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部屋を出たナギとヒロインは、長い長い廊下を歩いていた。
前を歩く執事の後ろでヒロインは、コソッとナギに話し掛けた。
ヒロイン
「ナギ嬉しいでしょ?」
ナギ
「…分かるか?」
ヒロイン
「ふふっうん!」
普段は無表情なナギだが、隣にいるだけでワクワクしているのが伝わる。
何しろお城のキッチンを自由に使っていいのだ、
料理人にとって一番気になる場所だろう。
いつもの船の中とは違い、広さも置いてある物も桁違いだろう。
成り行きでこうなってしまったが、ナギのこんな顔が見られるなら
こうしてお城へ来た事は間違いではなかったと思える。
執事
「では、こちらで…
必要なものは何なりとお使いください。
お困りの際は、このベルを鳴らして下さい。
すぐに私が参ります。」
ナギ
「朝食って何人分作ればいい?」
執事
「国王様と皆さまの分だけで大丈夫です」
ヒロイン
「働いている皆さんは?」
執事
「いえいえ、私達は国王様と同じものを食べるなんて滅相もない…」
ヒロイン
「そうなんですか…?」
ナギ
「何人いるんだ、ここの使用人は」
執事
「ざっと100はいるでしょうか?
気になさらずに、それぞれが用意してきますので…」
執事はそう言って、キッチンを出て行ってしまった。
ヒロイン
「…ここのキッチンって、国王様のお料理作る為だけにあるって事?」
ナギ
「…まぁ客人をもてなしたりはあるだろうが…
もったいないな…」
ヒロイン
「うん…なんだか、シリウス号のキッチンと違って
寂しい感じがするね…」
とても清潔で、広いキッチンだが
人が使い込んだ形跡や、そういった温かい歴史が
毎日毎日拭きとられているような、そんな冷たい雰囲気を感じるキッチンだ。
ヒロイン
「食材はこんなにあるのに…」
ナギ
「…ヒロイン、オムライスはちょっとお預けな?」
ヒロイン
「!! うん!
トワくんとハヤテさんにも声掛けてくる!
100人分作るんだもん!」
ヒロインは嬉しそうにキッチンを飛び出していった。
やっぱりナギだ!
ナギのそういう優しさが大好き。
ヒロインはニコニコして、さっき食事をした部屋を目指した。
まだみんないるだろうか?
すると突然廊下の脇から手を引かれ、
暗い部屋の中へと連れ込まれてしまった。
ヒロイン
「だっ誰!?」
真っ暗で何も見えない。
誰かにしっかりと、腰を抱かれている。
???
「…抱き心地も悪くないな」
ヒロイン
「国王様!?」
国王
「やっと2人きりだな」
見上げた拍子にアゴに手を掛けられた。
目が段々と慣れてきて、国王の顔が思いの外近くにあると気付く。
国王
「そんな顔するな… 抑えきれなくなる」
ヒロイン
「!? こ、国王様!
私の事気に入らなかったんじゃ!」
唇が触れるか触れないかの所で、ピタッと動きを止める国王。
国王
「…お前があんなに魅力的だとは思わなかった。
危なく見過ごす所だった」
ヒロイン
「え…?」
国王
「ふっ、男に慣れてないのか?
この私とこうなれる事を望む女はたくさんいるというのに」
ヒロイン
「離してください!!
私はそんな事望んでません!」
慌ててアゴに掛かった手を払い、国王の体を押した。
国王
「望んでないだと?」
ヒロイン
「はい! 私には好きな人がいますし、
今明日の朝食の用意で忙しいんです!」
そう言ってドアノブに手を掛けると、後ろからギュッと抱きしめられた。
国王
「誰が出て行っていいと言った?
…お前のような女は初めてだな…
朝食なんてどうでもいい、私の相手をしろ!」
ヒロインはその言葉にカチンと来た。
ナギがどれだけの想いで料理を作っていると思っているのか…
ヒロイン
「…朝食なんてってどういう事ですか?」
国王
「? ただの食事だろ?
そんな事に気を取られても仕方がない
時間の無駄だ」
ヒロインは勢いよく国王から離れ、振り返り向き合った。
ヒロイン
「国王様、お言葉ですがそういう言い方ってないです!
ナギが作ってるからだけじゃなくて、毎日国王様の為に
一生懸命作っている人がいるんです!」
国王
「…? 当たり前だろ?
それが仕事だ」
何を言っているのかとばかりに、国王はキョトンとした声を上げる。
ヒロイン
「…国王様は食事が楽しくないですか?」
国王
「そうだな… 楽しいなんて思ったのはいつだったか…」
急に声のトーンが下がり、さっきまでの高飛車な態度が見えなくなった。
国王
「…楽しいなんて、私には無縁だ。
父が亡くなって、7歳でこの座について
自由も意思も全て奪われた…」
ヒロイン
「お母様は?」
国王はヒロインから離れ、部屋の奥にあるソファーを目指して歩き出した。
時折、雷の光が部屋を明るくする。
国王
「…母には、王になってから会っていない。
そうだな…楽しいって感情はそこで消えたのかもしれない…」
国王の表情は暗闇で全く見えないが、その声はとても幼く聞こえた。
国王
「…呆れたか?
いい大人が自分の事も決める事ができない…
こうやって女遊びをしても、気持ちも晴れない…」
ソファーでうなだれる国王の姿が見え、ヒロインは何だか切ない気持ちになった。
とてもそうは見えなかったが、この人は国王になる為に
普通の人が当たり前にできる事が何もできないのだ。
母親に会う事も、恋人を選ぶ事も…
ヒロイン
「…国王様…」
国王
「…なんでお前にこんな話をしてしまったんだ…
もぅいい、お前は不思議なヤツだな」
ヒロイン
「え?」
国王
「…今まで会ってきた女とはまるで違う。」
ヒロイン
「そう…ですか?」
国王
「あぁ、なんだか変な気持ちになる」
国王が顔を上げて見つめてくる。
『変な気持ち』とは、やっぱり気に入らないヤツからくるものだろうか?
ヒロインはこれ以上不快な思いをさせないようにしようと、部屋を出る事にした。
ヒロイン
「国王様… 私そろそろ行かないと…」
国王
「…お前も私を見捨てるのか?」
ヒロイン
「え?」
国王
「…みんなそうだ。
結局は私が無能で何もできない若造だと思ってる。
そうやって、いつも馬鹿にされて私は毎日過ごしているんだ」
ヒロインは胸がとても痛くなった。
なんて可愛そうな人だろう。
そうやって周りに敵を作って、自分を守ってきたのだろうか?
誰もこの人に手を差し伸べる人はいなかったのだろうか?
ヒロインは出て行こうしていた体を反転させ、国王のいるソファーへと向かった。
国王
「…来るな。
これ以上恥を曝したくない」
膝に手をつき、顔を覆っている国王の前に
ヒロインは膝をついて座った。
ヒロイン
「…国王様? 私はそんな風には思ってません…
私と歳もそんなに変らないのに国を治めている事に驚きました。
でもきっと国王様の周りにいる人たちは、皆がそんな人ではありません。
少なくとも執事さんは…」
国王
「…何が分かる…
あの男も父の時代からいる男で、私の無能ぶりを腹の中で笑っている」
ヒロイン
「そんな事ないですよ?
執事さん、国王様の好きなものいっぱい教えてくれました。
卵の焼き方も、クランベリーのマフィンが好きな事も…」
国王
「…それは執事として当然だ」
ヒロイン
「…小さい頃の事もです。
執事さんは国王様を自分の孫のように嬉しそうに話していました。
国王様?」
国王
「…なんだ?」
ヒロイン
「一緒にお料理してみませんか?」
国王
「何!?」
パッと顔を上げた国王は、目の前にとても可愛い笑顔を浮かべたヒロインがいて
胸がドキッと鳴った。
ヒロイン
「行きましょう!
国王様、一緒にマフィン作りましょう!」
ヒロインは国王の返事も待たずに、手を掴むと部屋を出て行った。
・・・・・・・・・・・・
ハヤテ
「ナギ兄やってる~?」
トワ
「お手伝いします!」
キッチンにハヤテとトワがやってきた。
ナギ
「あぁ悪いな。
…ヒロインはどうした?」
ハヤテ
「ヒロイン? 知らないけど?」
ナギ
「? ヒロインから聞いて来たんじゃないのか?」
トワ
「僕たち様子見に行こうって来たんです…」
ナギはそれを聞いて不安を感じた。
キッチンを出てから30分は経っているのではないだろうか。
広い城の中だ。
きっと迷子になったに違いない。
ナギ
「…ちょっと見てくる」
トワ
「あっじゃ僕たち、この辺の野菜の皮向いときますね?」
ナギ
「頼む」
そう言ってキッチンのドアに向かうと、当の本人がキッチンに入ってきた。
ヒロイン
「わっ! ナギ!?
ごめんね?ドア当たらなかった?」
ナギ
「…当たってねぇ…
お前どこ行ってた?」
ナギがヒロインを見下ろすと、ヒロインの背後に人の気配を感じた。
ヒロイン
「えと…ちょっと色々あって…」
ナギ
「? …何で国王と一緒にいる?」
ナギは嫌な予感がし、不機嫌な声が漏れてしまう。
国王
「それはお前には関係ないだろう。」
国王はキッチンに入ると、ナギを睨みつけヒロインの手を引いた。
国王
「さっさ用意しろ!
何で私がこんな事をしなくてはいけないのだ」
キッチンにいるハヤテもトワも驚いて何も話せなくなってしまった。
ナギ
「おいヒロイン、どういう事だ」
ヒロイン
「えっと話すと長いんだけど…
とりあえず国王様とマフィン作るね?
明日の朝食…マフィン出してもいい?」
気まずそうに言うヒロインを見て、ナギはタメ息をついた。
ナギ
「…勝手にしろ」
きっとなんか面倒な事を引き受けたか、しようとしているに違いない。
あれだけヒロインを狙っていると忠告したのに、何をしているのだ。
ナギは段々と腹が立ってきた。
少し離れた場所で国王と楽しそうにマフィン作りをしているヒロインに「いいかげんにしろ!」と、声を掛けようか悩んだ。
ハヤテ
「ナ、ナギ兄?」
ナギ
「なんだ?」
ハヤテ
「…めっちゃ殺気立ってるけど…」
ダンッと勢いよく包丁をまな板に叩きつけた。
トワ
「わわっ! ナギさん落ち着いてください!
ヒロインさんの事ですから、きっと理由があって…」
ナギ
「そんな事は分かっている…」
ハヤテ
「それにしても…なんつーか距離近いよな…」
そう言われ顔を上げて、2人を見ると
この城に来てから初めて見る様な笑顔を浮かべ
ヒロインの横にピッタリとくっついている国王が目に入った。
ナギ
「チッ」
今すぐにでもヒロインを呼び戻したい。
トワ
「…僕、声掛けてきましょうか?」
ナギ
「…いい… ほら手ぇ止めるな。」
ナギはできるだけ視界に入らないように、料理に集中する事にした。