糸
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リカー号に戻ると、ロイの手厚い歓迎を受けるチビヒロイン。
ロイ
「ヒロイン! もう泣くのはやめろ!
オレ様がおいしいケーキを焼いてやろう!
それとも歌でも歌うか?」
ファジーに抱き付いたまま、しかめっ面でロイを見つめるチビヒロイン。
ファジー
「ロイ様! 怯えてますよ!
まったく驚いたね、アンタ本当にヒロインなのかい?」
小さな手では届ききらないファジーの大きなオナカに
必死にしがみついている。
ロイ
「ん~~~こうも口を閉ざされてしまうと困ったものだ…。
先生の話だと、大人の時の記憶もないと言っていたな…」
何かを思いついたロイは、チビヒロインの傍に行き
チビヒロインの目線に合わせて膝をついた。
ロイ
「オレ様はこの船の船長のロイだ!
世界で一番美しい船長と知られている」
誰も突っ込む者はいない。
だが、そんなふざけた自己紹介が功を奏し
しゃくり上げていたチビヒロインが、少しだけ顔を上げた。
チビヒロイン
「…ヒック…ろい…せんちょ…」
ロイ
「!!!! そうだとも!
あぁ何て可愛い声なんだっ! ヒロイン、船長と呼びづらかったら『ロイたん』でもいいぞ!?」
チビヒロイン
「…ロイ…たん…?」
ロイ
「!!!!」
ズキューンとハートを撃ち抜かれたロイ。
デレデレの顔を両手で覆った。
ファジー
「…何やってんですかロイ様!
アタイはファジーだよ!
リカー号の女海賊さっ!」
チビヒロイン
「ふぁじーねぇちゃ…」
ファジー
「あははっ不思議だねぇ
ヒロインにそう呼んでもらえるなんてっ!」
チビヒロインは初めて近くで接する大人の女性に
とても興味を持っていた。
それに何だかとても安心する。
ファジー
「少し落ち着いたかい?
ノド乾いただろ? ジュースでも持ってきてあげようかね」
チビヒロイン
「………」
ようやく手が緩み、ファジーは厨房へと歩いて行った。
チビヒロインの小さな胸は、とても苦しく痛んでいた。
大好きなナギを困らせて、怒らせてしまった。
どうしたら許してもらえるのだろう。
ロイ
「ヒロイン! どうしたんだ!?
このロイ様に何でも言ってみるがいい」
目の前で軽やかに微笑むロイが何だかヒーローのように思えてくる。
だが小さいながらにも、警戒心が疼く。
おずおずと肩をすくめていると、ファジーが戻ってきた。
ファジー
「ロイ様! 何ヒロインを困らせてるんですか!
ヒロイン、オレンジジュース飲めるかい?」
チビヒロイン
「うん…」
ファジーからコップを受け取ると、ゴクゴクとノドを鳴らして飲み干していく。
よっぽどノドが乾いていたのだろう。
あれだけ泣けばノドも乾く。
ファジー
「バンダナが心配してるよ?
何があったんだい…」
チビヒロイン
「? ばんだな?」
ファジー
「あぁ、ナギだよナギ!
アンタが心配で、甲板をウロウロしているよ?」
チビヒロイン
「………」
すると、またまたションボリとしてしまうチビヒロイン。
ロイもファジーも困った顔をした。
ファジー
「まぁ小さくても色々あるよ!
よし、ヒロイン! 今日は一緒に寝るかい?」
チビヒロイン
「ほんと!?」
パッと顔を上げて、ロイとファジーの顔を見つめる。
ロイ
「何て素敵な思い付きだファジー!
もうシリウスに戻りたいなんて言わせないくらい
たっぷりもてなしてやるからな?」
チビヒロイン
「うん!」
ロイ
「!」
いつもだったら否定的な言葉が飛び出すところなのだが
やはり子供は純粋だと、ロイはそれ以上ふざけた言葉を慎んだ。
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ナギ
「はぁ!? リカー号に泊まらせる!??」
トム
「ヒロインがそうしたいって」
コリン
「ヒロインが言ってる」
リカー号の双子の兄弟がシリウス号に乗り込んできたかと思うと
とんでもない事を伝えにきた。
トム
「着替えを取りに来た」
コリン
「遊ぶものも取りに来た」
トワ
「…これって家出風な感じですね…」
ソウシ
「…参ったね…」
シン
「…チッ、目的地はまだ先だってのに
こんなところで足止め食うなんてな」
目の前でそれぞれが話す言葉は全く耳に入ってこない。
ナギはキッパリと言い放った。
ナギ
「ダメだ!」
トム&コリン
「「ヒロインがそうしたいと言っている」」
ナギ
「!!」
ナギは言葉を失った。
シン
「…思春期の娘が家出したと思えばいい」
面白そうに笑うシン。
ナギ
「アイツは娘じゃない!」
シン
「だったら、何故あそこまで怒る必要がある?
お前のしてる事は、まるで親のようだぞ?」
ナギ
「!」
誰かがそうしないと、チビヒロインが危険な目に合ったり
怖い思いをしてしまうと思った。
その役目は自分だとそう思い込んでいた。
しかしナギは『怖い』と目の前で言われた事を思い出した。
シン
「フン、子離れ出来ない親のようだな? クククッ」
ソウシ
「シン!
…ナギ、ヒロインちゃんもきっと素直になれないんだと思うよ?
今無理に連れて来るより、案外ファジーに任せたら解決するかもよ?
女同士だし…」
ナギ
「………」
リュウガ
「お前の心配する気持ちはよく分かる。
ロイだもんな…
まぁすぐ隣にいるんだし、少し様子を見たらどうだ?」
ナギは一言も発さず、船内へと歩いていった。
ハヤテ
「うわぁ…ナギ兄めちゃくちゃ機嫌悪りぃな…」
ソウシ
「うん…
ホント、ナギの気持ちはよく分かるよ…
急に大人に戻るかもしれないし…」
しばらくすると、袋を提げたナギが甲板に戻ってきた。
そしてズイッとトムとコリンに無言で袋を差し出した。
トム&コリン
「「預かった!」」
そう言って2人はリカー号へと戻っていった。
ハヤテ
「ナギ兄、いいのかよ!?」
ナギ
「………」
ナギは誰とも目を合わすことなく厨房に向かった。
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辺りはスッカリ暗くなり、夕食を終えたリカー号では
ファジーとチビヒロインが風呂から上がったところだった。
ファジー
「ちゃんと着れたかい?」
チビヒロイン
「うん!」
チビヒロインは、ロイが構う暇などないくらいファジーに付きっきりだった。
ファジー
「こっちにおいで、髪梳いてあげるよ」
女性らしい部屋の雰囲気に、チビヒロインはワクワクしていた。
可愛いドレッサーや、ふんわりとした天蓋付のベッド。
シリウス号では見た事のないような女の子らしいものがたくさんある。
アンティークなドレッサーに座ると、まるでお姫様にでもなったようだ。
後ろにファジーが座ると、背中の真ん中くらいまである長い髪をブラシで梳いてくれた。
ファジー
「で? ナギと何でケンカしたんだい?」
チビヒロインはハッとして鏡越しにファジーを見つめた。
ファジー
「? ケンカしてたんじゃないのかい?
バンダナがあんな剣幕でアンタに怒るの初めてみたよ」
チビヒロイン
「……なぎにぃちゃ…ずっとおこってるの…」
ファジー
「ん? ずっと怒ってる?」
チビヒロイン
「うん…ヒロインがちいさくなったからなんだって…
みんないってた…
しんにぃちゃにチュッてしたときもすごいおこってた…」
ファジー
「!」
それを聞いてファジーは思わず吹き出してしまった。
ファジー
「ふっ…あははははっ!!!
なんだいそれ! バンダナのヤキモチじゃないかっ!」
またしても出てきた『ヤキモチ』という言葉。
ソウシは大人になったら分かると言っていたが、
ファジーに聞けば何か分かるだろうか?
チビヒロイン
「…ふぁじーねぇちゃ…」
ファジー
「ん?」
チビヒロイン
「…やきもきってなーに?」
ファジー
「ヤキモチかい?」
チビヒロイン
「おとなになればわかるっていわれたの…」
自分には分からない感情に困り顔のチビヒロインが鏡に映り
ファジーは「ふっ」と微笑んだ。