in my room
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中に入ると、既にメンバー全員が揃っており
ヒロインなしで船の図面を広げ
どこが削れるだの、どこをどうしたいだの意見を出して合っていた。
ヒロインは何ともつまらなそうに、部屋の隅でその光景を眺めていた。
あのナギですら、あんなに熱心になるなんて
やっぱり男の人は、自分よりいい物を見ると黙ってられないのだろうか…?
正直、ロイはあんな形で金を掛けずに船を改装したが
シリウス号は自分達で金を工面しなくてはいけない。
そうまでして、する必要があるのだろうか…
輪に入っていないヒロインに気づき
リュウガが声を掛けた。
リュウガ
「ヒロイン! そんなトコで何突っ立ってんだ?
こっちこい!」
ヒロイン
「あっ…はい…」
渋々輪の中に入ると、ソウシが優しい笑みを浮かべ話し掛けてきた。
ソウシ
「ヒロインちゃんは?
希望何かない?」
ヒロイン
「…希望ですか?」
トワ
「そうです! 船を改装するんですから
ヒロインさんの意見も聞きたいです!!」
嬉しそうなトワの笑顔を見て、何だか胸が痛くなった。
こんなにも皆がやる気になっているのに、それに乗れないのはどうしてだろう。
しかしこんな風に無関心でいるのは良くないと、ヒロインはひとつだけ希望を出そうとした。
ヒロイン
「あの…」
シン
「…ないなら言わなくていいぞ?
資金繰りが厳しいからな」
かぶるようにそう言われ、ヒロインは口ごもってしまった。
リュウガ
「まぁいい。
もう少ししたら島に着く。 その時改めて話そうじゃねぇか!
ロイの野郎みてぇに、無償で引き受けてくれる船大工に出会えるといいがよ?」
ニカッと笑うリュウガ。
そんな上手い話、そうそうあるものではない。
この場にいる皆と、かなりの温度差を感じながら
ヒロインは船長室を出た。
皆はまだ部屋に残っていたが、トワだけが廊下に出て
声を掛けてきた。
トワ
「ヒロインさん!」
その声にヒロインはハッとして、振り返った。
ヒロイン
「トワくん…どうしたの?」
トワ
「あの…ヒロインさん、大丈夫ですか?」
ヒロイン
「え?」
トワ
「…何か、元気ないみたいだったんで…」
ヒロイン
「あ、んーん。
大丈夫だよ? …トワくん、昨日リカー号から帰って来た時
元気なかったよね?」
トワ
「あれは…」
昨日のトワは明らかに様子がおかしかった。
トワ
「昨日リカー号に乗った時思ったんです。
僕たちこの船が大好きで、メンテナンスはいつもしてますけど
あぁやってキレイにしようとか、船を魅せるって事してなかったって…
海賊王の乗っている船なのに、普通に乗れるからって甘んじてたと思って…」
トワはそんな風に感じたのか。
確かに海賊王の乗っている船としたら、もっと豪華に派手にしていいのかもしれない。
しかしそんな見てくれがなくても、シリウスのメンバーは十分魅力的だとは思うが…。
これは自分が女で、ろくに海賊の事を知らないが故の無頓着な部分なのだろうか…。
トワ
「…ヒロインさん?」
ヒロイン
「! あ…そっか、そうだよね。
私昼ごはんの用意するね! ナギもあんな調子だから、ゴハンにまで手が回らなさそうだし」
そう言ってトワの前から逃げるように立ち去った。
この気持ちをナギやリュウガにぶつけるのは間違っているのだろうか…。
みんながあんなにも熱心に話し合っているのに
こんな話を持ち出したら、水を差してしまう。
ヒロインは今の気持ちに蓋をして、厨房で料理を始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・
30分位してから、ナギが厨房へ戻ってきた。
ナギ
「! 悪い、昼飯の用意してくれてるのか?」
驚いた顔をして、ナギがドアの前に立った。
ヒロイン
「うん。 もう終わるから平気だよ?
話し合い終わったの?」
ナギ
「…あぁ…」
何だか気のない返事をするナギ。
どうしたのかと、ナギを見つめた。
ナギ
「…お前、何だか嬉しくなさそうだな?」
ヒロイン
「…そんな事…ないよ?」
ナギから目を反らし、昼食で用意していた大量のサンドイッチを盛り付け始めた。
その姿を見て、ナギはやはり違和感を感じる。
ナギ
「…ちゃんと言えよ。」
ヒロイン
「………なんか…皆の雰囲気についていけないだけ…
私、この船に乗ったのも一番最後だし
みんなのように船の事分かってないし……それだけ!
もう出来たよ! 早く食べよ?」
そう言って振り返って見せた笑顔。
ナギはそれでも納得していないかのような表情をしている。
ヒロイン
「ふふっ、ナーギ!
大丈夫だってば! ね、今日のサンドイッチかなり自信作なの!
エビとアボカドのサンドイッチ絶対食べてね?
ハヤテさんに食べられる前に!」
ヒロインの笑顔は至って普通で、ナギは「あぁ」と答えて背中を見送った。
今回のシリウス号の改装は、ナギにも腑に落ちない点は多々あった。
だが、それ以上にナギの中でどうしても改装した部分があった。
まさにこれはいい機会だ。
ヒロイン
「ナギー?
スープ注いで来てくれる?」
食堂から声を掛けられ、ナギはハッとした。
ヒロイン
「?」
ナギ
「…あぁ、分かった。」
とにかく今は改装に向けて、金とそれぞれの希望との折り合いをつけなくては。
他のどの部分を譲ったとしても、ナギにはどうしても譲れない部分がある。
カップにスープを注ぎながら、ナギは固く決意した。
・・・・・・・・・・・
昼食はあっけなく終わった。
力作のエビアボカドのサンドイッチも、ハヤテに食べられてしまうし
食事中も改装の話ばかりで、誰も味の事なんて言ってはくれない。
ナギもやけに話に入り込み、ヒロインは疎外感を感じた。
その為、普段の仕事はおざなりになり
ヒロインはひとりで片付けるしかなかった。
洗濯物をしまい、たたみ
そして風呂掃除をして、船内の掃除。
クタクタに疲れ切ったところで、シリウス号は目的の島に到着した。
島の船大工に改装の依頼をする為
リュウガはひとりで船を降りていった。
残されたメンバーは、出来る限り自力で修繕をしたり
金になりそうなものはないかと、船内を探していたり…
誰一人、日常の仕事をするメンバーはいなかった。
不貞腐れながら仕事をしていると
いつの間にか夕方になっていた。
そして食堂でソウシとシンと話し込んでいるナギを見つめ
「はぁ…」と深いタメ息をついた。
(…この分じゃ、夕飯の事何も考えてなさそうだな…)
男の人はどうしてこうも、ひとつの事だけに熱心になってしまうのかと
半分呆れた気持ちで見つめていた。
たたんだ洗濯物をそれぞれの部屋に届けると
買い物カゴを持ち、ヒロインはひとりで街に買い物へ出ることにした。
甲板に出ても、誰も気づかない。
(…いつまでこんななんだろう…)
改装も新しい船を見せてきたロイも
全部が忌々しく思えてくる。
ヒロイン
「もぉ、好きなものいっぱい買ってやる!!」
ヒロインは、賑わう街へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・
リュウガが帰ってきたのは、もう日が暮れて
月が東の空に浮かび上がった頃だった。
トワ
「船長! お帰りなさい!!」
ソウシ
「どうでした?」
リュウガが戻ってきたのが分かると、甲板にメンバー全員が集まった。
リュウガ
「どうもこうもねぇよ。
どの船大工も、吹っかけてきて値切るどこの騒ぎじゃねぇ…」
シン
「ますますロイの話が胡散臭く感じますね」
ハヤテ
「えー!? じゃあ今ある金で出来るとこだけするって事ッスか?」
リュウガ
「これから宝探しっても、情報もねぇしなぁ」
ソウシ
「でもコレだけあれば、ナギの言ってる事は十分に出来るよね?」
ナギ
「…そうですけど…」
リュウガ
「? オイ、ヒロインはどうした?」
リュウガの言葉に、メンバー全員がナギの顔を見た。
しかしそのナギは驚いたようにソウシの顔を見た。
ナギ
「ドクターと一緒に居たんじゃないんですか?」
ソウシ
「え? 私は会ってないよ?」
ハヤテ
「甲板もウロウロしてたけど、オレもてっきりナギ兄と一緒かと思ってた」
ナギ
「!?」
それを聞いて、ナギは急いで船内に駆け込んだ。
リュウガ
「おめぇらも探せ!」
メンバー
「「アイアイサー!」」
そうしてメンバー全員が船内のあらゆる部屋を捜し回る。
一体いつからここに居なかったのだろう。
ナギは不安に胸が駆られる。
いくら改装に夢中になっていたとは言え、居場所すら把握してないなんて
どうかしている。
ナギ
「ヒロインー!!」
トワ
「ナギさん! 倉庫にもいません」
シン
「航海室も船長室もいないぞ」
ソウシ
「医務室もいないよ?」
すると廊下の奥からハヤテが叫ぶ。
ハヤテ
「風呂にも、どの部屋にもいねぇよ?」
リュウガ
「…船降りたって事か?」
その言葉にナギは顔を上げて、走り出した。
ソウシ
「ナギっ!!」
ナギは物凄い勢いでシリウス号を降りると
賑わう夜の街へと向かった。