シュガー☆ソウル
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コンコン
ナギ
「入るぞ?」
ナギは返事を待たずにドアを開けた。
ヒロイン
「あっナギ!?」
ヒロインはちょうど新しいシャツに袖を通した所で
インナーのタンクトップ姿だった。
返事も待たずに突然ドアが開いたので驚いた。
ヒロイン
「ごめんね? もしかして皆食べるの待ってる?」
ナギ
「...いや…」
ヒロイン
「? ナギ?」
部屋に入ってからも、閉めたドアの前に立ち
ボンヤリと何かを考えている様子だ。
それがハッキリと分かるように、現にナギはヒロインの呼びかけに気付いていない。
どうしたのかと、ヒロインはシャツを羽織ったまま
もう一度ナギに声を掛けた。
ヒロイン
「ナギ?」
ナギ
「…っ! あぁ、悪い…」
ヒロイン
「どうしたの? …心配掛けたから怒ってる?」
不安そうに見つめてくる視線を感じ、
ナギはゆっくりとヒロインの所へと歩き出した。
しかし一言も返事を返してこない。
ヒロインは眉をしかめながらナギを見つめた。
そしてもう一度勇気を出して、話し掛けた。
ヒロイン
「…ナギ? あの…」
見下してくるナギを、どれだけ見つめてもダメだった。
視線が合っているのに、ナギの心はどこかに行っているようだ…。
気まずくなり、フッと視線を逸らし
ヒロインは俯いた。
ナギは一体どうしてしまったのだろう…。
(ヒロインがあの子なのか…?)
遠くでヒロインの声が聞こえたが、完全に意識はそこになかった。
ナギは遠い記憶を呼び起こしていた。
正直、毎日考えていたかと言ったら
そんな事はなかった。
しかし、あの日あの山道で出会った子の事はずっと覚えていた。
背負いながら寝てしまった女の子を、何としてでも家に返そうと
普段街に降りるなんて事をしないナギは必死に家を探した。
明らかに街の人の視線が、難色を示していて
ヒソヒソと『山賊』という言葉が聞こえてきた。
そんなくだらない言葉に「チッ」と舌打ちをして
ナギは背中のヒロインが起きないように
ゆっくりと歩いた。
街の中を歩いて少し行った所で、目の前に中年の男性に連れられて来た女性が立ちはだかった。
中年の男の目つきと、女性の不安のそうな表情ですぐに分った。
(山賊にさらわれたとか思ってるんだろ?)
こういう大人の表情にはウンザリする。
あぁいう目をいつも向けられている。
『お前なんかいらない』という、言葉にしなくても伝わってくる視線。
慣れてるとはいえ、やはり気持ちのいい物ではない。
ヒロインと会って、山賊の自分を怖がらず
素直に頼ってくれた事に酔っていた…。
普通の反応は、目の前で起こっているようなものだ。
中年の男
「オイ! お前、その子に何したんだ!?」
ナギ
「…チッ…何もしてねぇよ!
山道で迷子になってたら連れてきたんだ。
途中で寝ちまって…」
最後まで言い切らない内に、一緒にいた女が
泣き出しそうな顔で駆け寄ってきた。
(どうせ、返せとか 汚い手で触るな だろ?)
これから言われるであろう言葉を予想して、ナギはタメ息をついた。
しかし、ナギの予想とは全く違う事が起こった。
何が起こったのか…
目の前が暗くなったと思うと、柔らかな包み込むような感触と
優しい花のような匂いが鼻をかすめた。
中年の男
「ア、アンタ! 何してるか分ってるのかい?!
その子は山賊だぞ?」
どうやら女に抱きしめられているようだ。
こんな状況は初めてだ。
どうしていいか分らず、振り払うにも背中にはヒロインがいる。
ナギは黙ってそのまま立ち尽くしていた。
すると優しい声が響いた。
女
「…ありがとう…
本当にありがとう!!」
ナギ
「!!?」
『ありがとう』なんて言われたのはいつ以来だろう。
驚いて言葉も出せず、目を見開いていた。
すると女は、スッと離れ
ナギの目を見つめた。
女
「重かったでしょ?
あなたのご家族は心配してないかしら?」
ナギ
「…オレ…家族なんていないから…」
女の目が優しくて、なんだかじっと見つめるなんて出来なかった。
それでも、やんわり微笑んだ顔が
なんだかくすぐったかった。
背中にいる女の子を受け渡すと、ナギはそのまま去ろうとした。
しかし女に呼び止められた。
女
「あっ! 待って!
何かお礼を…」
ナギ
「…いい… オレもそいつに元気もらったから…」
ナギはニッコリ笑って、走り出した。
それからしばらくして、ナギの属する山賊の一味は
山を移る事となった。
何度か街へ下りて、様子を見に行こうかと思っていたが
叶える事が出来なかった。
あの子がちゃんと笑っているだろうか…
イジメっ子に負けていないだろうか…
気になりながらも、日々の生活に追われ
ナギは次第に、そんな事を考えなくなっていった。
ヒロイン
「…ナギ? 大丈夫?」
ヒロインの声が届き、ナギはハッと意識を戻した。
目の前には、さっきよりも不安そうな表情をしたヒロインがいた。
ナギ
「…あぁ」
ヒロイン
「ホント? なんかボンヤリしてる…」
上目使いに見上げてくる顔が可愛かった。
もしあの子だったとしても、あの時はこんな可愛い表情も仕草もしなかった。
当たり前のことだが…。
そんな事を考えながら、ナギはスッとヒロインのシャツのボタンに手を掛けた。
ナギ
「…お前…頭クラクラしたりしてないか?
あんな日差し、直接浴びて…」
過去の記憶の事など一切話さずに、ナギはシャツのボタンをはめ始めた。
ヒロイン
「あっ…うん…平気…」
ナギにボタンをはめてもらうなんて、何だかいやらしくてドキドキしてしまう。
ナギ
「…もっと早く様子を見に行けばよかった」
ヒロイン
「あっ違うの! 私がいけないの…」
ナギは最後のボタンを掛けると、ヒロインを見つめた。
ナギ
「…ヒロイン…」
ヒロイン
「ん?」
見上げてくる不安げな表情は、あの時と変わってない気がする。
またナギの目が自分を通り越して、何か違うものを見ている。
ヒロインは、ギュッとナギに抱きついた。
ナギ
「!?」
ヒロイン
「ナギ? さっきから何考えてるの?」
小さく柔らかなヒロインを感じ、ナギは胸が温かくなった。
もしあの子がヒロインだったら…
昔も今も、こうして癒してくれるのはこの子だけだ。
ナギ
「…多分、お前の事…」
ヒロイン
「?」
そっと体を離し、キョトンとした顔をするヒロイン。
ナギは「ふっ」と優しく笑った。
ナギ
「飯食えそうか?」
ヒロイン
「え? あっうん! おなかペコペコ」
ナギがやっとこちらを見てくれている事が分かり、
ヒロインは安心した。
『多分、お前の事…』とは、何の事を言っているのだろう…。
ナギの態度が気になってしまう。
ナギ
「ん?」
ヒロイン
「あ…んーん、早く行かなきゃね!」
ヒロインは急いで身なりを整えて、ナギと一緒に部屋を出た。