Magnolia
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・・・・・・・・・・・・・・・
晩餐会は想像以上に華やかだった。
そもそも、城に居る事も
こうして晩餐会に出席する事も、海賊であるナギ達には縁のないものだ。
着飾った紳士、淑女が、気品溢れる振舞で
食事や音楽を楽しんでいる。
ハヤテ
「スッゲーご馳走!」
ソウシ
「ハヤテ、エドの厚意なんだから
いつもみたいにがっついたりしちゃダメだよ?」
シン
「…言ってるそばから、山盛りの皿三枚持っているのは
脳みそが少ないからか?」
ハヤテ
「!」
今にもかぶりつきそうだったハヤテは、ピタリと動きを止めた。
リュウガ
「いやぁ~ それにしてもいい眺めなだなぁ
ご縁のない淑女がゴロゴロしてやがる!
こりゃ味見くらいしねぇとな?」
ゴクリと喉を鳴らすリュウガ。
トワと手を繋いでいたチビヒロインは、不思議そうにリュウガを見上げた。
チビヒロイン
「あじみ? たべちゃうの?」
無垢な視線を受け。リュウガは言葉が詰まる。
リュウガ
「う… それはだな…?
味見っていうのは…」
トワ
「船長! 何真面目に説明しようとしてるんですかっ!!
ヒロインちゃん、あそこにゼリーとかケーキがあるよ?
行ってみる?」
チビヒロイン
「うん♡」
トワの機転のお陰で救われたリュウガは、「ふぅ」と安堵のタメ息をついた。
しかし冷たい視線を感じ、リュウガは顔を上げた。
リュウガ
「な、何だよナギ!?」
ナギ
「…別に…」
そう言ってナギは、トワとチビヒロインを追い掛けた。
リュウガ
「チッ… 何だよ。
オレが何しようと勝手だろうが、なぁソウシ」
助けを求めるようにソウシの肩に手を掛けたが
ソウシはスッと歩き出した。
ソウシ
「船長、私は言いましたよ?
エドのご厚意だって… 節度を持って下さいね?」
ガクッと肩すかしをくらったリュウガ。
目の前にコレだけ獲物がいるというのに、耐えろという事か?
生殺しとも言える状況に、リュウガは悶絶していると
クイッとズボンを引っ張られる感触が走った。
リュウガ
「?」
チビヒロイン
「せんちょっ! あじみ!!
いちごのババロア!」
必死にカップとスプーンを持ち上げているチビヒロインを見て
リュウガの欲情は、あっけなく崩れ去った。
リュウガ
「…あぁ、『味見』な?」
小さな手からイチゴのババロアを受け取ると
リュウガは膝を折って、チビヒロインと一緒に味見をした。
・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくナギ達は、誰とも接しないよう
なるべく人目を避け、食事を楽しんでいた。
もしここで海賊がいるなんてバレたら、エドモンドの信用にも関わってしまう。
しかし夜も更けてきて、チビヒロインは何だか眠たそうにしている。
ナギ
「ヒロイン? 眠いか?」
何度も目を擦り、ボンヤリとしているチビヒロイン。
もう間もなくダンスの時間になると思うのだが、
エドモンドは明日お見合いをする令嬢一家に囲まれて
とてもこちらへ来れそうな雰囲気ではない。
ナギ
「どうする? もう部屋行くか?」
手を繋ぎながら、チビヒロインはブンブンと顔を振る。
しかし眠けには勝てないようで、段々と目がトロンとしてきた。
ソウシ
「ふふっ、もう限界じゃない?
部屋連れていったら?」
しかしチビヒロインは、頑固にも「いや!」の一点張り。
どうしたものかと困っていると、部屋の照明が落ち
音楽を奏でていた奏者達が楽譜を入れ替えた。
そして緩やかな舞踏曲が流れ始めた。
ハヤテ
「ヒロインっ! ホラ始まったぞ!!
しっかりしろ!」
ハヤテにホッペを突かれ、寝入ってしまいそうだったチビヒロインはハッとした。
トワ
「でもエドさん、こっちに来れるんですかね…?」
シン
「さっきから囲まれてるし…
相手の両親は、よっぽどこの結婚を成功させたいらしいな?」
噂通り、令嬢はとても可憐で慎ましい雰囲気の女性だった。
とても近くでなんか見る事はできないが、国王の嫁としては
充分なように思える。
乗り気では無かったエドモンドも、ひょっとしたら気が変わったのではないか?
そう思ったナギは、そっとチビヒロインを抱き上げた。
ナギ
「ヒロイン、エドは来れないと思う。
今日はもう部屋に戻って寝よう」
チビヒロイン
「いやぁ! おやくそくしたもん!!」
リュウガ
「ヒロイン、そんじゃオレと踊るか?」
気分を変えさせる為、そう提案したが
思い切り首を振るチビヒロイン。
意外にも、その反応が寂しくて
リュウガはションボリしてしまった。
ソウシ
「ふふっ、船長弱いですね?
じゃあヒロイン姫、私とはいかがですか?」
それでも首を振るチビヒロイン。
ハヤテ
「面倒臭ぇなぁ… 誰だったらいいんだよ?
オレと踊るか?」
ハヤテが自信満々に言ったが、チビヒロインは首を振った。
チビヒロイン
「おうじさまっ!」
意固地になってそう言う姿は、少しだけ大人のヒロインを思い出させた。
ナギ
「…だからエドは…」
シン
「ヒロイン、オレと踊ろう。
さっき魔法使いの執事に頼んで王子にしてもらった」
シンの真実味たっぷりの言い方に、チビヒロインはナギの胸から顔を上げた。
事実、シンは一国の王である事は間違いない。
チビヒロイン
「…ホント?」
シン
「ウソだと思うなら踊ってみるか?」
余裕の笑みを浮かべるシン。
チビヒロインは、コクンと頷き
ナギの胸から降りた。
ハヤテ
「汚ねぇぞシン!」
シン
「頭を使えば済む話だ。
まぁ、お前の低脳な頭じゃ到底無理だろうがな?」
ハヤテ
「あ?」
チビヒロインを取られた悔しさと、屈辱的な言い方に
カッとなったハヤテ。
ソウシがグッと肩を掴んで、ハヤテをなだめた。
…というより、メンバー皆が当たり前のように
チビヒロインを奪い合っているが
これが大人のヒロインだったらと考えると
ナギは無性に腹が立ってきた。
そもそも子供のヒロインだって、誰かに抱き付いてたりするのはいい気がしない。
常に腕組みをして、ムスッと不機嫌でいるしか方法がない事がもどかしい。
「触るな」とか「抱き付くな」とか、本当は言ってやりたいが
そこまで大人気ない自分ではない。 …多分。
背中を屈めたシンが、チビヒロインの手を取ってリードしながら踊っている。
あのシンの嬉しそうな顔…。
あんな柔らかく笑う男だっただろうか?
そんな事を思いながら、2人を見つめていると
隣にソウシが立った。
ソウシ
「ふふっ、顔怖いよ?ナギ」
手に持っているグラスを傾けながら、ソウシも微笑ましくシンとチビヒロインを見つめている。
ナギ
「……ドクター…今回の原因分かりました?」
ソウシ
「う~ん… それなんだけど…
しっかり調べた訳じゃないから確定できないけど
多分紅茶かなって思う…」
ナギ
「紅茶?」
ソウシ
「うん。 ナギとヒロインちゃんが着替えに行っている時聞いたんだけど
大広間で飲んでいた紅茶は、この国特産の果実が入ったフレーバーティーだったんだ。」
そう言われて、ナギは確かに飲んだ時
フルーツの香りがした事を思い出した。
ソウシ
「その果実の成分が反応したんじゃないかって…
でももしそうなら、前回や前々回のように効果が続くのは長くないかも。
紅茶もそんなに飲んでいなかったし…」
そう言われ、ナギはハッとしてチビヒロインを見た。
いつもは2日程度子供のままなので、スッカリ気が抜けていたが
今この状況でも大人に戻る可能性があるという事だ。
ナギは慌てて取り囲む人だかりを掻き分けて
シンとチビヒロインの元へと向かった。
…が、運悪くエドモンドがその場に現れた。
エドモンド
「ヒロイン、待たせてしまったね?
私と踊ってくれるか?」
これ以上、人目を引く事を恐れたナギが
止めに入ろうと思ったがチビヒロインはどこで覚えたのか
ドレスの端を両手が軽く摘まむと、ちょこんと膝を曲げた。
チビヒロイン
「はい よろこんで!」
ナギ
「!!」
その可愛らしい仕草に、取り囲んでいた観衆は微笑ましい笑い声を上げ
エドモンドとチビヒロインを見守った。
ナギ
「チッ」
ナギは焦っていた。
今元に戻ったらどうする?
どうやって言い訳をする?
そんな考えがグルグル駆け巡るが、こうして見ている事しかできない状況に苛立っていると
横にいたソウシが不思議そうに尋ねてきた。
ソウシ
「そんなに心配ならお迎えにいけばいいのに…」
(迎え!?)
この大注目されている最中、エドモンドとチビヒロインの元へ行けという事か?
到底無理のようにも思えたが、だがナギはグッと拳を握り
輪の中心を目指して歩き出した。
エドモンド
「そう上手だな?
ヒロイン姫と踊れて光栄だ」
エドモンドの言葉に、チビヒロインは嬉しそうにニコニコ笑っている。
エドモンドは夢でも見ているようだった。
ヒロインが子供になってしまった事も驚きだったが
それよりもここにヒロインが居るという事が、何かの啓示のように思えて仕方がない。
自分の胸の中には、ヒロインしか居ないのに
国王であるが故に、国の為に結婚相手を決められてしまう。
今回の話も、『お見合い』と言われているが
その実情は『婚約』だった。
散々女遊びをしてきたエドモンドだったが、
一途な想いを見つけた途端舞い込んできた話だった。
現実問題、自分がヒロインと結婚なんて出来る訳がない。
諦めなくてはいけない恋だと、胸の中から消し去ろうとしたが
その想い人は、タイミングよく現れた。
そして晩餐会で、みんなの見守る中
手を取り合いながら踊っている。
躍っている相手は子供のヒロインなのに、エドモンドは面影のある笑顔を見る度に
胸が焦がれた。
エドモンド
「ヒロイン? 会えて嬉しかったぞ?
…? ヒロイン?」
チビヒロインにしか聞こえないような声で囁いたが
チビヒロインは何だか足元がフラフラとしている。
エドモンド
「どうした? ヒロイン…?」
エドモンドが足を止めて、膝をついてチビヒロインを覗き込むと
チビヒロインは両手をグーにして目を擦った。