一番好きなものは…
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ハヤテは甲板のマストの上にいた。
今日は一段と冷えるのに、そんな寒さなど気にならないほど
ハヤテはうなだれていた。
空は澄み切って満点の星がハヤテを見下ろしていた。
ハヤテ
「…はぁ…」
小さなタメ息をついた。
ナギはあの女と何をしていたのだろう。
何故あの女に愛しそうな笑みを送っていたのかと考えていると、不意に声を掛けられた。
ヒロイン
「ハーヤテさん! ここにいたんですね!」
ハヤテ
「ヒロイン!!」
鼻の頭を赤くして、白い息を吐きながら
笑顔でマストに登るヒロイン。
ハヤテは慌てて手を掴み、ヒロインを引き上げ
横に座らせた。
ハヤテ
「お前危ねぇだろ?!
こんな暗がりで、落ちたらどうすんだよ!!」
ヒロイン
「それは…ハヤテさんも一緒です!」
ハヤテ
「オレは慣れてるからいーんだよ!」
ヒロイン
「じゃあハヤテさんが落ちないように見てて下さい」
そう言って、ニッコリ笑うヒロインを見て
ハヤテの心は痛んだ。
こんないい子を自分が見てしまった事で傷つけてしまった。
ハヤテはヒロインを見ることが出来ず
落ちないようにヒロインの腰に手を回した。
ヒロイン
「あっ…ハ…ヤテさん?」
ハヤテ
「…落ちんなよ?」
距離の近いハヤテに驚いたが、元気のない姿に
思わず聞きたくなってしまった。
ヒロイン
「ハヤテさん…ナギが浮気したって…思いますか?」
ハヤテはハッと悲しそうな顔をして、
ヒロインを見つめた。
ハヤテ
「…んなもん…わかんねぇよ…」
そして視線を逸らし、俯いた。
ヒロイン
「ハヤテさんもナギの事好きだから、信じられないだろうし
そんなはずないって思いますよね?」
ハヤテ
「…あぁ」
ヒロイン
「なのに、本人はしっかり説明もしないし…
ふふっ、なんだかスゴくナギらしくて
私、どうでもよくなっちゃいました!」
隣で可愛く笑うヒロインに、ハヤテは驚いた。
ハヤテ
「どうでもいいってお前!」
ヒロイン
「あ…どうでもいいっていうか…
分からないんですけど、ナギが浮気したら
私すぐ分かる気がするんです。
ナギの事…好きだから余計分かる気がするの…」
ハヤテは空を見上げるヒロインを見て、
やっぱり好きだと思った。
こんなにまっすぐ愛されたら、自分はどうなるんだろうと
ヒロインと恋人同士の妄想を巡らす。
ヒロイン
「ハヤテさん…もしハヤテさんの気持ちが治まらないならしょうがないですけど、
ナギと仲直りしてくださいね?
私ハヤテさんとナギがいつも通りになるの待ってます!」
月明かりに照らされ、キラキラと輝くヒロインの瞳。
ハヤテはポケットに手を入れて、ヒロインへのプレゼントを取り出した。
ハヤテ
「コレ…やるよ」
ぶっきらぼうに突き出された右手に入っていたのは
ブローチだった。
ヒロイン
「わぁ可愛い! でもこんな素敵なの…」
ハヤテ
「別に安もんだし…」
照れた顔のハヤテを見て、ヒロインは微笑んだ。
ヒロイン
「じゃあマフラー巻いた時つけますね♪
わぁ!こうやってかざすとキラキラしますね!」
嬉しそうに月にブローチをかざす。
ハヤテはその表情に堪らなくなってしまう。
ハヤテ
「…ナギ兄には、謝る…」
ヒロイン
「え?」
ハヤテ
「でも謝んだったら、ついでにもう一個謝る…」
ヒロイン
「!? んっ!」
「何を?」と聞き返そうとした瞬間、ハヤテの顔が近づき
唇を塞がれた。
ほんの数秒の出来事なはずなのに、やけに長くそうされた気がした。
その証拠に唇が離れても、しっかりハヤテの柔らかい唇の感触が残っていた。
ハヤテ
「よっし、じゃ戻るぞ!」
ヒロインはあっけにとられ、ぼんやりとハヤテを見つめた。
(今、何をされたの?)
ハヤテ
「…んだよ…そんな顔すんなよ…」
ハヤテは恥ずかしそうに俯くと、ヒロインの膝の下に腕を通し
グッと力を入れると、そのまま抱き上げ
マストの下へと飛び降りた。
ヒロイン
「きゃあ!」
思わずギュッとハヤテの首元にしがみついてしまった。
ハヤテ
「あんまくっつくなよ…あれで止めたのに…」
ヒロイン
「え?」
ハヤテ
「な、なんでもねぇよ!
お前ナギ兄の料理が美味いからって、食い過ぎなんじゃねぇの?
腕折れるかと思った!」
二カッといつもの笑みを浮かべてハヤテはゆっくり床へとヒロインを降ろした。
ヒロイン
「!! そ、そう思うならこんな事しないでください!!!」
ハヤテは「あはは」と笑って船内へと入って行く。
ヒロインはハヤテにされた事が顔に出ないように
気持ちを落ち着かせてから
ハヤテの後を追った。
・・・・・・・・・・・・・・・
ハヤテ
「遅せぇよ!」
ケーキを持って食堂に戻ると、ハヤテの怒鳴り声が聞こえた。
誰のせいですぐに戻れなかったと思っているのか…
ヒロインはカチンときて、ハヤテに負けない憎まれ口を叩いた。
ヒロイン
「ハヤテさんは、いらないって事ですね!?」
フンッと顔を背けると、ハヤテは慌てたように話しかける。
ハヤテ
「ち、ちげぇよ!
お前、なんだかナギ兄に似てきたぞ?」
ナギ
「…どういう意味だ」
ハヤテはナギに睨まれ、トワの後ろに隠れた。
ハヤテ
「い、いい意味でだよ!
ナギ兄優しいし… な?」
トワに救いを求めるも、泥酔しているトワには全く通じない。
トワ
「なんれすかぁ?」
リュウガ
「オラ、真ん中開けてやれよ!
ヒロインがケーキ持ってんだろ?」
リュウガの声にナギが空になった大皿を2枚キッチンへ下げに行った。
ヒロイン
「じゃ置きますね!
私からのクリスマスプレゼントです♪」
大きな木のトレーにレースのペーパーが引いてあり
そこには直径が10cm程のホールケーキが5個並んでいた。
ソウシ
「わぁ! スゴイね!!
これ全部味違うの?」
ヒロイン
「はい! みなさんをイメージして作ったんです!
船長はお酒好きなので、ブランデー入りのチョコケーキで
ソウシさんは、抹茶のスポンジに小豆クリーム。
シンさんは、モンブランで
ハヤテさんはチーズケーキ、トワくんはスポンジの間にイチゴのムースが入っているよ?」
それぞれクリスマスらしいデコレーションがしてあり、
トワのだけクマがサンタの帽子をかぶったようなクッキーが
アイシングされて乗っかっていた。
ハヤテ
「すっげぇ~! コレ全部お前作ったのか?」
ヒロイン
「はい!」
シン
「ま…人にはひとつくらい取り柄がないとな…」
ソウシ
「抹茶ってヤマトのお茶だよね?
一度飲んだ事あるけど、ケーキは初めてだな」
メンバー全員思い掛けないプレゼントに、まじまじとケーキを眺めていた。
するとナギが食堂へと戻ってきた。
リュウガ
「ナギ見てみろよ!」
ナギ
「!? コレあの時間で全部作ったのか?」
さすがのナギも驚いている。
ソウシ
「あれ? そういえばナギのケーキないね?」
その問いにヒロインはドキリとした。
ヒロイン
「あ…そうなんです!
数多すぎてもあれかなぁ~って思って…
ナギのは作らなかったの…」
申し訳なさそうにナギを見ると、ポンッと頭に手を置かれた。
ナギ
「気にするな
それにしてもこの数作れただけでもスゴイな」
ヒロイン
「昨日下準備してたの!」
ナギに誉められるのが一番嬉しい。
ヒロインは「えへへ」と照れた笑いを見せると
ナギも優しく微笑み返してくれた。
ハヤテ
「いいから早く食おうぜ!
オレチーズケーキだろ? うまそ~!!」
ヒロイン
「あっ! ハヤテさん待って下さい!!
コレ、7等分するんです!!
そしたら色んな味食べれるじゃないですか」
ソウシ
「なるほどね~」
シン
「オレがモンブランってどういうイメージなんだ」
ヒロイン
「シンさんはレアチーズって感じもするんですけど、
マロンクリームの上に粉砂糖ふった感じが
シンさんぽくて…」
シン
「…意味が分からない…」
ヒロイン
「いいんです! イメージなんですから!!」
ヒロインがナイフで7等分しようと切り込みを入れると
シンが角度がどうとか、大きさがどうとか
細かく注意をし始めた。
ナギは横でそれを聞いていたが、頭はヒロインに向いていた。
自分にケーキがない事に、思いの外ダメージを受けているようだ。
ナギはケーキの切り分けを手伝いながら、皿に盛り付けているが
ほとんど倒れてしまっている。
ヒロイン
「ナギ? あの…大丈夫?」
ナギ
「あぁ…」
ハヤテ
「別に倒れてても、味は変わらねぇだろ?
も、食っていいか!?」
ヒロイン
「ふふっはい! どうぞ!!」
メンバーの嬉しそうな顔を横目に、ナギは少しだけ
落ち込んだ気持ちでケーキにフォークをさした。