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中は薄暗かった。
こんな街中によく潜伏したものだと思った。
山賊は山で生活するものだと思っていたが
どうやらそういう訳でもないようだ。
街の人達は、山賊に怯えていたし
花火大会があるとあって、ここぞとばかりに悪さをしようと企んでいるに違いない。
街のどこを歩いても、ナギとヒロインが海賊と思っていない街の人達が
山賊の悪さを批判し、気をつけるようにと何度も言われた。
話しを思い出すと、体の震えがひどくなる。
今すぐにでも背後にあるドアへ引き返したい。
でも自分が決めた事だ。
ギュッと拳を握ると、廊下の奥から声が聞こえた。
男1
「よぉ…驚いたな?
お嬢ちゃんがひとりで来るなんてよ?
ナギはどうした?」
ゆっくりと足音が近づき、少しだけ差し込む光の所へと差し掛かると
ようやく姿を確認する事ができた。
部屋に忍び込んできた男とは違う。
ヒロイン
「ナギは…来ません…」
そう言うと、いきなり背中の方から声がした。
男2
「…裏切られたか?
さすがのナギも怖くなって、女を差し出して逃げたか!? ひゃはは」
思わずビクッと肩が上がった。
気配なんて全く感じなかった。
そしてやっぱりこの男達は山賊なんだと、改めて思った。
ヒロイン
「…ナギは逃げていません。
ナギには何も言ってないので
私がここに来ている事も知りません」
男1
「あぁん?
お嬢ちゃん、アンタ…ナギの大切なモノだって分ってんのか?」
男はさらに一歩近づき、ヒロインのアゴを掴むと
グッと上を向かせた。
男1
「お前…ホントにオレらのモノになりに来た訳じゃねぇだろ?
何しに来やがった?
何を考えてる…」
ヒロイン
「……」
怖くて目を背けてしまいそうだ。
男2
「…分からねぇな…
こっちにとっちゃアンタがここに来た事は好都合だ。
あぁ言えばどんな形にせよ、ナギかお譲ちゃんを捕まえられるからな…
今お嬢ちゃんを人質に取ったら、ナギを脅せる。
…ナギの弱点がお嬢ちゃんって事分ってんのか?」
男1
「それに、ナギの事だ。
どうせ誰とも馴染めねぇで、ひとりぼっちだろ?
捨てられた上に、仲間裏切ったヤツを誰が信用するかっての!
シリウスのメンバーも呆れてんだろ?ヒヒヒ」
スッと背中をナイフが這っていく感触が走る。
全身に鳥肌が立った。
男達にとっては、自分が死ぬ事なんて何とも思っていない。
いつでも殺そうと思えば殺せる。
そう思うと、足がガクガクして
声が震えてしまいそうだった。
だが、ヒロインはキッと男達を睨んだ。
ヒロイン
「…確かに…ナギは私を大切に思ってくれています…
でも…あなた達は大きな間違をしてる…」
男1
「? どういう意味だ?」
ヒロイン
「もう…ナギに関わらないでください…」
男1
「あ? 何言ってんだ?
まさかお嬢ちゃん、話しで解決しようとここに来たのか?」
答えずに男の目を強く見つめていると、
突然大きな声で笑い出した。
男1
「ぶはははっ!
どれだけ真人間なんだ! はいそうですかってオレらが言うと思ってたのか?」
ヒロイン
「…思ってません…
でもナギにこれ以上何かするのなら、許さない…」
男2
「言ってくれるじゃねぇか…
今のお前に何が出来んだ? くははっ」
その言葉に、今まで人の気配なんて感じなかったのに
影の所からワラワラと男達が現れた。
ヒロイン
「!!」
男1
「ここにいる男たちは、飢えてんだ…
人の血…えぐれる肉…殴った時に感じる骨の砕ける感触…
味わいたくてウズウズしてる…」
ヒロインは恐怖のあまり、ゴクリと固唾を飲んだ。
男2
「なぁ…何が間違いだって?
オレらに何して欲しいんだって?
ぐははっ寝言もそのくらいにしておくんだな?」
ヒロイン
「あっ!」
グッと手を掴まれると、両手を後ろで縛られた。
そして前屈みに立たされると、男のナイフが頬に当てられた。
男1
「何も間違ってなかったって、その目で見てみろ…
ふふっナギの野郎、今頃血眼んなって探してるぞ?」
男のナイフがプチッとヒロインのシャツのボタンを弾いた。
ヒロイン
「!?」
男2
「いい顔してんなぁ~
ナギとはもうヤッたのか? アイツ昔から手は早ぇからよ?」
男1
「違げぇねぇ!
襲った家の女とヤッてたもんな?
そんでその後殺しちまったんだっけ?」
ヒロイン
「!?」
男2
「ひゃははっ
そうだったな! オレはこれでもアイツ気に入ってたんだぜ?
そういう無鉄砲な所がな…」
ヒロインは思い切り動揺してしまった。
ナギの山賊時代の過去は、あまり詳しく聞いた事がなかった。
この男達が言っている事なんて信じられない。
男2
「お? ショックだったか?
そうだな…あとはアイツの人を殺す腕は本物だったな…」
男1
「あぁ、命乞いも叫び声すら上げさせねぇ
迷いもなく冷酷に仕留めてたな…」
男達から出てくる言葉に吐き気がする。
ナギがそんなだったなんて、絶対嘘だ!
そう思っているのに、何故だろう。
心が張り裂けそうなほど痛い。
男1
「お嬢ちゃん、これでもまだ間違いだったって思うか?
アイツはそういう男だ。
…なぁ、ホントにオレ達と手を組まねぇか?
ナギを貶めるんだよ」
ヒロイン
「!」
男2
「アイツの傷ついた顔!
もう一度拝みたいよなぁ…
あの時の顔! ひゃはははっ思い出しただけでも腹が痛ぇよ」
男1
「な! 全部アイツのせいにして
オレらは何のお咎めもなしだもんな?」
汚い笑い声が響く。
最低…最低過ぎる…。
こんな男達に絶対ナギを渡さない。
・・・・・・・・・・・・・・
ヒロインが山賊の潜伏する宿屋へ乗り込む少し前…
ナギは洋品店の中にいた。
ヒロインがショウウィンドウで見つけた服を着てみたいと
突然言い出し、いつもだったら店の外で待っている所だが
今日はなんだか嫌な予感がし、ナギは一緒に店まで入った。
そんなに時間が掛かる服とは思えなかったが
ヒロインはカーテンのついた部屋に入ったまま
なかなか出てこなかった。
ナギ
「ヒロイン? 着れたか?」
ヒロイン
「………」
しばらく返事を待ったが、一向に反応が返ってこない。
ナギ
「ヒロイン、開けるぞ?」
そう言ってサッとカーテンを開けたが、そこにヒロインの姿はなかった。
ナギ
「!?」
個室には窓がついており、あの小ささならヒロインだったら通れたはずだ。
ナギは急いで店の外に回ると、個室の窓の方へと走った。
そこは狭い路地に面していて、ヒロインはここからどこかへ行った事が分った。
ナギ
「クソッ! どこ行った!?」
山賊がウロつき、いつでもナギを狙ってくる状況の中
一体どこへ行ったというのだろうか?
あれだけ傍を離れるなと言ったのに…
ヒロインが何か隠している事も、何か考えている事も分っていたのに…。
ナギは思い当たる場所へ走り、ヒロインを探し回った。
しかしどこにもいない。
ナギ
「はぁ…はぁ…どこだ…
あとヒロインの行きそうな場所…はぁ…」
額から頬へ伝い落ちてきた汗を拭うと、ナギは両膝に手をついて
前屈みに呼吸を整えていた。
すると、フッと光が何かに遮られ
そこに人の影がある事に気がついた。
ナギは嫌な気配に、険しい表情で顔を上げた。
山賊の頭
「…ご苦労なこった…」
ナギ
「お前…」
山賊の頭
「あ~ぁ、久しぶりだな?
昨日の昼間は会いそこなったからな?」
ナギ
「! お前!
ヒロインをどこにやった!」
ナギは物凄い剣幕で、男を睨みつけた。
山賊の頭
「まぁ落ち着けって…
随分デカくなったじゃねぇか…?
オレが拾ってやった時には、まだチビだったのによ?」
この男は、ナギが山賊時代に一緒に組んでいた賊の頭だ。
冷血で仲間をなんとも思っていない男…。
なのにその生き方がいいと、慕う男達は多い。
ナギ
「…まだこんな事をしていたんだな?」
山賊の頭
「お前は海賊になったんだってな?」
ナギ
「あぁ…オレはお前の知ってる男と違う。」
山賊の頭
「はん…何が違うだ。
お前は何にも変わってねぇよ。
いつまで経っても無愛想で無表情なナギ。
誰もお前の事なんて必要としてねぇ…中途半端な人間」
…ダメだ。
この男に会うと、昨日会った男達以上に
過去の闇に引きずられる。
話しを聞いてはいけない。
ナギ
「…そんな話しはいい。
オレはヒロインをどこにやっているか聞いているんだ。」
昔にはない凄みを感じ、男はニヤリと笑った。
山賊の頭
「ほぉ…お前もそんな顔するようになったんだな?
…教えてやろうか?
お前の女はオレ達んトコにいる」
ナギ
「!? ヒロインに何をした?!!」
ナギは男に掴み掛かった。
血管の中の血液が沸騰したかのように
体がざわめきだす。
どれだけ酷い事を、良心もなくするか知っているナギは恐ろしくなった。
山賊の頭
「言っとくがオレ達が捕まえたんじゃねぇぞ?
ほら、この手離しなっ」
バシッと手を叩かれ、ナギは気が抜けたように
呆然とした。
(…捕まえたんじゃない?)
ナギは男の言葉を理解する事が出来ない。
山賊の頭
「ふん…その目で確かめてこい。
ひとりで乗り込んできたぞ?」
どこまでが真実かは分らない。
もしかしたら騙されているのかもしれない…。
それでもナギは、山賊達のいる宿屋へと走った。
男の言う事が本当だとしたら…
何故ヒロインはそんな危険な所へひとりで行ったのだろう。
考えても全く分らない。
とにかく無事でいてくれ…!
ナギは不安で胸が潰れてしまいそうだった。
アイツらが女に対してどんな仕打ちをしているかも知っている。
何度も何度も男達の欲が尽きるまで犯す。
ナギはそんな姿を見てきた。
何度も一緒にやれと言われたが、とても無理だった。
助けてと縋るような女の目、大勢の男達の欲が体に絡みつき
それを面白そうに笑っている。
ナギは一切関与しなかったが、止めもしない。
結局は同罪だ。
ナギはどんどん昔の記憶が甦り、シリウスのメンバーやヒロインと過ごした日々が
黒い記憶に覆い尽くされていく。
ナギ
「…クソッ!」
そんな記憶を振り払うかのように
ナギは全力で走った。
(もう何も失いたくねぇ!!!)