cure
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シンとヒロインが宿屋へ着くと、ハヤテとトワが廊下を歩いてくるところだった。
トワ
「あれ? 早かったですね?」
ヒロイン
「あ…うん…」
ハヤテ
「スゲー荷物だな!?」
昨日あれだけ身勝手な事をしたのに、
ハヤテもトワも、いつもと変わらずに接してくれる。
しかし、2人の顔や腕を見ると
小さな傷や、赤く腫れ上がったりしている。
間違いなく、昨日の戦いでついたものだ。
またしても胸がズキンと痛む。
トワ
「どうしました?
なんか顔色悪いですね…」
心配そうに様子を伺うトワ。
ヒロインは気にさせまいと、笑顔を作った。
ヒロイン
「そ、そんな事ないよ?
トワくん達はお出かけ?」
ハヤテ
「オレ達宴の準備、手伝いに行ってくる!
用意出来るまで、船にくんなよ?
ナギ兄、すっげぇ張り切ってたから、楽しみだよなぁ~」
今にもヨダレがこぼれ落ちそうなハヤテ。
『ナギ』という名前が出て、ヒロインはまた意識が遠くへ行ってしまった。
ナギを守りたくて勝手に動いた事なのに、
ナギだけを思い過ぎて他のメンバーに迷惑を掛けた気持ちなんて
絶対に相談なんかできない。
そんな事を話したら、今度はナギを傷つけてしまう。
胸の中が、モヤモヤと渦巻き
自分は一体何をしているか分からなくなってしまった。
シン
「…はぁ…またか…」
トワ
「? どうしちゃったんですかヒロインさん?」
ハヤテ
「なんか違う世界に飛んでるよな…」
こんな話しを目の前でされているのに、ヒロインの意識はさっぱり戻ってこない。
シン
「さぁな、コイツの考えている事はさっぱり分からん…」
シンはそれだけ言うと、自分の部屋へと戻っていった。
ハヤテ
「…じゃあ…オレ達も行くからな?
オイヒロイン!! 聞いてんのか!?」
ヒロイン
「!! あっはい!!
あのっ何か手が必要だったらいつでも言ってくださいね?」
ハヤテ
「お、おぅ…」
眉間にしわを寄せ、必死にそう言ってくる。
やはり今日のヒロインはおかしい。
シンに何か言われたのだろうか?
ハヤテもトワもそう思いながらも、何も聞く事が出来ず
ぼんやりとしているヒロインと別れ、ナギの待つシリウス号へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・
(私…間違ってたのかな…)
部屋に戻ったヒロインは、考えても考えても答えの出ない迷宮に迷い込んでいた。
ナギを思う一心でした事だった。
よくシンに言われる言葉。
『感情的になるな』
昨日の行動はまさにコレだった。
ナギを過去の闇から救いたくて、自分の命が無くなってもいいとすら思っていた。
しかし自分の命どころか、メンバーの命も巻き込もうとしていた。
そして、守ろうと思っていたナギだってそうだ。
今回は上手く立ち回れ、山賊達をやっつけられたが
あの時、縄抜けが出来なかったり
山賊の頭を押さえ込められなかったらどうなっていただろう…。
今になってブルッと身震いがして、ベッドに座りながら
ギュッと両腕を抱いた。
メンバー全員が大切な仲間なのに、恋人であるナギを想うあまり
身勝手過ぎる行動を取ってしまった。
皆が頑張った自分を労って、優しい言葉を掛けてくれるが
自分はそんな立場ではない。
今夜の宴だって、参加する資格すらないうように思える。
ヒロイン
「…はぁ…」
自分の幼稚さに、恥ずかしくて何とも言えない後悔と
罪の意識に苛まれる。
そんな暗い、海の底のような感情に飲み込まれていると
部屋をノックする音が響いた。
そして明るい声がドア越しに聞こえた。
ソウシ
「ヒロインちゃん開けてもい?」
ヒロイン
「あっはい! どうぞ…」
そして細くドアが開き、ヒョコッと笑顔のソウシが顔を覗かせた。
ソウシ
「ヒロインちゃん、今ね美味しいハーブティーが…」
一瞬部屋を覗いただけで分かる『負のオーラ』。
ソウシは言葉を止め、ドアをしっかりと開けると
部屋の中へと入った。
ソウシ
「…どうかした?」
ヒロイン
「あ…いえ…」
ソウシ
「………」
『どうかしてる』に決まってる。
いつものような笑顔はちっとも見えず、何か後ろめたい事でもあるような
そんな表情をしている。
ソウシ
「…シンと…何かあったの?」
ベッドの上にたくさん置かれた店屋の袋を見つめ、そう言った。
しかしヒロインは首を振った。
ソウシ
「ん~…」
ソウシは困ったように自分の首元を手で擦った。
ソウシ
「よし! じゃあ私の部屋でお茶にしよう?
その袋お菓子屋さんの袋だよね?
ヒロインちゃんはそれを持って私の部屋においで?」
そう言ってソウシは部屋を出て行ってしまった。
今思っている事を話せるのはソウシだけなのかもしれない…。
でもそれはどこかでソウシに『ヒロインちゃんは悪くない』と言ってもらいたいからじゃないのか…。
もはや深みにはまるばかりで、何もポジティブになんか考えられない。
しかし、あぁ言ってくれるソウシを無視するなんてできない。
ヒロインはどうしてこんなに買ってもらえたのか
全く覚えていない袋の山から
お菓子屋の袋を手に取りベッドを立った。
(あとでシンさんにも、ちゃんとお礼言わなきゃ…)
ソウシの部屋までは、20歩も歩けば着くのに
こんなに足が重いなんて…。
ソウシに慰めの言葉を言って欲しいと期待している自分。
一方でそんな事は許されないと、どこまでも突き落とす自分。
ソウシは何を思って誘ってくれたのだろう。
昨日の事はどう思っているのだろう。
ヒロインはさらに苦しくなる胸に手を当てながら
ゆっくりとドアをノックした。
コンコン
静まり返った廊下に、ノックの音が響く。
少しすると「どうぞ」というソウシの声が聞こえ
ヒロインはそっとドアを開けた。
ヒロイン
「失礼します」
ソウシ
「いらっしゃい
そんなトコいないで入っておいで?」
優しく微笑むソウシを見て、罪悪感の塊だった気持ちが
少し溶けそうになったが、ヒロインは頭を振って、そんな甘えた考えを蹴散らした。
ソウシ
「? 何だかホントに顔色悪いね…
ここ座って?」
ヒロイン
「あ…いえ…ホントに…」
ソウシ
「いいから座って?」
ヒロイン
「………」
有無を言わせないソウシの剣幕に負け
ヒロインはおずおずと、ソウシの前にある椅子に腰掛けた。
ソウシ
「手…貸して?」
そう言ってスッと手首を持たれると
ソウシは脈を取り始めた。
その慣れた手つきを、何も考えず眺めていた。
そしてハッと気付き、胸がズキンと音を立てた。
ソウシ
「ん?」
ヒロイン
「! ……」
慌てて逸らした視線で、ヒロインが何を見ていたのかが分かった。
そしてソウシは、この暗い雰囲気の原因が分かった。
ソウシ
「ふっ…なるほどね…」
ヒロイン
「?」
優しい笑みを浮かべながらそう言われ、何か自分の脈拍に異常でもあったのかと不安になった。
ソウシはそれ以上、医者としての行動は止め
宿屋の食堂からもらってきた湯を耐熱ガラス製のポットへと注ぎこんだ。
透明なポットの中には、ソウシがこの街で手に入れたハーブティーの葉が入っている。
ソウシ
「街に行ったらお祭りのように賑やかだった。
このハーブティーもスゴイおまけしてくれてね?
面白いんだよ? ドライフルーツも入ってるんだ」
静かな部屋にソウシの声が優しく響く。
ソウシ
「…あんなに喜ぶって事は、あの山賊達
よっぽど酷い事していたんだろうね…」
ソウシはヒロインの方を見ずに、ポットの中でゆっくりと広がっていく
ハーブの葉や、柔らかく溶けていくドライフルーツを眺めていた。
部屋にふんわりと甘く爽やかな香りが漂う。
それだけで心が温かくなる。
何か悩んでいたり、聞いて欲しい事がある時
ソウシは決まってお茶に誘ってくれる。
男だらけの船内で、唯一色んな事を相談できる
兄のような存在だ。
ナギにだって言えないような悩みを聞いてもらった事だってある。
だからこそ、今回の事をソウシに話して聞いてもらいたいところだが
さっきも思ったように、それが許しを請う為のものにも思えてしまう。
なかなか口を開かないヒロインに、ソウシは優しく声を掛けた。
ソウシ
「街の人が口々に言ってたよ…
誰がやっつけたのかって…
ヒロインちゃんもシンと出掛けた時、聞かなかった?」
ヒロイン
「あ…はい…聞きました」
ソウシ
「いい事をしたのに、何をそんなに気にしてるんだい?」
その言葉に心臓がドキリと跳ねた。
怯える様な目でソウシを見つめる。
ソウシ
「…知ってるのは船長くらいなんだけど…」
ヒロイン
「?」
ソウシはしっかりと味の染み出したハーブティーをカップに移し
ヒロインに手渡した。
ソウシ
「私はね?
幼い頃、家族が全員無くなったんだ」
ヒロイン
「!?」
ソウシの突然の告白に、ヒロインは驚いて顔を上げた。
ソウシ
「原因不明の流行り病が蔓延して、住んでいた街全体に広がったんだ。
…もちろん私もかかって、何日も高熱が続いたり、意識が遠のいたりしたよ…」
昔を思い出すかのように、切ない声でポツリポツリと話すソウシ。
ソウシ
「家族で一番最初にかかったのは私。
みんな必死で看病してくれた。
…だけど、苦しくて苦しくてようやく意識がハッキリして目が覚めた時
目に映った光景がウソかと思った…」
カップの中のハーブティーを見つめていたソウシの目が
一瞬険しくなった。
ソウシ
「…皆死んでた…
父も母も弟も…皆病にかかって死んでいた」
言葉なんて出て来なかった。
いつも優しく穏やかなソウシの過去が
そんなにも過酷だったとは思いもしなかった。
ヒロインはただソウシを見つめるしかできない。