スノーフレーク
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キッチンに戻ったヒロインは、調理台に投げ出されたナギのバンダナを手に持った。
ナギはもう嫌いになってしまったのだろうか?
毎日当たり前のように思っていたナギと一緒にいる事が
本当は特別な事だったと、改めて感じていた。
そう思うと涙が止まらなくなった。
ソウシ
「あ…ごめんね?」
ヒロイン
「ソウシさん…」
人の気配を感じ、振り返ると
ソウシがキッチンの扉の前に立っていた。
ヒロインは慌てて、涙をぬぐうと
オーブンの中の様子を覗き、天板を取りだした。
ヒロイン
「ソウシさん!クッキー焼いたんです!
よかったら持っていきませんか?」
目を真っ赤にして、鼻声なのに、一生懸命普通を装うヒロインが、とても可愛かった。
ソウシは泣いている理由も何も聞かずに、いつも通りに接した。
ソウシ
「さっきからいい匂いしてたから、気になってたんだ。
クッキー焼いてたんだね」
ヒロイン
「はい…あの!ソウシさん、お願いしたい事があります。」
ソウシ
「?」
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トワは見張り台で、満点の星空を眺めていた。
冬の空は空気が澄んでいて、星がいつもよりキレイに見える。
ソウシ
「トーワーお疲れ様~!」
トワは考え事をしていたので、ソウシが梯子を登ってくる音に気付かなかった。
トワ
「ソウシ先生! こんな時間にどうしたんですか?」
トワはかなり驚き、慌てて立ち上がった。
ソウシ
「差し入れだよ。 今日は一段と冷えるね」
トワ
「差し入れって…ソウシ先生がですか?」
ソウシ
「まさかぁ!ふふっ開けたら分かると思うよ?」
ソウシはトワにバスケットを渡すと、見張り台へ上がり込んだ。
トワは少し気まずさを感じたが、ソウシと一緒に腰を降ろし
チェックの布に包まれたバスケットの中身を取りだした。
トワは布を開けて、目を見開いた。
ソウシ
「…誰が作ったか分かる?」
トワは手の中にあるチョコチップクッキーを見つめたまま
コクンと頷いた。
ソウシ
「どうしてヒロインちゃんが自分で届けに来なかったと思う?」
トワ
「え…?」
ソウシ
「いつもだったら、きっとヒロインちゃんが来てくれたと思うよ?
そうできなかったのなんでだろ?」
そう言われトワは、ハッとした。
自分の事しか考えてなかったが、ヒロインはきっと
そっけなくした自分を思って、わざと届けに来なかったのだ。
自分が勝手に意識してしまっただけなのに、ヒロインは気を使って…
そう思うとヒロインに申し訳ない事をしたと
今さら反省した。
ソウシ
「トワ? 好きな人を心配させるのは良くないよ?
そういう事で気を引いたりするのはもっとよくない。」
トワ
「そんなつもりは!!」
ソウシ
「…でも今トワがしてるのはそういう事だよ?
ヒロインちゃん、スゴク心配してた」
トワはソウシの言葉に何も返せなくなってしまった。
ソウシ
「トワ…明日から普通にできる?」
トワ
「はい! します!!
僕…やっぱり好きな気持ちは変わらないですけど
心配掛けたり、気まずくなるのは嫌です!」
ソウシ
「うん、良かった。
いい子だねトワ。」
トワ
「ソウシ先生は…ヒロインさんの事…好きですか?」
ソウシ
「私!?」
ソウシはトワのすがる様な目に、微笑んでしまった。
トワは自分の感情に不安を感じているんだろう。
ソウシ
「そうだね…うん、好きだよ?
でも今はナギとの関係を壊したり、ヒロインちゃんを泣かせてまで欲しいとは思わないかな…」
ソウシは星空を見上げた。
本当に本心をトワにだけ伝えた。
こんな事を自分で口にする日が来るなんて思わなかった。
トワはそれを聞いて、やはり自分は子供だと思った。
自分はそこまでの想いに達する事が、まだできない。
トワ
「ソウシ先生…僕、早く大人になりたいです。
好きな人を傷つけたくないです。」
トワの泣きそうな顔を見て、ソウシはそっと頭を撫でた。
ソウシ
「そう思えるだけで、大人に近づいたよ…
私だってそう思えない日もあるしね」
トワはパッと顔を上げて、ソウシを見つめた。
ソウシは、あははっと声を上げて笑った。
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キッチンを出てから大分時間が過ぎた。
まだヒロインはキッチンにいるだろうか?
正直まだ気持ちが落ち着かず、いつものように接する事ができるか分からない。
足取りが重くなった。
キッチンからは明かりが漏れている。
ヒロインがいるのか?
ナギは俯きながら、ドアをゆっくり開けた。
しかしそこにはヒロインはいなかった。
部屋中にクッキーの焼けた甘い匂いが漂っている。
カウンターの上にある、フタが密閉されるビンに
ぎっしりと詰まったチョコチップクッキーが置いてあった。
ナギはビンの蓋をガポッと開けると、ひとつ取り出して口に入れた。
やはりヒロインのは絶品だ。
ナギは仕込みが終わったらヒロインに謝りに行こうと決めた。
冷蔵庫から食材を出そうと扉を開けると、
そこにはしっかりと仕込みの済んだ野菜や出汁が入っていた。
あの短時間でヒロインがひとりでやったのか?
あんな態度を取ったのに…
泣きながらやったのか?
ナギは調理台にキレイにたたまれたバンダナを見つけ
そっと手に持ち握りしめると、部屋へと走り出した。
部屋に着くとノックをしたが返事が返ってこない。
ナギは「入るぞ」と声を掛けてドアを開けた。
真っ暗な部屋でナギはベッドに寝てるヒロインの傍へと歩いた。
ナギ
「…ヒロイン?」
寝てるのか?
ナギはベッドの縁に腰を降ろした。
ヒロイン
「ん…ナ…ギ…?」
ぼんやりとした目でナギを見る。
ナギはその視線がいつもと違う感じに思えた。
ナギ
「どうした?」
ヒロイン
「はぁ…なに…?」
暗がりで気がつかなかったが、薄っすら額に汗をかいている。
ナギは慌ててヒロインのオデコに手を当てた。
ナギ
「お前…!なんでこんなになるまで言わねぇんだよ?!」
ナギの言葉が届いているのか分からないがヒロインはゆっくり目を閉じる。
オデコに当てた手が、信じられないくらい熱い。
ヒロイン
「…ナギ…もう話して…い…はぁ…」
ナギ
「あ?」
ヒロイン
「わ…たし、ごめ…ね…ケホッ」
ナギはこんな状態なのに、必死で伝えようとするヒロインがとても愛しかった。
そしてツライのに、トワにクッキーを焼いたり
仕込みを済ませたり…
ナギはヒロインの頬をそっと撫でると、ソウシの部屋へと向かった。