糸
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朝食が終わると、それぞれが港へ入る準備の為
船内が騒がしくなった。
その一方で誰もがチビヒロインを自分の所に置いておきたくて仕方がない。
チビヒロインは、それぞれのメンバーの所へ行き
少しだけ遊んでもらった。
それからナギが部屋に用意してくれた洋服へと着替えをした。
ただその服は、以前子供になってしまった時に用意したモノで
夏物の半袖のワンピースやシャツだった。
とりあえずその服を着て、その上から大人のヒロインが着ていたパーカーとニットのカーディガンを着た。
袖も裾もズルズルしながらナギのいる厨房へと歩いた。
厨房のドアを少しだけ開けて中を覗くと
ナギは忙しそうに朝食の片付けをしていた。
チビヒロインの存在には気づいてないようだ。
チビヒロイン
「…なぎにぃちゃ…」
ナギ
「! 一人で着れたか?」
背中を向けて洗い物をしていたナギは、小さな声に気が付き
ハッと振り返った。
細く開けたドアに立っていたチビヒロインは
何とも不恰好だった。
ナギ
「ふっ、やっぱ大きいな?
港に着いたらちゃんとした服買おうな?」
チビヒロイン
「………」
ナギ
「? どうした?」
なかなか厨房に入って来ないチビヒロインを不思議に思い
ナギは洗い物をしていた手を止めた。
ナギ
「?」
何だかモジモジしている。
ナギ
「ん? どうした?何かあったか?」
チビヒロイン
「……なぎにぃちゃ…」
どうしたのかと、ナギは膝を折り
ヒロインの背丈に合わせて両手を広げた。
ナギ
「…こっちこい…」
チビヒロイン
「!!!」
チビヒロインは嬉しそうに目を輝かせて、思いっきりナギ目掛けて走り出した。
ポスッとナギの胸に抱き付くと、ヒロインは安心したかのように体を預けてきた。
ナギ
「どうした?」
ナギもその小さな体を優しく抱きしめた。
チビヒロイン
「…なぎにぃちゃ…おこってる?」
ナギ
「ん?」
チビヒロイン
「なぎにぃちゃ…ヒロインがちいさくなったからおこってるって…」
ナギ
「…そんな事、誰から聞いた…」
チビヒロイン
「みんないってた…」
チビヒロインを抱きながら、その言葉に顔をしかめた。
ナギ
「…別に小さいから怒ってんじゃねぇよ…
小さいと他のヤツらが…」
自分のつまらない嫉妬心を、こんなに小さいヒロインに話した所で分かるはずもない。
ナギ
「怒ってねぇよ…
お前が可愛くて、心配だっただけだ」
チビヒロイン
「ほんと?」
ナギ
「あぁ、だからもうそんな顔するな」
心配そうな顔をしているチビヒロインの頭を撫でた。
ナギの優しい笑みと声を聞いて、ようやくチビヒロインはニッコリと微笑んだ。
チビヒロイン
「うん!」
ナギもまた嬉しそうに微笑んだ。
大人のヒロインも子供のヒロインも独占したいなんて
どうかしている。
だが、そう思わずにはいられない。
こんなに可愛い笑顔を誰にも見せたくないと思うのは
恋人としてだからなのか…それとも保護者的な感覚なのか…。
そんな事を考えながら作業の続きをしようとすると、
クイッとズボンを引っ張られた。
見下ろすと、チビヒロインが椅子を引きずり立っていた。
チビヒロイン
「わたしもおてつだいする!」
何でもナギと一緒の事がしたいようだ。
ナギは思わず顔が緩んだ。
こんなに小さくても、大人のヒロインと同じ事をしている。
大人のヒロインも、いつもこうしてナギの横で手伝ってくれる。
ナギ
「ふっ…ありがとな?
オレが拭いた皿を、あそこの台まで運んでくれるか?」
チビヒロイン
「うん!」
手伝ってくれるのは嬉しいが、揺れる船内で椅子の上に立たせるのは
あまりにも危険だと思い、ナギは他の仕事をお願いすることにした。
ナギが皿を拭き終えると、一枚ずつチビヒロインが食器棚の前の台まで運ぶ。
拭き終わるのをワクワクしながら待つ姿が何とも可愛くて
ナギはそんな姿を微笑ましく見つめた。
すると、いきなり厨房のドアが開き
ハヤテが嬉しそうに飛び込んできた。
ハヤテ
「ヒロイン!! 港が見えたぞ!
一緒に見に行くか?」
何を言われているか分かっていなそうだが、ハヤテの様子から
何か楽しい事が待っていると感じたようで、チビヒロインはナギを見上げ
「行ってもいい?」と目で訴えてくる。
ナギ
「…船の端まで行くなよ?
ハヤテの言う事聞いて、ちゃんと手を繋いで行くんだぞ?」
チビヒロイン
「うん!!」
顔の周りに花が咲いたかのように、とびきりの笑顔を見せて
チビヒロインはハヤテの手に飛びついて行った。
それが嬉しかったのか、ハヤテもまたデレデレとした顔で
小さいチビヒロインの手をしっかりと握った。
ナギ
「ハヤテ! 目ぇ離すなよ?」
ハヤテ
「分かってるって! よし、じゃあヒロイン行くぞ!」
厨房を出て、小さな足音がどんどん遠ざかっていく。
取り残されたナギは、何だか孤独感に襲われた。
さっきまでここでチョコチョコと動いていたチビヒロインがいなくなっただけで
静か過ぎて、何だか寂しく思えてしまう。
それにハヤテに任せて大丈夫かと、妙な過保護っぷりが顔を出していた。
ナギ
「はぁ…何やってんだ…」
ナギはガシガシとバンダナ越しに頭を掻き
チビヒロインの残した皿を、食器棚に戻した。
・・・・・・・・・・・・・
数十分して、シリウス号はある港へと入港した。
そしてまず一番初めに訪れたのは、街の病院だった。
医者
「はい、あーんして?」
チビヒロイン
「あーん」
医者
「うん! はい、いいよ?」
ソウシの膝の上に座り、診察を受けているチビヒロイン。
ソウシ
「昨日まで高熱が続いていたんですが…」
医者
「そうみたいだね、扁桃腺がまだ少し腫れている。
あなたも医者と聞きましたが…」
ソウシ
「はい、旅をしているもので
ここに辿り着くまで、手持ちの薬を処方していたのですが…」
医者
「う~ん…」
ソウシは薬のせいで子供になってしまった事を話すべきか悩んだ。
ソウシはその状況をこの目で見ているから信じられるが
普通の人がこんな夢のような話を信じるはずもない。
言われている副作用だって、言い伝えのようなもので
本当に子供になってしまう事だって未だに信じられない。
しかし今膝の上で診察を受けているのは、紛れもなくヒロインだ。
医者
「いや、あなたの薬がよかったのでしょう。
ご存じの通り、高熱が続くと免疫力も低下して危険だ。
ましてこんな子供だと余計に…」
ソウシ
「…はぁ…」
医者
「念の為、こちらからも薬を出しておくので
暖かくして、しばらくはあまり出歩かないように」
ソウシ
「はい、ありがとうございます!」
チビヒロインは出していたオナカをしまうと、医者がアメをくれた。
チビヒロイン
「わぁ! せんせありがとう!」
医者
「ちゃんとお礼が言えていい子だ!
お父さんの言う事をちゃんと聞くんだよ?」
チビヒロイン
「…?」
ソウシ
「し、失礼します!」
ソウシはそれ以上突っ込まれないように、慌てて診察室の外に出た。
チビヒロイン
「? せんせ、なんでそうしにぃちゃをおとうさんっていったの?」
ソウシ
「ん? ん~何でだろうね?」
そう誤魔化してみたが、自分もそういう歳になってきたという事だ。
シリウス号に乗っていて、そんな事を考えた事は一度だってなかったが
こうして子供のヒロインを抱いたり、あやしたりしていると
自分の子供を持つというのは、悪くないと思えてくる。
ましてやこんなに可愛い子だったら…。
ヒロインとの子供だったら、こんなに可愛い子が産まれてくるのだろうか…
そんなよからぬ事を考えていると、待合室で待つナギが
心配そうに近づいてきた。
ナギ
「時間掛かったな…
怖くなかったか?」
ナギが傍に来た途端、チビヒロインはすぐにナギの腕へと体を乗り出した。
そしてナギとチビヒロインだけにしか分からないような
何とも言えない空気がそこには流れていた。
(やれやれ…)
ソウシは小さくタメ息をついた。
チビヒロイン
「うん! そうしにぃちゃがいたからへいき!
おとうさんだもん! ね?」
ナギ
「お父さん?!」
子供というのは何とも正直なものだ。
ナギが不機嫌になるのが目に見えているのに
そんな事お構いなしだ。
ソウシ
「いや、ここの先生が勝手にそう言ってきただけだよ?」
その言葉に納得したナギ。
ソウシはそんなナギを見て、本当に変わったなと
微笑んでしまった。
大人のヒロインと付き合いだしてからの変りようも驚きだが
あのナギが誰よりも子供の面倒を見ている。
元々が彼女であるヒロインという事もあるが
本当の父親のような接し方や、話し方を見る度に
ナギがこんなにも心を許すようになったのかと嬉しく思った。
チビヒロイン
「そうしにぃちゃがおとうさんだったら、すっごくうれしい♪」
ナギ
「!? お前…」
ソウシ
「! あははっ
それってスゴク嬉しいな! ありがとう」
ナギに抱かれているチビヒロインの頭を撫でるソウシ。
全くこの子は空気を読むなんて出来るはずもないが
大の大人をどこまでも翻弄してくれる。
言われたソウシは満足だが、ナギは何だか悔しそうにしつこくチビヒロインに問い詰める。
ナギ
「…なんでドクターだと嬉しいんだ?」
チビヒロイン
「そうしにぃちゃやさしくて、かっこいいもん♡」
ナギ
「はぁ!?」
その言葉にソウシは胸がキュ~ンと締め付けられ、顔が緩んでしまった。
ソウシ
「ふふっありがとう!
よっし、じゃあお買い物して早く船に戻ろうか?
まだお風邪治ってないからね?」
チビヒロイン
「はぁい!」
ナギ
「ちょっと待て! 何でドクターが…!」
全然納得のしていないナギが、ソウシに向かって声を掛けるも
勝者のソウシは、意気揚々と病院を出て行く。
チビヒロイン
「なぎにぃちゃ! おかいものいこ?」
ナギ
「…あぁ…」
テンションがかなり下がったナギは、チビヒロインの言う通り
シリウスメンバーとの待ち合わせの場所へと向かうことにした。
(ドクターが父親ってどういう事だよ…)