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・・・・・・・・・・・・・
ヒロイン
「あぁ! 国王様、ゆっくりかき混ぜてください!」
国王
「ん? こうか?」
ヒロイン
「はい! ふふっ国王様、頬に粉飛んでますよ?
強くかき混ぜると粉が飛んでしまいます」
スッと人差し指で頬の粉を拭くと、なんだか色白の国王の肌が赤く染まった様に思えた。
国王
「…ヒロイン、あまり無防備に触るな」
ヒロイン
「? あっ! クランベリー焦げちゃいます!
この木べらでゆっくりかき回してください」
どれだけ国王がヒロインを意識し出しているかなんて、ヒロインにはこれっぽちも分かりはしなかった。
国王
「いい匂いだな」
ヒロイン
「ホントですね!」
煮詰まる甘いクランベリーの香りが、鼻をかすめ
オナカの減っているヒロインは、『ググッ~』と音が鳴った。
ヒロイン
「!! す、すいません!
オナカ…減ってて…」
ヒロインは恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
国王
「くっ…ふははっ! お前は女だろう?
ふふっホントに、面白い女だな…ククッ…」
オナカが鳴ったのがそんなに面白いのだろうか?
横でオナカを抱えながら笑っている国王を見て、ヒロインは少し驚いた。
こうして笑っている顔は、やっぱり自分と同い歳くらいの
少し少年ぽさの残るあどけなさを感じた。
ヒロイン
「…国王様…そうやって笑うと、とっても素敵です!
カッコつけてすました顔をするよりも!!」
国王
「…お前… 国王によくそんな事が言えるな…」
そう言われヒロインはハッとした。
確かにそうだ。 いくら歳が近いとはいえ、一国の王に、マフィンを作らせ
挙句とても失礼な事を言ってしまった。
ヒロイン
「す、すみません!」
国王
「ふっ…まぁいい。
久しぶりに笑った。 …そうだな、あの人も私の笑顔を見て
いつも微笑んでくれた」
ヒロイン
「…お母様ですか?」
国王
「!? 何故分かった?」
ヒロイン
「あ…執事さんが…
このマフィンもお母様が手作りされていたと聞いたので…」
国王
「…そんな事を…
もしかしてそれで私に作らせようとしたのか?」
国王は横で生地を混ぜるヒロインを覗き込んだ。
ヒロイン
「…はい… 国王様、お料理はとても手間が掛かります。
でも誰かを思って作るお料理は、そんな手間が吹っ飛んじゃうくらい楽しいものです。
そして出来上がったモノをおいしそうに食べてもらうと幸せに感じます!」
ヒロインにそう言われ、国王はハッとした。
自分は今まで料理なんてした事が無い。
食事も運ばれてくるものを、ただ口に入れていただけだ。
その料理を作ってくれている人の事など、考えた事は一度もない。
そういえば幼い頃、母の作ったマフィンを口に頬張る度に
母が嬉しそうにニコニコと笑っていた事を思い出した。
ヒロイン
「それにこのクランベリーも… この卵も
材料になるものには、全て作ってくれる方がいます。
そういう方達の事を考えると、大切に使って
大切に食べなきゃって思うんです」
ヒロインは目の前にあった卵を優しく手に取った。
国王は心の中で「そうか!」と思った。
この子は大切なモノを教えてくれているのだと感じた。
今までなんの不自由もなく、当たり前のように身の回りには沢山のものが満ち溢れており
無くなる大変さや、苦労を味わった事がない。
そんな事を教えてくれる人は誰一人としていなかった。
ヒロイン
「…私はこんなに立派な卵、見た事がありません。
きっと国王様の為にって一番いいものを届けてくれたんですね…」
国王
「…私は今まで何も気付いていなかった…
なんて愚かな国王だ…」
ヒロイン
「そんな事はありません!
だって、あんなに街は栄えているし
こうやって国王様の為に働く人で溢れているじゃないですか!」
ヒロインはこのキッチンで働くコックの事を言っているのだろう。
国王は今までそんな事、気にも留めた事がなかった。
ヒロイン
「…明日はこのお城の皆さんに朝食を出しませんか?
ナギが今作ってます!
このマフィンも一緒に出しましょう!」
ヒロインの笑顔が優しくて、国王はなんだか泣いてしまいそうになった。
身分も低い、女海賊のヒロインに世間というものを教わるなんて…
国王は胸の中に温かい感情が沸くのを感じた。
この感じ… いつだっただろうか?
母親が傍にいて、その笑顔を見たいから一生懸命に丘の上の花を摘みにいった。
『誰かの喜ぶ顔が見たい』
そんな感情は、とっくの昔に消えていた。
とにかく父を越えるほどの国王にならなければと、
躍起になり派手な事をし続けてきた。
しかしそれとは裏腹に、自分の心は擦り減っていった。
国王
「…お前はスゴイな…」
ヒロイン
「?」
国王
「この私を感動させたぞ…」
ヒロイン
「ふふっ本当ですか?
でも、これを教えてくれたのはナギです。
って言っても、こうやって口では言ってくれませんけど…
ナギの料理を食べて、一緒に料理をしてるとそういう気持ちが伝わるんです!」
国王は気付いてしまった。
ヒロインの好きな人とは、ナギのことだろう。
とても大切な人に違いない。
しかし国王はやっと自分の心を取り戻してくれたヒロインを
どうしても手放したくないと思った。
国王
「…そうか…
明日の朝食が楽しみだな」
ヒロイン
「はい! 一度食べたら、きっと忘れられないですよ?」
ナギの料理を思い出したかのように、クスクスと可愛い顔で笑うヒロイン。
夕食の時に見た笑顔と一緒だ。
この子にこんな顔をさせられるのは、ナギだけなのだろうか?
もし自分のものになったら、どんな表情を見せてくれるのか…
国王は煮詰まるクランベリーを見つめて、想いを馳せた。
・・・・・・・・・・・・
全ての料理の仕込みが済む頃には、時計が24時を知らせていた。
ハヤテ
「やっと終わったぁ~!」
トワ
「お疲れ様でした! これだけやっておけば、明日はすぐ用意できますね」
ナギ
「ありがとな」
ハヤテとトワは、少し疲れた顔をして部屋へと廊下を歩いていった。
ヒロインはついさっきまで国王と一緒にマフィン作りをしていたが
先に仕上がった様で、手伝うと声を掛けてきたが
なんだか素直になれず、「部屋に戻ってろ」と冷たく言ってしまった。
その時のヒロインの表情を思い出すと、胸が痛む。
ナギ
「はぁ…」
最後にキッチンを出ると、ナギはヒロインの部屋へと向かった。
・・・・・・・・・・・・
ナギは怒っている。
勝手な事をしたのは分かってるけど、あんな態度しなくても…。
ヒロインもナギの態度に少しムッとしていた。
でもナギと気まずいまま寝るのはもっと嫌だ。
話に行こうと廊下を引き返していると、向こう側からずぶ濡れのシンが歩いてきた。
ヒロイン
「シ、シンさん!?」
慌てて駆け寄ると、シンは濡れた前髪を手でグッと後ろに掻き上げた。
ヒロイン
「どうしたんですか!?」
シン
「船を見に行って来た」
ヒロイン
「こんな嵐の中をですか?」
シン
「あぁ、まさか泊まる事になるとは思ってなかったからな…
船が流されたら堪らないからな」
ポタポタとしずくがカーぺットの上に落ちている。
ヒロイン
「シンさん!早くお部屋行ってお風呂入った方がいいです!
風邪ひいちゃいます!!」
心配そうに見上げるヒロインを見て、シンは少し嬉しくなった。
顔には一切出さなかったが、ヒロインに心配されるのは、なんとも気持ちのいいものだ。
シン
「部屋に風呂はない…
まぁ着替えるから大丈夫だ」
ヒロイン
「え? お風呂ないんですか?」
シン
「あぁ… なんだ?
お前の部屋にはあるのか?」
ヒロイン
「はい!」
清潔好きのシンが、雨に濡れてベタベタな状態で寝るのは本意ではないだろう。
ヒロイン
「…良かったらお風呂使います?」
シン
「………」
願ってもない申し出に、シンは思わず喜んでしまいそうになった。
シン
「…まぁ、お前がそう言うなら使ってもいい」
ヒロインは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにクスリと笑った。
ヒロイン
「ふふっ、はい! 光栄ですシンさん!」
シン
「フン、じゃあお前はオレの部屋に行って着替えを持ってこい!」
ヒロイン
「えぇ?! どうしてそうなるんですか!」
ナギの所へすぐにでも行きたいのに…
シン
「風呂を使って欲しいのはお前だろ?
だったら、着替えぐらい取りに行け」
ヒロイン
「な、なんですかその理屈!」
シン
「なんだ? 文句でもあるのか?」
上から冷たい視線で見下ろしてくる。
ヒロイン
「うぅ… 分かりました。。」
シン
「フン、最初から素直に行くんだな」
いつもの不敵な笑みを浮かべて、シンはバスルームへと消えて行った。
シンはそういう人だったと、ヒロインは自分の甘さに嫌気がさした。
不機嫌に部屋を出ると、走ってシンの部屋を目指し、
ベッドの上にある着替えを手に持つと
自分の部屋へと戻った。
ヒロイン
「はぁはぁ… もぅ絶っっ対シンさんに声掛けないんだから!」
ヒロインは肩で息をしながら、ベッドにシンの着替えを置いた。
ヒロイン
「はぁ…ナギに会いにいかなくちゃ…」
バスルームからはシャワーの音が聞こえる。
ヒロインは少し大きめな声でシンに向かって話した。
ヒロイン
「シンさん! 着替えベッドの上に置いておきますね!」
少し待ったが返事は返って来なかった。
この距離だからきっと聞こえているだろうと思い、
ヒロインはナギに会いに行く為、ドアへと向かった。
ドアを開けると目の前にナギが立っていた。
ヒロイン
「!! ナ、ナギ!?」
ナギ
「…どっか行くのか?」
いきなりドアが開いた事に驚きもせず、不機嫌な声で聞いてくる。
ヒロイン
「どっかって…ナギに…」
シン
「オイ!着替えどこに置いた?」
ヒロインの声にかぶって、腰にバスタオルを巻いたシンが声を掛けてきた。
ナギの存在は全く気付いてないようだ。
シンの方を振り返ったヒロインは、その光景に
もうナギの方を振り返る事ができない。