protect love
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
・・・・・・・・・・・・・・
その頃ナギは城内の厨房にいた。
ここに来たのは2回目だ。
エドモンドに頼んで特別に入らせてもらった。
料理人
「兄ちゃん! 珍しいもん作ってるな!」
ナギ
「ヤマト料理で雑炊ってヤツだ」
ヒロインが目を覚ましたと聞いたのは、ついさっきの事だ。
ハヤテとトワが勢いよく部屋に飛び込んできた。
もちろんナギはすぐにでもヒロインに会いに行きたい所だが
一体どんなツラを下げて会いに行けばいいのだ。
襲撃に会ったあの日以来、どうしてもヒロインを見に行く事が出来ずにいた。
ひとりで眠る事が、こんなにも寂しく苦痛なんて
もうすっかり忘れていた。
ハヤテ
「…にい… ナギ兄!!!」
その声にハッと意識を戻すと、いつの間にかハヤテが横に立っていた。
ハヤテ
「ナギ兄! 鍋!鍋噴いてるぞ!!」
ナギ
「チッ!」
ナギは慌てて火を弱くした。
ハヤテ
「ったくよぉ… そんなんなるんだったら、顔見てくればいいのによぉ…
さっき様子見に行ったら普通だったぞ?」
そんな事出来るんだったら、とっくにしている。
ナギ
「…お前、今暇か?」
ハヤテ
「あ? あぁまぁ…って、まさかメシヒロインに持ってけとかじゃねぇよな?」
ナギ
「…よく分ったな…」
ナギは雑炊をトレーの上に置いた。
ハヤテ
「~~あのなぁ! ナギ兄!いくらナギ兄の頼みだって
オレは持っていかねぇぞ!」
ハヤテはムスッとした顔をして、厨房を出て行ってしまった。
ナギ
「チッ…」
ナギは仕方なくトレーを持ち、ヒロインのいる部屋へと歩き出した。
なんて言おう。
言葉が見つからない。
謝って、傷の具合を聞いて…
それから…
悶々と考えながら歩いていると、あっという間に部屋の前まで来てしまった。
ここまで来て、何を戸惑っているのか…
ナギはこんな臆病な自分が情けなくなる。
ドアの前で悩んでいると、廊下の向こう側からシンが歩いて来るのが見えた。
シン
「何をしてる? 入らないのか?」
ナギ
「………」
シンはトレーを持ったまま、気まずそうに俯いているナギは見て、「なるほどな」と思った。
ナギ
「シン…」
シン
「断る」
ナギ
「あ?」
シン
「断る。 自分で運べ」
ナギの胸の内を見透かすようにそう言うと、シンはヒロインの部屋をノックした。
するとヒョコッと顔を出したのはトワだった。
トワ
「あ! シンさんナギさん!!
…ナギさん!ヒロインさんが、飲み物欲しがっているんですが
何がいいですか? 僕作ってきます!」
ナギ
「…いや、オレが作って持ってくる。
コレ、ヒロインに食わしてくれ」
グッとトワに渡すと、ナギは部屋の中を見ずに
厨房へと引き返してしまった。
トワ
「え?ナギさん! 会わないんですか?!」
ナギ
「飲みもん作ったら、行く」
シン
「フン、逃げたな…」
シンはナギの背中を見送りながら、鼻を鳴らした。
大の男が何を怖がっているのだ。
そう思いながら、シンは久しぶりにヒロインの顔を見る事にした。
ヒロイン
「あっシンさん! 来てくださったんですか?」
ベッドボードにクッションを当てて、寄り掛かっているヒロイン。
少しやつれた顔をしているが、着ている白いワンピースがとてもよく似合っている。
自分が来た事で、喜んでくれるヒロインが可愛いと思った。
シン
「…お前ほどのバカは初めて見たぞ?
丸腰で海賊2人の前に飛び出すなんて、自殺行為だぞ」
腕組みをして冷たく見下ろすシンに、ヒロインは身を縮めるしかできない。
ヒロイン
「はい…反省してます…」
シン
「大体、ナギより弱いお前が出たところで…」
チクチクと嫌みを言われ、しょんぼりしている所へ
トワが割って声を掛けた。
トワ
「あ…シンさん、ヒロインさんのゴハン冷めちゃうので…
コレ、ナギさんが作ったそうです」
そう言ってトレーを手渡してくれた。
とってもいい香りのする雑炊だった。
卵と鶏肉とキノコとネギ。
ヤマトを思い出す様な、出汁の香りにホッと安心する。
ナギはきっとそういう事を考えて作ってくれたのだろう。
ヒロイン
「あの…ナギは?」
トワ
「ナギさんは…の、飲み物を作りに行きました」
ヒロイン
「そう…そっか…」
シン
「…お前に会うのがツライんだろ?」
ヒロイン
「!? なんですか?」
張り詰めた空気に、トワは気を利かせて部屋を出て行った。
シン
「お前に怪我をさせた上に、海賊として気ぃ抜いて戦うなんてありえねぇ。
船長にもかなり絞られてたしな…」
ヒロイン
「船長にもですか?!」
驚いて動揺しているヒロインを見て、こんなに傍にいる自分より
ナギの方が気になるのかと、少し意地悪をしたくなった。
シン
「お前の軽はずみな行動が、色んなトコに迷惑掛けるんだ!
だから襲撃ん時は、隠れてろって…」
苛立つ気持ちを込めてそう話していると、いつの間にかヒロインは顔を伏せていた。
言い過ぎたか…と、シンはベッドの縁に腰を降ろし
ヒロインの頬に触れようと手を伸ばした。
シン
「…まぁ…そういう無鉄砲な所が、お前の長所でもあるな…」
ふっと柔らかい頬に手が掛かると、ヒロインは顔を上げた。
そしてその顔を見たシンは驚いた。
ヒロイン
「ナギは今どこですか?」
シン
「…お前…」
バッと布団を捲り上げて、ベッドから降りようとする。
泣いているどころか、ヒロインは怒っていた。
シン
「ちょっ待て! ドクターにまだ動き回るなと言われてるだろ?」
ヒロイン
「離してください!
ナギが来ないんだったら、私が行きます!!」
シン
「お前オレの話し聞いてたか?
そういうのが勝手な行動って言うんだ!」
ヒロイン
「ナギが… ナギが傷ついているのに、じっとなんかしてられません!!」
そう言われ、シンはハッと手を緩めた。
ヒロイン
「…私だって、隠れて皆さんに迷惑掛けないようにしていた方が良かったくらい分かります…
でもあの時、ナギを失うくらいならって…
何もできないけど、助けたかったんです!」
ヒロインの目には涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうだ。
シン
「…それが自己満足って分からないのか?
現にナギも苦しんでる。
お前に助けなんて望んでいなかった」
ヒロイン
「…そうかもしれません…
でもナギじゃなくても、シンさんでも私飛び出していたと思います…」
シン
「何?」
ヒロイン
「シンさんだけじゃない、他のシリウスのメンバーの誰でも
同じようにしたと思います。
仲間ですもん… だって皆さん、そうやって私の事、いつも守ってくれているじゃないですか…」
シンは面を食らった。
今回『ナギ』であった事は、ヒロインにとって大きな要因のひとつだろうが
それが自分でもそうしたというのだろうか?
目の前で泣くのを一生懸命耐えている姿に、シンの胸はキュンと締めつけられた。
シン
「…お前に守られる程、マヌケじゃねぇ…」
ヒロイン
「!? ふっ…ふふ、そうですね?」
久しぶりに見る、柔らかい笑顔に
シンは温かい気持ちになった。
(こういうバカは、調子が狂うんだ…)
嫌みを言い通せなくなるヒロインの雰囲気はなんだろう。
シンはベッドから立ち上がると、「ナギを連れてくる」と言い残し
部屋を出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから何時間経っただろう。
やはりナギが部屋へ訪れる気配は一向になかった。
飲み物を持ってきてくれたのは、様子を見に来たソウシだった。
ヒロイン
「もぉ~~あったまきた!!!!」
ナギの避け続ける行動に、さすがのヒロインも限界だった。
ソウシには安静にしてろと言われたが、そんなのは無理だ。
ヒロインはベッドから起き上がると、部屋のドアへと向かった。
そっとドアを開けて、外の様子を伺うと…
侍女
「どうかなさいましたか?」
ヒロイン
「!! い、いえ…」
覗かせた顔をすぐに引っ込め、ドアを閉めた。
ヒロイン
「見張られてる…」
抜けださないように、ソウシかエドモンドに言われているのだろう。
まだ痛む背中が心配だが、抜けだせる手段はただひとつ。
目の前に広がる大きな窓だ。
この部屋は3階のようだ。
窓に掛かるくらいの高さに、大きく太い樫の木の枝が這い出していた。
高さを考えると、かなりの恐怖を感じるが
ヒロインはゴクリと喉を鳴らし
窓を開け放った。
下を見ると地上がほど遠い…。
シンの言葉を思い出す。
『お前の軽はずみな行動が…』
ヒロインは頭を振った。
ヒロイン
「ナギと話さなきゃ!!」
グッと窓の桟に足を掛けると、枝の上へと飛び乗った。
かなりの怖さだが、なんとかいけそうだ。
スルスルと枝に掴まりながら降りて行った。