cure
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町人1
「なぁ今朝の見たか!?」
町人2
「当たり前だろ?
いやぁ~胸がすぅーてしたね」
シンと一緒に歩く街は、昨日よりも遥かに賑わっていた。
それもそのはずだ。
街を牛耳っていた山賊一味が、何者かによって退治されたからだ。
街の中心にある大きな噴水を囲むように
手や足を縛り付けられた山賊たちが横たわっていた。
毎朝夜明けと共に散歩に出ていた老人が
それに気づき、静まりかえった街は一気に騒がしくなった。
昼近くまで、役人たちが色々と調べたり
山賊を役所まで連れて行く作業が続き、
ようやく街は、お祝いムードいっぱいに賑わう事が出来るようになった。
そして、誰が退治してくれたのかと
街の人たちは口々に噂をしていた。
ヒロイン
「シ、シンさん…」
シン
「ビクビクするな。
かえって怪しまれる」
張本人であるヒロインは、町の人たちの反応に胸がドキドキしていた。
ナギの過去の仲間が、懸賞首でシリウス海賊団のナギを強請って
シリウスのお宝や金を奪い取ろうとした。
しかし一番の弱点と思っていたヒロインを誘拐したものの、それがかえって裏目に出て返り討ちにされてしまった。
シリウスメンバーの10倍はいただろう人数も、
あっという間に倒してしまった。
町人3
「あたしは、どっかの国の王子様とかが、コッソリやっけたんじゃないかと思うね!」
町人4
「そうねぇ、旅人に扮してたりねぇ!」
町人5
「あんた達、見かけない顔だね?
まさかアンタ達かい?」
ヒロイン
「え……」
ふくよかな女性たちが、からかうように話しかけてきた。
真に受けてしまったヒロインは、カッチーンと固まってしまった。
シン
「…そんな凄腕の王子様に見えるのか?」
シンがそう返すと、女性たちは
大きな声で笑った。
町人3
「あーはっはっ!
違いないっ!! アンタ面白いねぇ!」
町人4
「ホントだよ!
いい男じゃなのさ! どうだい?
イチジクの実でも持っていくかい?」
あっという間に、商売人のマダム達を虜にしたシン。
お祭りムードの街は、どこを歩いても陽気な雰囲気に包まれていた。
マダム達から袋いっぱいの果物をもらうと
シンとヒロインはお目当ての店へと向かった。
ヒロイン
「シンさんスゴイです!
こんなにいっぱいのフルーツ!
ナギも喜びますね♪」
するとシンはピタッと足を止め、怒りに満ちた表情で振り返った。
シン
「お前、どんな事を言われてもイチイチ反応するなっ!
逆に怪しいんだよ!
こんな所でシリウス海賊団がいるってバレてみろ!?
山賊騒ぎの後で、海賊が出たとなりゃあ大騒ぎだぞ!?」
シンの厳しい言葉が、いつもよりもキツク感じる。
それもそのはずだ。
こんなに近くにいるというのに、果物をもらって最初に出てきた言葉がナギだと?
ヒロインと2人きりで出掛けている事が
実はスゴク嬉しかった。
顔にも態度にも出していない自信はある。
今日だけは…ほんのわずかな時間だけは
ヒロインと2人きりを楽しむ事が出来ると思っていたのに…。
シンは思いっきり、嫉妬心むき出しでヒロインに当たり散らした。
ヒロイン
「…はい…本当にすみません…」
しょんぼりと俯いたヒロインを見て
「はぁ…」とタメ息をついた。
結局いつもこうなってしまう。
こんな顔をさせたい訳じゃない。
シンはヒロインが手に抱える自分のジャケットを見つめた。
昨日の戦いで、山賊に着ていたシャツを裂かれたヒロインに
ジャケットを貸してやった。
その後、この町の花火大会を見られなかったヒロインに
ハヤテとトワが花火を買ってきて
シリウスメンバー全員で楽しんだ。
…その結果、シンのジャケットは花火の煙の匂いが染み込み
クリーニングに出すことにした。
自分で出そうと思っていたが、ヒロインとの2人きりのお出かけが出来ると
「しっかり責任を取れ」という事を口実に
街へと繰り出してきたのだった。
シン
「…もういい。
早くクリーニング屋見つけて帰るぞ」
ヒロイン
「は、はい…
ホントにすみませ…」
ペコッと頭を下げた瞬間、手に持っていた袋から
ゴロゴロと果物がこぼれ落ち、
それを慌てて受け止めようとして、腕に掛けていたシンのジャケットが地面に落ちた。
血の気がサァ~と引くヒロイン。
地面に落ちたジャケットを見たまま凍りついてると
コツっと頭に何かが当たった。
ヒロイン
「? ………!!!」
ゆっくり顔をあげると、頭にシンの銃が突きつけられていた。
シン
「よし、そのままでいろ」
ヒロイン
「え…ちょっ!」
シン
「打ち抜かれる瞬間は見たくないだろ?」
そう冷たい声で言うと、カチャリと撃鉄を下げる音がした。
ヒロイン
「う…あの…クリーニングで最上級の仕上がりにしてもらうので許してください!!」
すると、シンの手がスッと下がった。
シン
「…だったら早くクリーニング屋探せ!
それ以上ジャケットを汚したら、今度こそ命はないと思え」
ヒロイン
「はっはいぃ!!」
シンのジャケットを拾い上げると、ヒロインはギュッと抱きかかえた。
そして一緒に抱えていた果物の袋を、グッとシンが取り上げた。
ヒロイン
「あっ!」
シン
「お前に持たせたのが間違いだった。」
そう言って地面に落ちた果物を拾う。
慌ててヒロインも拾い上げようとすると、シンは言った。
シン
「…これ以上ジャケットを汚すなといったよな?」
ヒロイン
「え…?」
シンの視線を辿り、しゃがみ込んだ地面を見ると
ジャケットの裾が地面についていた。
ヒロイン
「うわっ! あのっ…!」
シン
「…いいからさっさとクリーニング屋に行け!」
ヒロイン
「はい!」
ヒロインは一目散にクリーニング屋へと走っていった。
シン
「チッ…あのバカが…」
どうしていつもこうなってしまうのだろう。
甘い顔も優しい言葉も掛けられない。
(それが自分らしさといったら、元も子もないが…)
シンは地面に転がった果物の最後の一個を手に取った。
いつまで経っても、ナギに対する嫉妬心や対抗心は消えない。
それなのに、甘やかす事もできない。
自分でもどうしていいのか分からなくなる。
こんな気持ちは初めてだった。
駆け引きをしたり、打算的な行動をとったりすれば
ヒロインのような子は、すぐにでも落とせると思った。
しかし、鈍感なのか芯が強いのか…。
どんな挑発も、どんな誘惑も乗っては来ない…。
(自分に魅力がなくなったのかっ!?)
いや、どこの港に行っても
どの女も自分を放っておきはしない。
何故ヒロインには、それが伝わらないのか…。
シンは悶々と悩んでいた。
そして、それが『恋をするという事』だとは
気づきもしなかった。
駆け引きも、打算も、そんな余裕なんて一切ない。
相手が欲しくて、欲しくて…
自分のモノになって欲しいと、気持ちを募らせていく…。
それが『恋』だ。
ようやく本当の『恋』をしたシンだが
本人の無頓着な程の余裕は生まれ持ったものだろう。
シン
「…オレはあんなガキ相手に、何残念がってるんだ…」
自分のタイプは、もっと美人でグラマーな女だったと
シンは乱暴に果物を袋に戻した。
一方クリーニング屋へと向かったヒロインは
シンに後ろから射殺されるのでないかという
緊張感の中、実は少しだけ微笑んでいた。
シンはいつもあぁいう事を言ったりするが
今まで一度も撃たれたり、酷い事をされた事はない。
それに落とした果物を拾うのだってしてくれた。
普段やり慣れないから、優しさを見せるのが恥ずかしいシンを思うと
ヒロインはクスクスと笑いが込み上げてきた。
ヒロイン
「やっぱりシンさんは優しい…クスクス」
そんな事を呟いた瞬間、すぐ傍でパンッという
乾いた音が響き
カランと横にある店の軒先に下がっていた看板が落ちた。
ヒロインの体は硬直した。
そしてゆっくり後ろを振り返る。
シン
「クリーニング屋までの5メートルは余裕で仕留められる。
余計な事考えないで、さっさと走れ!」
ヒロイン
「!!! は、はい!!」
(ホントに撃ってきた!!!)
今まで一度も撃たれなかったのに、今日のシンは本気だ。
そう思うと、体にビッショリと冷や汗をかいた。
そしてクリーニング屋までは、シンの射程圏だとドキドキしながら
店へと駆け込んだ。
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