cure
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カランカラ~ン
来客を伝えるベルがなり、店主はハッとドアを見た。
店主
「いらっしゃ…」
ヒロイン
「はぁ…はぁ…あの! コレを…」
なだれ込むように店に入ってきたヒロインを
怪訝そうな顔つきで見つめる。
ここまでくれば安全だと、ようやくヒロインはホッとした。
足がもつれそうになりながら、やっとの事でカウンターに着くと
大事に抱えたジャケットを台の上に置いた。
ヒロイン
「コレをっ…はぁ…コレを一番いい仕上がりでっ!」
蒼白い顔をしたヒロインを、哀れむように優しい声で話しかけてくる。
店主
「…お嬢ちゃん…アンタまだ若いのに…
追われてるのかい?」
ヒロイン
「え…?」
昨日山賊達に拘束された時についた傷やアザを見てそう思ったのかもしれない。
店主
「このジャケット…いい品だな…
どうしたんだい?」
ヒロイン
「あ…えと…旅をしている仲間のです。
私が借りた時に汚してしまったので…」
店主
「…仲間…
そうか、このジャケットを形見として持って逃げたんだな?
立派な事だ」
何だか全く検討違いの見解に、ヒロインは否定しようとしたが
店主の熱の入った弁明は続く。
ヒロイン
「あのっ!」
店主
「あぁいい! 分かってる!!
そんなツライ事は言わなくていい。
仲間と別れるってのは、他人が語るよりもツライ事だ。
…随分な戦いだったんだな…
こんなになるまで…」
そう言ってシンのジャケットの袖に指を通す。
ヒロイン
「あっ!」
店主
「こりゃ剣でやられた傷だな…」
という事は、昨日の戦いでついた物という事だ。
ヒロインは急に胸が苦しくなった。
店主
「…お譲ちゃん、安心しな?
ここには悪いヤツはいねぇ。 このクリーニングも最高の仕上げで用意しておく。
明日またきてくれるかい?」
ヒロイン
「あ…はい…」
店主
「ここの傷も塞いどいてやるから」
ヒロイン
「!! あっ大丈夫です!
それはそのままにしておいてください!」
あまりの剣幕に店主は驚いたが、全て分かっているとでもいうように
何も言わず頷くと、店の奥へと入って行ってしまった。
かなりの妄想癖な店主のお陰で、シンはこの世にいない存在になってしまったが
ヒロインは、なんともいえない気持ちになっていた。
(私…なんて事を…)
気落ちしながら店を出ると、少し離れた所でシンが待っていてくれた。
シン
「ちゃんと出せたのか? ……?
どうした?」
暗い表情のヒロインに、シンは心配になり
そう聞いた。
ヒロイン
「あ…ちゃんと出せました…
明日仕上がるそうです…」
(…少し脅し過ぎたか…)
見下ろすヒロインは、目も合わせてこない。
どこか気まずそうな…
そんな顔をしている。
シン
「クリーニング屋で何かあったか?」
ヒロイン
「いえ…」
ハッキリしない態度に、苛立ちを覚えそうになるが
今日一緒に外へ出てきた目的を思い出し
シンは優しい口調で言った。
シン
「お前、どっか行きたい所はないのか?」
ヒロイン
「え?」
シン
「今日はナギも忙しいから、オレがつき合ってやってもいい」
ナギは昨日のお礼を兼ねて、シリウスメンバーに宴を用意すると
朝から張り切っている。
手伝うと言ったのだが、ヒロインにもお礼をしたいナギは
その申し出を断った。
ヒロイン
「……そう…ですね…」
何だか上の空のヒロイン。
シンは今にも怒鳴ってしまいそうだったが、グッと堪えた。
シン
「…あそこに菓子屋がある。
行ってみるか?」
ヒロイン
「えっ!」
一瞬、嬉しそうにパァッと笑顔を見せたが
シンと目が合った瞬間、その笑顔は
すぐにしぼんでしまった。
シンは限界に達した。
シン
「お前…オレがナギじゃないから
そんな顔してんのか?」
ヒロイン
「?」
こんな大人気ない発言なんてしたくもないのに
止まらなかった。
シン
「さっきからコロコロ顔色変えやがって…
ナギもよくお前の百面相につき合っていられるな」
昨日はあれだけ強い気持ちをもった目をしていたのに
今日のこの変わりようは何だというのだ。
ヒロイン
「…そんな…」
傷ついたような目で見上げられ、シンはいたたまれない気持ちになった。
今日一緒に出てきたのは、昨夜山賊相手に度胸を見せたヒロインを労う為のものであって
決して、こうやって罵りたかった訳ではない。
シン
「…もういい…
行きたいところがないならついてこい」
ヒロイン
「…あっ…」
シンはさっさと歩き出す。
気まずく思いながらも、置いていかれないようにシンの背中を追いかける。
ヒロインのテンションが下がった理由。
それはさっきクリーニング屋で初めて気づいたことだった。
昨晩シリウスメンバーで、ナギの昔の仲間であった山賊を壊滅させた。
それは過去に囚われているナギを解放する為
ヒロインが先人を切って、メンバーの制止も聞かず
ナギにも内緒で潜伏先に乗り込んだ。
ナギの事で頭がいっぱいだった。
(…私…ナギの事しか考えてなかった…)
いつもいつもそうだった。
ナギも含めてシリウスメンバーは、常に優しく
そして何よりも強く心強かった。
それが当たり前になっていた。
だから昨日の事だって、なんの躊躇いもなく
ナギを想い、リュウガの元へと向かった。
心のどこかで期待してた。
自分が一人で山賊の元へ乗り込むと言えば、リュウガは助けてくれるだろうと…
そんな卑しい感情を抱いているから気づかないのも同然だ。
もしかしたら、自分の身勝手な行動が
シンのジャケットの袖のように、仲間の誰かを傷つけていたかもしれない。
(あのジャケットだって、シンさんの大事な物なのに…)
そんな事を考え始めたら、とても普通になんかしてられない。
シン
「……帰るか…」
ヒロイン
「! あっは、はい! ?!!」
シンの声にハッと意識を戻すと
知らない間に、ヒロインの両手は荷物で埋まっていた。
ヒロイン
「あ、あのシンさん!」
シン
「フン、何だ? まだ足りないのか?」
ヒロイン
「違います! 何でこんなに…」
シン
「お前がオレの問いに否定も肯定もしない結果だ。
上の空のヤツと出掛けた所で、何も期待はしてないがな…」
そう言われ、何も言い返せなかった。
いつもだったら、シンの皮肉にだって応戦するのに
そんな事を言いながらも、ヒロインの好きなお菓子やアクセサリーや服を持たされている。
口ではあぁ言っていても、ちゃんと分かって買ってくれたのだろう。
シンの優しさに、また胸が痛くなる。
シンはチラリとヒロインの顔を見たが
相変わらずの雰囲気に、ムスッと腕組みをして
宿屋へ歩き出した。
・・・・・・・・・・・・・・
その頃ナギは、シリウス号の厨房にこもっていた。
昨日はシリウスメンバーが自分の為に、昔の仲間達を倒してくれた。
口で言えるお礼なんて、たかが知れてる。
自分に出来て、皆が喜ぶお礼はコレしかないと
ナギは朝から張り切って準備をしていた。
皆に感謝をしているが、その中でもヒロインに対しては
やはり他のメンバーよりも、感謝の気持ちが強い。
あんな風に全てを包み込んで、受け入れ救ってくれるのは
これから先もヒロインしかいない。
そう思うと、ヒロインの好物だけは
かなり力が入ってしまう。
この料理でどれだけ目を輝かせるか…。
想像しただけで、ナギはフッと笑ってしまった。