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退屈な日というのは、突然やってくる。
一言に、『海賊』といえば
ドキドキハラハラするような冒険と隣り合わせで
敵対する海賊に襲われたり、甲板の上で仲間同士がケンカをしたり
浴びるように酒を飲んでいたり…。
そんなイメージがあるかもしれない。
…だが、この状況…
ヒロインは二階のデッキから、甲板を見下ろした。
甲板の床ではハヤテとトワが大の字で昼寝をしている。
そして船首では、ナギが釣りをしている。
そういうヒロインだって、デッキの格子の柵に足を投げ出し
プラプラさせながら、こうして皆を眺めている。
後ろの航海室では、シンが読書に耽っている。
ソウシはきっと医務室で薬品の研究をしているだろう。
そう考えると、リュウガは海賊らしい行動をとっているのかもしれない。
船長室で、浴びるほど酒を煽っている。
…まぁ、いつもと変わらないと言った方がいいかもしれないが…。
ヒロイン
「…はぁ…」
お宝探しをする気配も、どこかの港による様子もない。
ナギの釣りを手伝いに行こうと、立ち上がった。
甲板に降りるには、シンのいる航海室を通って行かないといけない。
ヒロインは航海室のドアを開けて、足を踏み入れると
シンが本から顔を上げた。
シン
「どうした?
もういいのか?」
ヒロイン
「はい… ナギの釣り手伝ってきます…」
シンは読書をしながらも、デッキにいるヒロインの存在を気にしていた。
ぼんやりする表情も、暇過ぎて不貞腐れている姿も
何だか可愛く思えて、居たいだけそこに居ればいいと思っていた。
シン
「本でも読むか?」
シンは苦し紛れに、引き止めた。
ヒロイン
「えっ?! いいんですか?」
思いの外、かなり食い付いてきた。
本を汚されるのが何より嫌いなシンは
滅多に本を貸したり、読ませたりしなかった。
シン
「……と言っても、新しい本なんてないがな…」
ヒロイン
「…ですよね…」
これだけする事がないと、本棚いっぱいに詰まっている本も
全て読んでしまう事だってできる。
シン
「ここの所港にも寄ってないしな」
そう言いながら、視線は手元の本にあるシンに
ヒロインは聞いた。
ヒロイン
「…シンさん、その本読むの何回目ですか?」
するとシンは、サラリと答えた。
シン
「五度目だ」
それを聞いて、ヒロインは「はぁ…」とタメ息を漏らした。
前に港に寄ったのは10日前。
その港でも大したお宝情報も掴めず
備品と食料の調達くらいで終わった。
それからあてもなく、ゆらゆらと海を彷徨い
今日に至っては碇を降ろしている始末だ。
初めの数日は、前に寄港した時に買い込んだ本や
果物を乾燥させたり、果実酒を作ったり…
他のメンバーもせわしなく動いていたが…。
ヒロインはふと広げてある海図に目を向けた。
地図の上では、こんなにもたくさんの島があるのに
どうしてどこにも寄らず、海に浮いているのだろう。
いい加減、潮の匂いにも飽き
陸地でゆっくり風呂にでも入りたい。
もう一度タメ息をつこうとしたが、ヒロインは何の気なしにシンに聞いた。
ヒロイン
「…今どの辺りにいるんですか?」
するとシンは面倒臭そうに顔をしかめ、
大きなタメ息をつくと、本にしおりを差して立ち上がった。
てっきり口で言われると思っていたヒロインは
まさか立たせてしまう事になるとは…と
オドオドしながらシンを見つめた。
そしてトンッとシンの長い指が海図の右側の海を指す。
ヒロイン
「! ここですか?!」
シン
「そうだ… どうした?」
指した先を目を輝かせながら見つめるヒロイン。
そして興奮気味に言った。
ヒロイン
「シンさん!! ここってエドさんの国ですよね?
今いる所からだと…えっと、三時間もあれば着けますよね?」
時折教えてもらった測量の仕方をしながら
ヒロインは言った。
その読みの正確さに、シンは真面目に教えを守っていると嬉しくなった。
シン
「そうだな。 だが、今は追い風だ。
帆を張れば二時間ちょっとで港へ着くだろう」
ヒロイン
「スゴイです! 船長行く気になりますかね?」
シン
「…さぁな… 気分屋は扱いづらい」
ヒロイン
「任せてください!!
シンさんっ船長のお部屋いきましょう!」
今のこの状況を打破したいのは山々だが、
船長を口説くというのは何とも面倒だ。
しかも酒に溺れている状況で
まともに話が出来るとは思えない。
シン
「はぁ…」
何を根拠に「任せろ」と言っているかも分からず
シンは仕方なくヒロインの後を追った。
船長室は航海室の隣にある。
ドアを開けなくても漂う酒の匂い。
窓も開けずに、酒浸っているリュウガの姿が目に浮かぶ。
ヒロインはお構いなしにドアをノックした。
コンコン
ヒロイン
「船長ー? 入りますよー?」
大きめの声で呼んでみたが、返事はない。
シンを見上げてみたが、顔色ひとつ変えず
冷たい視線を送ってくる。
気を取り直して、もう一度「入ります」と声を掛け
ドアを開けた。
部屋の外で感じていた酒気は、部屋の中では
むせかえる程だった。
ヒロイン
「うっ……せ、船長?」
鼻と口を手で覆いながら、リュウガの所在を探す。
シン
「…あそこにいる」
シンはこの匂いに慣れているのか、涼しい顔をして
机の後ろから飛び出している黒いブーツを履いた足を見つけた。
ヒロイン
「! た、倒れてます!」
その足の周りには酒瓶が転がり、中には中身の入ったものがこぼれ出ているのまであった。
ヒロインは慌てて駆け寄った。
ヒロイン
「船長! 船長っ!!」
ユサユサとリュウガの体を揺する。
しかしリュウガは一向に反応しない。
ヒロイン
「シンさん! 船長大丈夫でしょうか?!
もしかして一気に飲み過ぎて、気を失ってるとか…」
不安になりながらシンを見上げたが、それでもシンは表情を変えず
横たわっているリュウガに話し掛けた。
シン
「…船長。
とびきり綺麗な女が、船長が居ないかと会いに来ていますが
その様子では、断った方がいいですね?」
その言葉にヒロインは呆れてしまった。
確かにリュウガにとっては魅力な言葉だが
ここまで泥酔しているリュウガにも果たして利くのだろうか…。
リュウガの反応を見ていると、「うぅ…」という
唸り声が聞こえたが、起き上がる事も話を聞く状況でもない。
チラリとシンを見ると、何とも面倒臭そうな表情を浮かべている。
シン
「チッ… しょうがねぇな…
ヒロイン、ちょっとこっちこい!」
ヒロイン
「えっちょっシンさん?」
シンに腕を掴まれ、無理矢理に立ち上がらされると
シンは急にギュッと抱きしめてきた。
ヒロイン
「!? なっ!何してんですかっ!
離してくださっ!!」
シン
「ジタバタ動くな…」
ヒロイン
「っ!」
耳元で囁くように話すシン。
(これってなんだか…)
突然の事に、ヒロインはピキッと体を硬直させた。
シン
「船長起こしたいんだろ?
だったら少し協力しろ…」
ヒロイン
「きょっ…りょくって…
やっ! シンさんダメっ!」
耳にシンの息が掛かり、そして首筋に唇が触れる感触が走る。
シン
「…もっと船長が好きそうな声だせよ…」
ヒロイン
「そんなの…っ!」
シンの作戦は分かったが、こんなのって許される訳がない。
思いっ切りシンの胸を押し返し、必死に抵抗した。
ヒロイン
「やめてください!
こんな事しなくても船長起きますからっ!」
シン
「ふっ… 大人しくしてろ」
見上げたシンは、なんだか熱を帯びた目をしている。
一気に警戒心が騒ぎ出し、ヒロインは尚も暴れた。
ヒロイン
「離してください!!」
そう言って勢いよく、シンの胸から離れると
そのまま後ろ向きにヨロケてしまい
寝ているリュウガの足に引っ掛かった。
シン
「ヒロイン!」
ヒロイン
「え…?」
そして背中からキャビネットへと倒れ込み
上に置いてあった酒瓶数本が、派手な音を立てて床に落ちた。
シン
「大丈夫か?」
ヒロイン
「痛ったぁ…」
背中を打ち付け、床に尻もちをついたヒロイン。
そしてゆっくりと床を見ると、顔が蒼白した。
ヒロイン
「シ、シンさん…どうしましょ…」
シン
「………」
割れた瓶から毀れた液体。
リュウガが大事に、毎日少しずつ飲んでいた
幻の銘酒…。
これを手に入れるのに、どれだけ苦労したかも知っている。
もう二度と手に入らないと、リュウガは満足そうに酒を飲んでいた。
ヒロインは自分がすっかり酒にまみれ、洋服もベトベトになっているというのに
頭の中はパニックを起こしていた。
さっきまで起きて欲しいと思っていたリュウガだが、出来るなら起きて欲しくない…
せめてこの瓶の始末が終わるまで…。
硬直したままでいると、モソッと何かが動いた。
シン&ヒロイン
「「!」」
リュウガ
「ん…ぁんだよ、ウルセーなぁ」
リュウガは目を閉じたまま、ムックリと起き上がり
頭を掻きながら大きな欠伸をした。
ヒロインもシンも一言も発せず、リュウガを見つめたまま固まった。
リュウガ
「…ん?」
ぼんやりと目を開けると、何だか妙の酒臭く
それに視線の先には、座り込んだヒロインがいた。
リュウガ
「…あ? 何でお前部屋にいるんだ?
さては襲いにきたか?」
そう言ってニヤリと笑うと、腕を掴み
グッと胸の中に引き寄せた。
ヒロイン
「せ、せんちょ!」
シンの存在には全く気付いていないようだ。
ヒロインを抱きしめたリュウガは、洋服が濡れている事に気が付いた。
リュウガ
「? 何だコレ…?」
しっとりと濡れた手にリュウガは鼻を寄せる。
リュウガ
「お前コレ…」
嗅ぎ覚えのある香り。
ヒロイン
「あ、あの船長…」
顔を引きつらせながら話すヒロインを見て
リュウガはハッとした。
そして乱暴にヒロインを押しのけると、ヒロインの背後に広がる光景に眩暈がした。
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