一番好きなものは…
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ようやく生地の仕込みが終わったヒロインは、型へ生地を流し込むと
オーブンへと向かった。
ヒロイン
「ナギ、オーブン使っちゃって平気?」
ナギ
「あぁ」
その返事をもらうと、いそいそと予熱で温まったオーブンの中に
型を置いた天板を入れた。
ヒロイン
「よっし! ナギ、焼き上がるまで、手空いたよ?
何か手伝う?」
ナギ
「倉庫からオリーブオイル取ってきてくれるか?」
ヒロイン
「うん!」
ヒロインはキッチンのドアを開けると、廊下の寒さに驚いた。
キッチンの中は熱がこもり、とても温かかったのに
廊下はこんなに寒いとは思いもしなかった。
戻って上着を取ってこようか悩んだが、倉庫に行くだけだったので
そのまま走り出した。
倉庫に着くと、より一層寒かった。
急いでナギに頼まれたオイルを探し、階段を駆け上がると
目の前に人の気配を感じ、慌てて足を止めたが間に合わなかった。
ヒロイン
「きゃあ!」
ドンッとぶつかり、体勢を崩し
登ってきた階段へと落ちそうになるヒロイン。
シン
「バカが! 前見て歩け!!」
シンに腕を掴まれなければ、そのまま階段を転がり落ちていただろう。
ヒロイン
「す、すいません…」
シンはヒロインの腰を抱き、階段の昇り口まで引き起こした。
シン
「お前はなんでこんな薄着をしてる?
風邪を引きたいのか?」
ヒロイン
「す、すぐキッチン戻るからいいかと思ってぇ~うぅ~」
シンに足止めされてる今も、ガタガタと震えるくらい
寒さが体を冷やしていく。
思わず両手で体を抱きしめた。
シン
「チッ…戻る前に、ちょっとこっちこい!」
ヒロイン
「えっ? シンさん私ホントに寒いので…」
シンは何も言わずスタスタと歩き出していった。
ヒロイン
「シ、シンさん!?」
ナギに頼まれているオイルも、焼いている途中のケーキのスポンジも気になるのに…
行かない訳にはいかず、シンの後を追いかけた。
ヒロイン
「シンさんどこ行くんですか?」
シンが入って行ったのは航海室だった。
中に入ると、とても温かく
それだけでなんだかホッとしてしまう。
シンは机の引き出しの鍵を開け、そこから小さな箱を取り出した。
シン
「…どうした?こっちへこい」
ヒロイン
「あ…はい…」
おずおずとシンに近づく。
すると、シンはグイッと手を引き、ヒロインをギュッと抱きしめた。
ヒロイン
「シンさん! やっ!ど、どうしたんですか?」
かなりの至近距離に胸がドキリと鳴った。
シンの香水の香りがいつもより近く感じ、じっと見下ろす目が
なんだか熱っぽい。
シンはそっとヒロインの耳に触れた。
シン
「お前ずっとこのピアスしてるな…」
ヒロイン
「え…?」
腰に手を回されてしまい、動く事ができないヒロイン。
こんな姿を誰かに…ナギに見られたら…
ヒロイン
「シ、シンさん! やめてください!!
これはナギにもらったものなんです!!」
シンがピアスを外そうと、耳に触る。
その言葉にシンはピクリと眉根を上げた。
シン
「なるほどな…」
シンは手を離すと、小さな箱をパコッと開けた。
そこにはきれいなピンク色の石が入ったピアスが
入っていた。
シン
「…クリスマスプレゼントだ…」
ヒロイン
「えっ? こ、こんな高そうなものもらえません!」
ヒロインは驚いて必死に首を振った。
するとシンの手が後頭部に回り、グッと髪を握る。
シン
「黙れ! でないと塞ぐぞ!」
シンの顔が近づく。
あまりの事にシンから目を離す事ができない。
シン
「フン…ホントに黙るとはな…キスしやすくなった」
ヒロイン
「シ…さ…怖い…」
ヒロインはギュッと目を瞑り、思わず口に出してしまった。
シン
「怖いだと?」
あと1センチという距離で、シンはピタリと動きを止めた。
そして身を硬くして、目を瞑るヒロインを見て
強引にでもしてしまおうと思っていた想いが折れてしまった。
ヒロイン
「…シンさん…ど…して…」
そっと目を開けるヒロイン。
その瞳が潤んでいた。
シンはその表情を見て、胸がズキンと痛んだ。
シンはヒロインの頬に手を掛けた。
シン
「お前が悪いんだ…ナギ、ナギってバカみたいに言うからだ」
ヒロインはキョトンとした顔をして、なおも潤んだ目でシンを見つめる。
シン
「…お前その顔…やめろ…理性が飛ぶ…」
ヒロイン
「?」
シンは一度押さえた欲情が再び沸き上がる。
ヒロイン
「…シンさん…私もう行かないと…ナギに怒られちゃうんで…」
シンの胸を押し、腕の中から抜けだそうとするヒロイン。
またしても「ナギ」という言葉が出て、シンはカッとなる。
シン
「何度言えば分かる? お前はナギの犬か?」
シンは離れようとしたヒロインをキツク抱きしめた。
ヒロイン
「シンさっ…」
シン
「…少しだけ…こうさせてくれ…」
急に切ない声で話すシンに、ヒロインは抵抗していた手を緩めた。
シンはヒロインの小ささを確かめるように、しばらく動かなかった。
シン
「…っ…よし、行っていいぞ…」
ヒロイン
「!?」
いきなり体を離され、いつものシンらしい言い方に
ヒロインは思わず吹き出してしまった。
ヒロイン
「ふっふふ」
シンはいつになく顔を赤らめ、シッシッと手を払いながら
「早く出ていけ」と言った。
ヒロインは笑いながらお辞儀をすると、航海室を出た。
シンは静かに閉まったドアを見つめ、タメ息をつきながらドカッと椅子に座った。
そして目を閉じ、顔を上にあげた。
シン
「なんなんだアイツは…」
しかしシンの体には、しっかりヒロインを抱きしめた感触が残り
シンはそれだけで満足している自分に驚いた。
あの場でキスを止めた事も…
相手の気持ちを考えて止めるなんて、初めてだ。
ヒロインが自分のモノになったら、一体どうなってしまうんだ。
シンの胸は今さっきまで抱き合っていたヒロインを想い、焦がれている。
シン
「…次は止めねぇからな…」
シンはそう呟いて、立ち上がった。
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ヒロインはシンの部屋を出てから、急いでナギのいるキッチンを目指した。
シンは一体どうしたのだろう?
あぁいう事はよくからかってしてくるが、今日は何だか怖く感じてしまった。
冗談って思えなかったからか…?
ヒロインはブンブンと頭を振って、何もなかったように笑顔を作って
キッチンのドアを開けた。
ナギ
「遅かったな?」
ドアが開いた瞬間、ナギが顔を上げた。
ナギ
「分かりずらかったか?」
ヒロイン
「あ…う、うん。 横着して明かりつけなかったら時間掛かっちゃって…」
目も合わさずナギの横で、手を洗おうと傍にくるヒロイン。
その瞬間ナギは気付いてしまった。
ナギ
「シン…」
その名前が出て、ヒロインは心臓がドキリと音を立てた。
ナギ
「シンに会ってたのか…?」
ヒロインからシンの香水の香りがする。
なんで嘘をつく?
ナギは一向に目を見ようとしないヒロインのアゴに手を掛けて
グイッと上を向かせた。
ナギ
「何ビビってんだよ?」
ナギに瞳を覗きこまれ、ヒロインはもうどうする事もできない。
ナギ
「シンに何かされたのか?」
すると勢いよく首を振るその姿に、「何かあった」なと感じるナギ。
ヒロイン
「…シンさんには会った…よ? でも何も…」
話してこないという事は言いたくないということだ。
ナギはそれ以上何も言わずに、チュッと唇にキスをした。
ヒロイン
「ナギ??」
ナギ
「オラ、オーブンそろそろ時間だぞ?」
ヒロイン
「わっ!」
オーブン用のミトンの手袋をペシッと頭に置くナギ。
ヒロインはなんだかナギに隠し事をしてしまったようで
胸が苦しくなった。
オーブンを開けるとたち込めていた熱風がぶわっと外へ出ると
中からスポンジの焼けたいい匂いが部屋中に広がった。
きれいな焼き上がりに思わず笑顔がこぼれる。
ナギはその笑顔を見て、優しく微笑んだ。
ヒロインが傍にいて、笑うだけで幸せだと心から思い
それだけで充分だと思うのであった。