三日月ドロップ(前編)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヒロイン
「うわっ!! こっここ、男用ですよ!?」
女
「知ってるわよ
あなたホントかわいいわ♡ 私を楽しませてくれたら
この地図あげてもいいんだけど…」
ヒラッと目の前に地図を広げた。
リュウガがあんなに欲しがっていた地図が目の前にある…
女はヒロインの傍に来て、豊かな胸を押しつける。
ヒロインは、むせ返るような香水の匂いに
今にも吐いてしまいそうだが、グッと耐えていた。
しかしこれ以上一緒にいたら、色んな意味でヤバイ…
女
「ふふっあなた初めてでしょ?」
気持ち悪くて動けないヒロインを勘違いしたのか、
照れて手を出せない男と思っているらしい。
スッと頬に手がかかる。
(ナギ!どうしよう~~~~!!)
心の中でナギに叫んでいると…
女
「あら…あなた…」
シャツの隙間から、ナギにサラシを巻く時につけられたキスマークが見えたらしい。
ヒロインは、キスマークを付けられている事すら気付いてないので
女が何に反応しているのか分からなかった。
女
「ふーん、この顔でヤリ手なのね…
ますます興味あるわぁ…」
妖艶な笑みを浮かべて、女の顔が近づく。
(こ、このままだとキスされちゃう~~~!!)
・・・・・・・・・・・・・
(チッあいつクドかれてるのか?)
トイレのドアの向こうでシンは聞き耳を立てて、中の様子を伺っていた。
ヒロインを助けたとして、どうやって地図を手に入れる…
女はヒロインを気に入っている。
ここで機嫌を損ねたら…
シンが考えを巡らせていると、中から声が聞こえてきた。
・・・・・・・・・・・・・
ヒロイン
「…オレとキスしたいんですか?」
女
「ふっクスクス…そうよ?
なぁに?彼女に気が引ける?クスクス」
女はこれ以上隙間がないくらいに密着してる。
ヒロインはこうなったらヤケだ! とばかりに
女のアゴに手を掛けて、グッと顔を近づけた。
ヒロイン
「…オレとキスしたいんなら、先にそれ出せよ」
女
「な、何?」
大人しいと思っていたのに、こんなに強引な子だったとは…と
女はそのギャップにすっかり魅了されてしまう。
ヒロイン
「早くしろよ」
女
「ふふっおもしろい子ね!
いいわ…地図渡したら期待していいのかしら?」
女はヒロインに地図を渡すと、興奮しているかのように
吐息まじりの声で話しかける。
女
「さぁ…どうしてくれるの?」
(ど、どうしよう…!!!!)
ヒロインはお酒のせいで全く働かない思考回路を、
必死で奮い立たせた。
ヒロイン
「ここ入れよ…人目につくだろ?」
ヒロインは個室に女を押し込んだ。
ヒロイン
「早く目ぇ閉じろよ? したいんだろ?」
そういうと女は大人しく目を閉じた。
ヒロインはそっと個室を抜け、立て掛けてあったモップをドアの取っ手に引っ掛けると
ヨロヨロとしながらドアへと走った。
倒れ込むようにしてトイレのドアを開けると、
腕組みをしたシンが立っていた。
ヒロイン
「シ、シンさん?」
(もしかして全部聞いてた!?)
シンはグイッとヒロインを引き上げると、そのまま荷物を担ぐように
肩に抱えた。
ヒロイン
「シ…ンさっ…」
勢いよく抱き上げられたせいで、ヒロインの頭はクラクラとなり
酔いが一気に回る気がした。
何が起きているのか、シンがどこに連れて行こうとしているのか
考えている余裕なんてどこにもなかった。
シンはそのままメンバーのいるテーブルへと走った。
シン
「船長!早くずらかります!!」
シンが何故ヒロインを抱えているのか…リュウガは疑問に思ったが、
シンの慌て様から察するに、地図を手に入れたに違いないと思い、
ニヤリと笑みを浮かべると、席を立った。
リュウガ
「おぉい店員!! ここに金を置いてくぞ!」
リュウガのその声をきっかけに、
シリウスメンバーはその店から逃げるように立ち去った。
・・・・・・・・・・・・・・
その頃ナギは、人気の全くない山道をひたすら歩いていた。
木の切れ間から、時折下弦の月が顔を見せる。
あと何日かすれば、新月となり
この山道は暗闇に包まれるだろう。
ナギは山賊時代の夜の闇に紛れながら生活をしていた頃を思い出していた。
寒さも感じない、盗む事への罪悪感も…
感覚が全て麻痺してしまい、物事の善し悪しが分からなくなっていた。
仲間から裏切られ、何度も死を覚悟して…
その度にリュウガが現れ助けてくれた。
そのリュウガからの頼まれ事だ、船長命令というよりも
リュウガへの恩返しの為に行くようなものだ。
こんなものではもちろん足りないが…
シリウス号に乗せてもらったおかげで、こうしてヒロインと出会えたのだから…
しばらくすると寂し山道の先に、ぼんやりと明かりが浮かび上がるのが見えた。
思っていたよりも険しい道ではなく、自分でなくても良かったのでは…と考えてしまう。
リュウガは何故自分をここへ送ったのか?
ナギは一件の古びた山小屋の前に立ち、
木の扉をノックした。
コンコン
男
「…誰だ…」
男の声がドアの向こうで聞こえる。
ナギ
「シリウスのリュウガ船長から頼まれてきた」
そういうとドアはすんなりと開いた。
男はリュウガより少し年上の男だった。
こんなに若い男が、1人で山奥にいるには訳がある。
ナギはてっきり老人が出てくるかと思っていたので、
ますますリュウガの意図が分からなくなる。
部屋へ招き入れると、男はナギに椅子を勧めた。
しかしナギはその場で要件だけを伝えた。
ナギ
「船長が金を借りてたらしいな…」
ナギの言葉に男は一瞬、疑問めいた表情を浮かべ
そしてふっと笑った。
男
「…リュウガがそう言ったのか?」
ナギ
「あぁ」
男は席を立つと部屋の奥から古びた箱を出してきた。
男
「オレは以前海賊だった。
どうしようもない船長の下で、人として扱われないような仕打ちを受けてた。
そんな時リュウガに出会って、アイツはオレを救ってくれたんだ。」
ナギは男の顔を見つめた。
リュウガは自分だけではなく、この男にも救いの手を差し伸べていたのだ。
ナギ
「なんでシリウスに乗らなかった?」
男
「…オレにはその資格がない。
船長を裏切るって事はそういう事だ…
だからオレは船を降りてからは、この山奥で暮らしてる。」
男の声が静まりかえった部屋に響く。
男
「…勘違いするなよ?
オレはこの生活が気に入ってる。」
男の視線が暖炉の上に向けられ、ナギもつられて見ると
そこにはたくさんの写真立てが並べてあり、
その中には男が子供や妻と微笑む写真が飾ってあった。
ナギはリュウガが何故ここへ自分をよこしたのかが分かった。
ナギ
「…船長はアンタに何の借りがあるんだ?
金ではないのか?」
男
「ふっリュウガの借りと言ったら、オレの嫁さんに手を出そうとした事ぐらいだ。
これはアイツがずっと探してた物だ」
箱のフタを開けると、小さなルーペが入っていた。
見たところ何の変哲もないルーペだが、物を拡大してみる事が出来ない事に気付いた。
男
「コイツはある地図の為に作られた物だ。
その地図がないとコイツの意味はない」
リュウガがこのルーペを何故そんなにも探していたのか?
この男はどうやって手にいれたのか?
ナギはルーペを掲げながら、考えを巡らせた。
男
「…泊まっていくか?」
ナギ
「いや、明け方までに帰らないとダメなんだ」
男
「そうか…
リュウガが自分じゃなく、お前をよこしたのは意味がある。
…陸で腰を据えて生活するのも悪くねぇぞ?
大切なモノを守る為に、捨てなきゃいけない事もあるんだ…
…気をつけて帰れよ」
ナギは男の家を後にし、さっきよりも闇に包まれた山道を引き返していく。
リュウガは自分に船を降りる選択肢を与えたのだと悟った。
きっと今回のヒロインが取った行動に、
年頃の女があんな風に髪を切らなくてはいけない状況にしてしまった事に
自分と同じように胸を痛めたに違いない。
船に乗っている以上、何が起こるかは分からないのだ。
ナギはリュウガに与えられた選択肢を
どう受け止めるか考えていた。
ヒロインを幸せに出来る道はどれなんだろうか…
ナギは遠くに見える街の明かりを目指し、山道を下っていった。