cure
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ソウシ
「私だけ生き残ったんだよ…
家族も街の人も…大人も子供も皆死んだのに自分だけ…」
今にもカップが割れてしまいそうなくらい
グッと力を込めている右手に、そっと手を重ねた。
ヒロイン
「ソウシさん…」
ソウシ
「あ…ごめんね…
ふふっやっぱダメだね…過去の事って思ってるのに
いつもあの時の気持ちに戻っちゃうんだ…」
そう情けなく微笑んだソウシは、とても弱々しく見えた。
ソウシ
「…だからね?
船長やナギと一緒に旅を始めた時、いつ命が尽きてもいいって思ってた。
医者で多くの人の命を救いたいって思っている反面
自分はいつ逝ってもいいって…」
ヒロイン
「そんなっ!」
あまりにも必死な声を上げたので
ソウシは優しく微笑み、ポンッとヒロインの頭に手を乗せた。
ソウシ
「安心して? 今はもう、そんな事思っていないから…
でもね? 失うものがないって思ったら、本当にどうでもよくなったんだ。
待っている人も、支えたいと思える人も誰もいない…
でも、そんな無鉄砲な戦い方だから
当然仲間にも迷惑を掛けるよね。
今思うと本当にどうしようもないって思うけど、無防備に飛び込んで結局船長やナギが助けてくれた。」
『無防備に飛び込んで』
その言葉がずっしりと心に圧し掛かった。
昨日の自分はまさにそうだった。
ソウシ
「私が戦いの時、武器を選ばなかったのも
そういう理由があったから…
いつ命が尽きてもよかったから、手で戦った…」
そう言って、アザだらけで赤く腫れた手を掲げた。
ソウシ
「…ヒロインちゃん。
ヒロインちゃんは、昨日の戦いを後悔してる?」
ヒロイン
「えっ?」
やはりソウシにはバレていたのだろうか…?
ソウシ
「大切なナギの為に戦って、ナギを過去から救って…
その上街の人も大喜び。
それのどこがいけない事?」
ヒロイン
「…ソウシさんは…」
ソウシ
「ん?」
ヒロイン
「ソウシさんは…怖くないですか?
もしかしたら自分のせいで仲間の誰かが傷ついたり、死んでしまうかもって…」
ヒロインはじわっと涙が浮かび始めた。
ヒロイン
「私は怖いです!
自分の気持ちだけで動いて、結局皆さんに助けてもらって…
それなのに、皆さんが危ない目に会うかもしれないなんて思いもしなかった…
強くて負け知らずだから、当たり前のようにそう思ったんです!」
今にも泣き出してしまいそうなヒロインを
ソウシは「ふっ」と微笑み、見つめた。
ソウシ
「うん…分かるよ…?
ちょっと前の私もそうだったから…
自分の命を惜しまない行動に、皆を振り回した事。
いつだったか、私を庇って船長が怪我をしてね?
それで気づいたんだ… 何やってたんだって…」
ヒロイン
「その時! その時ソウシさんはどうしたんですか?!
その時の船長とナギは何て…」
あまりにも勢いよくそう聞いてくるので、ソウシは少し戸惑った。
すると、コンコンと部屋をノックする音がした。
ソウシ
「はい?」
シン
「ドクター、いいですか?」
シンの声だった。
解決されていない悩みに、不安いっぱいの表情をしたヒロインはソウシを見つめた。
ソウシは柔らかく微笑むと、くしゃっと頭を撫でてきた。
ソウシ
「待っててね?」
そう言ってドアの方へと歩いて行った。
ソウシ
「どうしたの?」
ドアを開けると、不機嫌なシンがそこにいた。
シン
「そろそろ船に行く時間です」
ソウシ
「あっ! もうそんな時間か…」
シン
「ヒロインが部屋に居なかったんですが知ってますか?」
ソウシ
「あぁ、ここにいるよ?」
そう言って、さらにドアを大きく開けるソウシ。
シンは怯えたような視線を向けるヒロインを見て
「チッ」と舌打ちをした。
(ドクターには何でも話すんだな…)
自分と出掛けた時は、暗い顔をして上の空だったくせに
ソウシの部屋で、のん気にお茶を飲んでいる。
何とも面白くない光景だった。
シン
「ヒロイン! お前は声が掛かるまで船には来るなよ?」
ヒロイン
「あっ…でも、何かお手伝い…」
シン
「その辛気臭い空気をどうにか出来たら来い。
さっきから何を考えてるのか知らないが、いい迷惑だ」
ソウシ
「シン!!」
シンの言葉が痛かった。
思い切り傷付いた顔をしたヒロイン。
堪らなくなり、ソウシの部屋を飛び出した。
ソウシ
「ヒロインちゃっ!!!
……シン!言い方に気をつけろ!」
ソウシがそう言って、ヒロインの後を追う。
嫉妬心からくる言葉だった。
いつもそうだ。
自分にはナギやソウシのように、心を許してはくれない。
そういう想いが一気に爆発して、ついあんな言葉が飛び出してしまった。
シン
「…チッ…」
何とも後味の悪い気持ちになり、ソウシの部屋に残された
菓子屋の袋を睨みつけた。
・・・・・・・・・・・・・・・
料理の準備も大分進み、ナギは少しの間休憩をしていた。
休憩と言っても、コーヒーを飲みながら
ヒロインの好きな、タルトの生地を準備していた。
クッキー生地の上に、カスタードクリームとフルーツを乗せた
ナギ特製のフルーツタルト。
ヒロインがいつも嬉しそうに食べてくれるのを思い出すだけで
笑みがこぼれてしまう。
そんな事をしていると、厨房のドアが開いた。
ハヤテ
「ナギ兄? 他に手伝うことある?」
トワ
「食堂のセッティングはバッチリです!」
ナギ
「ありがとな?
今落ち着いてるから、また手が必要になったら声掛ける」
ナギの穏やかな雰囲気に、ハヤテもトワもホッとした。
そしてハヤテは、少し言いづらそうに話し出した。
ハヤテ
「…あの…さ?
ヒロインとナギ兄って何かあった?」
ナギ
「?」
トワ
「何かちょっとヒロインさんの様子がおかしくて…」
ナギ
「おかしい?」
ハヤテ
「なんつーか、暗くってどっか違う世界に飛んでるような…なぁ?」
トワ
「そうなんです!
いつもの笑顔とかもなくて…」
朝ヒロインと別れるまでは、そんな気配は全くなかった。
ハヤテ
「シンと帰ってきてからだよな?」
トワ
「シンさんと何かあったんでしょうか…?
シンさんも分かってない風でしたけど…」
それを聞いてナギは考えた。
シンからキツイ言葉でも言われたか?
ナギ
「そうか…」
ナギはそれだけ言うと、手元の生地に視線を戻した。
トワ
「? ヒロインさんの様子…見に行かないんですか?」
ハヤテ
「結構マジで深刻な感じだったぞ?」
逆にハヤテとトワの方が心配してしまう。
ナギはあのヒロインを見てないから
こんなに悠長にしているのだと、ヤキモキしてしまう。
しかしナギの手元に視線を向けた2人は
口ぐちに言った。
ハヤテ
「…気になるんなら会いに行けば?」
トワ
「ホントです…その生地、コーヒーに浸かりますよ?」
ナギ
「!!!?」
タルト型に生地を敷こうとしたのだが、横にあったコーヒーのカップの上に生地を乗せようとしていた。
サイズも見た目も全然違うのに、こんな間違いをするなんて…。
ナギ
「チッ」
ナギは伸ばした生地をグッと丸め、調理台に投げだした。
トワ
「僕たち続きやりますから」
トワがそう言った瞬間、厨房のドアが開きシンが声を掛けた。
シン
「ナギ、これ頼まれてた酒。
あとこれ…街でもらった果物…何かに使えるか?」
トワ
「あ…」
シン
「? なんだ?」
厨房にいる3人の視線が集まり、シンはウザったそうに顔をしかめた。
ナギ
「…シン…ヒロインと何かあったのか?」
ナギの言葉に、シンは「チッ」と舌打ちをした。
シン
「そこの2人に何言われたか知らないが、
オレを巻き込むな」
ハヤテ
「だったら!
何でシンと出掛けた後、あんなに暗かったんだよ!」
シン
「…チッ…これだからバカは嫌いなんだ…」
ハヤテ
「あぁ?」
シン
「何も知らないクセに、回転の遅い頭で変な妄想をするな」
カチンッという音が聞こえるくらい
ハヤテの表情が一気に怒りが満ち、殴りかかろうと体を動かしたハヤテを
トワがしっかりと羽交い締めにした。
トワ
「ハ、ハヤテさん! 落ち着いてください!!」
ハヤテ
「離せトワ! コイツいっぺん殴らねぇと気が済まねぇ!!」
目の前でいつのもケンカが始まり、「はぁ…」とタメ息をついたナギ。
しかし、ハヤテもトワもここまで心配するなんて
一体ヒロインはどうしたというのだろう。
ナギ
「…お前らいい加減にしろ!
これ以上厨房で暴れるつもりなら、オレが相手になってやる」
ナギの一声で、ハヤテは動きを止め
羽交い締めにしているトワの腕をバッと振り払った。
ナギ
「シン、お前ヒロインと出掛けた時何かあったのか?」
シン
「…オレは何もしてない…
クリーニング屋から出てきたら、あんな状態になっていた」
ナギ
「クリーニング屋?」
シン
「ずっと上の空で、オレが何を聞いても話しても
いつも以上にボケ~としていたぞ?」
その話だけ聞くと、ヒロインがそこまで暗くなる原因なんて何もないように思える。
ハヤテ
「…女ってホント面倒臭ぇな…」
シン
「フン、お前の頭じゃ一生理解できなさそうだな? クククッ」
ハヤテ
「ぁんだと?!」
トワ
「わぁ!やめて下さい!!
ケンカするより、ヒロインさんが笑顔になるように
宴の準備しましょう?」
一番年下のトワが、一番大人に思えた。
しかしナギは準備どころではなくなってしまった。
ナギ
「…ちょっと様子見てくる…」
シン
「言っておくが、ヒロインなら宿にはいないぞ?」
ナギ
「?!」
シン
「さっき飛び出して行った」
トワ
「えっ!?」
シンは悪びれる様子もなく、しれっと言った。
シン
「オレの言った言葉が気に入らなかったようで、出て行った」
ハヤテ
「はぁ!?
お前あの状態のヒロインに何言ったんだよ!」
シン
「…辛気臭い空気をどうにかしろ」
ハヤテ&トワ
「「!?」」
シンらしいと言えばシンらしいが
あれだけ塞ぎ込んでるヒロインによく言えたものだ。
ハヤテ
「お前なぁ…」
ナギ
「もういい」
そう言ってナギがドアに向かって歩いていくと
船内の廊下をバタバタと走る足音が近づいてきた。