cure
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シン
「ドクター…」
廊下に一番近くに立っていたシンがそう声を発した。
すると息を切らしたソウシが飛び込んできた。
ソウシ
「はぁ…はぁ…ヒロインちゃ…はぁ…来てない?」
ハヤテ
「来てないけど…」
シン
「…追い掛けたんじゃないんですか?」
ソウシ
「はぁ…どこにもいなくて…はぁ
何か変に考え過ぎちゃってたから…心配…はぁ…」
ソウシがどれだけ探し回っていたかが分かり、
ナギは堪らずに走り出した。
ハヤテ
「ナギ兄!?」
ナギ
「ちょっと捜してくる」
そう言って厨房を出て行く。
残されたメンバーも、ナギの後を追うようにシリウス号を後にした。
・・・・・・・・・・・・
その頃、1人だけ何も知らずに過ごしていたリュウガは
シリウス号の船長室で優雅に昼寝をしていた。
宿屋でもメンバーの誰よりもいい部屋を取っているというのに
宿屋のベッドよりも、自分の部屋で波の揺らぎを感じながら寝る方が
遥かに安らげた。
そろそろ起きるかと、体を起こし
今夜の宴の準備を張り切っていたナギに、何か軽く作ってもらおうかと
寝ぐせのついた髪をガシガシ掻きながら、厨房へと向かった。
リュウガ
「ふぁ~ナギぃ、何か食うもん…
何だよナギいねぇのか…」
あくびをしながら厨房のドアを開けたリュウガは、
中途半端になっている料理に眉をしかめた。
ナギが料理を投げ出して姿を消すなんて珍しい。
(食材を買い足しにでも行ったか…)
少し不思議に思いながら、甲板の方へと足を向ける。
リュウガ
「オーイ、ハヤテートワー!!」
手伝いをすると言って、ハヤテもトワも声を上げていたが
船の中に人がいる気配はどこにもない。
リュウガ
「準備はどうなってんだ…
しょうがねぇヤツらだな」
自分は昼寝をしていた分際で、よく言えたものだが…。
そう思いながらも、この時間に誰の姿もないのはおかしいと
リュウガは甲板に出て辺りを見回した。
すると、マストに人影を見つけた。
リュウガ
「…? ヒロインか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ナギとシンはジャケットを預けたクリーニング屋へと来ていた。
ナギ
「…一緒に入るのか?」
シン
「フン、ヒロインの事を聞くんじゃない。
オレのジャケットをちゃんと仕上げているか確認するだけだ」
と、言いながらも
自分の言葉で傷つけてしまったヒロインを心配している様子が
手に取るように分かる。
面倒な事に関わらないシンが、ヒロインの事となると
こうも変わってしまうのかと、ナギも驚く。
一番変わったのは自分かもしれないが、シンもいい勝負なのではないか。
そんな事を思いながら、クリーニング屋のドアを開けた。
カランカラ~ン
店主
「いらっしゃい!」
陽気な雰囲気の店主が出迎える。
ナギ
「…ちょっと聞きたいんだが…」
店主
「!!?
アンタ達まさかっ!!」
ナギのその一言だけで、店主の妄想スイッチがオンとなった。
シン
「? 昼頃、ジャケットを預けに来た女がいただろう」
店主
「し、知らねぇ!
オレは何も知らねぇぞ?!」
ナギ
「…髪が長くて…」
店主
「知らねぇって言ってんだろ!?」
店主はついに追っ手がヒロインを捜しにきたと勝手に思い込み
必死で抵抗を繰り返した。
こんな無表情な男と、眼帯の冷たい目の男に
知られて堪るものかと、店主は口を開こうとしなかった。
シン
「…ナギ、これは埒が明かなそうだぞ」
ナギ
「…そうだな… 邪魔したな」
店主
「………」
2人が踵を返し、店を出て行こうとすると
店の奥から店主の妻と思われる女性が威勢よく出てきた。
店主の妻
「アンタ!! 何やってんのさっ!
いい加減のおしよ!
お客さんすいませんねぇ。
何か御用ですか?」
店主
「バカヤロウ! お前は黙ってろ!」
目の前で繰り広げられる夫婦喧嘩を、何も言わず見つめていると
慌てて店主の妻が声を掛けた。
店主の妻
「すみません!
で、何か御用で?」
ナギ
「昼頃きた女の子の事で…」
店主の妻
「あーぁ、あの子!
私は話してないけど…この人が受付けたんですよ」
「やはり」と、ナギもシンもふてくされている店主をジッと見つめた。
ナギ
「…店に来た時、どんな様子だったか知りたいんだが」
店主
「…アンタ達、あの子をどうする気だい」
ナギ&シン
「「!?」」
店主
「あんなに必死にジャケット出しに来たんだ!
これ以上ヒドイ事しないでくれ!!」
何の事かさっぱり分からず、ナギもシンも黙り込んでしまった。
店主の妻
「…アンタ…あの子から何か聞いたのかい?」
店主
「いや、何も聞いちゃいねぇが
あの剣幕で分かる!
あんなに慌てて店に飛び込んできたんだ!
訳があったに違いない」
シン
「………」
シンには何故慌てて店に飛び込んで来たのかが分かる。
自分がそうさせたからだ。
店主の妻
「! アンタまた勝手に!
本当呆れるよ…この人、小説読むのが大好きでね…
すぐに変に受け取っちまうんだよ」
店主
「そんな事はねぇ!
あの子の預けたジャケットには、剣で袖を切られた痕があったんだぞ!」
ナギ
「! 切られた痕?」
店主
「…あぁ、あの子も傷だらけだったし
袖の事話したら、顔色変えちゃってね…よっぽど怖いをしたとしか思えねぇ」
それを聞いてナギもシンも、何となくヒロインの落ち込んでいる原因が分かった。
ナギ
「…ありがとう…」
店主
「? アンタ達何者なんだい」
シン
「ただの旅人だ。
明日ジャケット、取りに来る。」
店主の妻
「は、はい…
お待ちしています…」
流れについていけない夫婦は、お互いに顔を見合わせて
首を傾げた。
店を出たナギとシンは、しばらく無言で歩いた。
そしてシンが口を開いた。
シン
「…オレのジャケットにキズをつけたからって訳じゃなさそうだな…」
ナギ
「……あぁ」
そうなると理由はひとつしかない。
シンはチラリとナギを見た。
至って普通の顔をしているが、どことなく暗い空気が漂っている。
シン
「…お前までアイツのようになるなよ?
面倒臭い…」
ナギ
「…………」
それ以上何も言わず、ナギは街の中を探し回った。
・・・・・・・・・・・
ヒロイン
「…はぁ…」
何度目か分からない深いタメ息を漏らし
抱えた膝に顔を埋めた。
宿屋を飛び出してから、しばらく街を歩いたが
お祭りムードの雰囲気についていけず
結局シリウス号にきてしまった。
皆には準備ができるまで来るなと言われていたので
コッソリとマストに登り、こうして海を眺めていた。
危ないから登るなと、ナギにも他のメンバーにも言われているが
それでも登るヒロインを見かねて、トワが座りやすいように板をひいてくれた。
そのお陰で、落ちる心配もなくなった。
ここから見る景色は、本当に雄大で
航海中は海と空を独り占めしている気分になる。
…しかし、今日はいくら海を見つめても
ちっとも気分が晴れない。
ソウシの話も頭の中で理解しようともがいてはいるが
さっぱりダメだった。
ソウシにそんな過去があったのも驚きだった。
大切な人が目の前で死ぬという事。
ひとりになるという事。
昨日の山賊が束になってメンバーに襲いかかる光景が頭を覆う。
そして、ギュッと膝を抱えた。
(…あんなに危ない目に合わせおきながら、あの時は何も感じなかった…)
自分の浅はかな感情に、怒りさえ覚える。
ナギの事しか考えていなかった自分を皆はどう想っただろう。
すると座っている板がギシッと軋んだ。
ヒロイン
「!?」
ハッと顔を上げ、振り返ると
そこにはリュウガが立っていた。
リュウガ
「なんだよ、随分いい席作ってもらってんじゃねぇかよ!
このオレには話がきてねぇぞ!?」
ニカッと笑うリュウガを一瞥すると、
ヒロインはすぐに俯いた。
リュウガ
「ん? 何だ?」
とても気まずくて何も言えなくなる。
そんなヒロインを見て、リュウガは黙って隣に腰を降ろした。
リュウガ
「いい景色だが、やっぱ寒みぃな
…お前、いつからここにいる…」
鼻の頭を赤くして、潤んだ目を見られまいと
顔を背ける。
ヒロイン
「……せんちょ…」
リュウガ
「ん?」
ヒロイン
「…昨日は…すみませんでした…」
リュウガ
「?」
ヒロイン
「…私、ナギの事でいっぱいで…」
リュウガ
「? 何の事だ?」
他のメンバーがヒロインの事を心配して駆け回っているというのに
リュウガはヒロインが何故こんなになっているのか全く分かっていなかった。
ヒロイン
「…昨日、ひとりで乗り込むって言い切っておきながら
船長や皆さんに甘えて助けにきてもらって…」
リュウガはその言葉で、理解した。
何故こんな所にいて、何故暗い表情をしているのか…
そして意地悪く言った。
リュウガ
「今に始まった事じゃねぇだろ?
お前はいつもそうじゃねぇか」
ヒロイン
「!!」
自分で言っておきながら、リュウガは「そうじゃない」と否定してくれると思ってた。
そしてこんな所で泣きたくないのに、鼻の奥がツンとなる。
リュウガ
「…お前はオレに何を言って欲しいんだ?
お前は悪くないって言えばよかったのか?」
さらにリュウガが責めてくる。
ヒロインはフルフルと首を振った。
ヒロイン
「ちがっ…違います!
…そんな事…違います…」
全然違わない。
ヒロインは呆れているだろうリュウガに
どう思われても仕方がないと思い
意を決して、心の中の蟠りを話し始めた。