤける。
だけどナギの背中からは目を離さなかった。
ヒロイン
「ナギ…あっ!」
ちゃんと履いていなかった靴のせいで、足元がおぼつかず
ヒロインは躓いてしまう。
するとずっと背中を向けていたナギが振り返り
ギュッと抱きしめてくれた。
ヒロイン
「! ナギ……」
ナギ
「……っ!」
ヒロイン
「!!?」
抱きしめてくれたナギが、深く肩に顔を埋める。
その感触で分かった。
(…ナギ…泣いてるの?)
ヒロインは慌ててナギから体を話し
ナギの頬に手を掛け、顔を上げさせた。
ヒロイン
「!!!」
目を伏せていたが、ナギは泣いていた。
ヒロインは胸が締め付けられ
さらに涙が溢れ出した。
ヒロイン
「…ナ…ギ…ホントに…ヒッ…ごめ…なさっ…」
ナギは堅く目を閉じたまま、何も言わない。
ヒロイン
「…グズッ…ナギ…?」
ナギ
「…やっぱ…無理だ…」
ヒロイン
「え…?」
その言葉に心臓がドクンと音を立てる。
一体どういう意味なのだろう。
ヒロインは固まったままナギを見つめていると
ナギはゆっくりと目を開けた。
ナギ
「…客観的になんて無理だ。
お前が決めた事でも、黙って受け入れるなんて出来ない。
これからも危険な事をする時は反対するし
やる事になっても、今回みたいに離れて見てるなんてしない
傍でお前を守る!!」
ヒロイン
「!」
少し潤んだ茶色の瞳が、強く見つめてくる。
こんな状況なのに、ヒロインの胸はキュンと疼き
愛しさが増した。
ヒロイン
「…ナギ…怒って…ないの?
私…スゴイ自分本位で…」
ナギ
「…確かにお前がジョルジュの前に出た時、そんな感情も湧いたが
お前が真っ直ぐに伝えようとしていた事は分かった。
…だけど、あんなギリギリになるまで見てなきゃなんねぇのは
やっぱり無理だ」
そう言ったナギの表情が、拗ねた子供の様で
ヒロインは嬉しくて、そっとナギの頬に手を掛けた。
ヒロイン
「…ありがとう…グズッ…スゴク嬉しい…
嬉しぃ…ヒッ…」
ナギにもっと怒られると思っていた。
何も考えずに飛び出し、その上撃たれ
助けてもらった。
結局無力な自分は、皆に助けてもらうしかないのだ。
やはりどう足掻いても、他のメンバーのように
役に立つ存在にはなれない。
だが、ナギがそうまでして守ろうと思ってくれている事が
何より嬉しかった。
呆れられて、嫌われたと思っていたからだ。
安心すると、また涙が浮かび
ボロボロとこぼれた。
ナギ
「ふっ…お前泣き過ぎ…
オレもここに居るから、ベッドで横になれ
傷口が開いたら大変だからな」
ヒロイン
「グズッ…ん…」
ナギの柔らかな笑顔を見て、また心の中がじんわり温かくなる。
ナギが腰に回した手をそっと解くと、少し寂しさが襲った。
ナギ
「ん?」
表情に出ていたのだろうか?
ナギがどうしたのかと、不思議そうに見下ろしてきた。
ナギ
「腕…痛むのか?」
ヒロイン
「あ…んーん。 …少し痛いけど…大丈夫」
ナギにもっと甘えたいなんて、不謹慎にも程がある。
さっきまでの事を思い出すと、身震いするほど恐ろしい。
殺されていたのかもしれないのだ。
本当はずっとギュッと抱きしめて、ナギの腕の中に閉じ込められたい。
ナギの胸にいれば、何もかも委ねて安心していられる。
だがそれはあまりにも身勝手で、自分があんな事をしておきながら
ナギが許してくれたのをいい事に、都合がよ過ぎる。
そう思い、ヒロインはまだ残る恐怖感と腕の痛みは
自分への罰だと思い、ベッドへと上がった。
ヒロイン
「? …え?」
ナギ
「…奥行けよ… 仰向けじゃないと腕ツラいだろ?
ここのベッド狭いから、オレが横向きに寝る」
そう言ってナギはベッドに膝を置く。
ヒロイン
「ちょっ、ちょっと待って!
…ナギ、一緒に寝てくれるの…?」
ナギ
「あ? 何だよ、寝ちゃダメなのか?」
何を当たり前の事を聞いてくるのかと言わんばかりの表情に
ヒロインは目を見開いたまま固まってしまった。
ナギ
「あ…服、着替えてきた方がいいな。
ついでに風呂も入ってくる。
汗とかすげぇから、キレイにしてくるな」
ヒロイン
「えっ! ちょっとナギっ!」
ナギ
「眠かったら先に寝てていいからな?」
ヒロイン
「あっ!」
そう言って、こちらの話も聞かずに
ナギはさっさと部屋を出て行ってしまった。
ポツンと静かな部屋に取り残されたヒロイン。
あまりにも突然で、それでいて夢のようなナギの言葉に
ヒロインはすっかり心を持って行かれた。
そして『当然だろ?』とでもいう様なナギの表情を思いだし
クスクス笑った。
ヒロイン
「…ホントに大好き!」
ヒロインはギュッと枕を抱きしめたが、思いの外傷に触り
その痛みに悶絶した。
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ナギが戻ってきたのは、それから10分程してからだった。
ヒロインはベッドの中に入っていたが、ドキドキして眠るどころではなかった。
カチャッとノックも無しにナギが部屋に入って来ると
何故か胸がドキッと跳ね、緊張した。
ヒロイン
「…お帰り…」
少し布団を捲り顔を出すと、ナギはいつもの洋服に着替え
首にタオルを掛けて入ってきた。
ナギ
「寝てなかったのか?」
ヒロイン
「…ん… 何だか寝付けなくて…」
それはナギが来る事を期待して、妙に興奮してしまっていたからだ。
フワッとボディーソープの香りが鼻をくすぐり
ヒロインの緊張感を一層高める。
今から体を結ぶ訳でもないのに、聞こえてしまいそうな胸の鼓動はなんだろう。
不自然に視線を逸らすヒロインを不思議に思い
ナギはギシッと音を立ててベッドへ上がると
ヒロインの上に跨がった。