白雪姫は林檎アレルギー





「………なんだいこいつは」

イズミは眉間に皺を思い切り寄せて鏡を見つめた。ホークアイはその顔を見て、肩を竦めてため息をつく。毎日見るほど息子が気になるのなら、迎えに行けばいいのに。

「隣の国の王子です。名前はロイ。狩りで森に入ったようですが、どうやらエドワード様にひとめ惚れのようですわね」
「うちの息子は男だったと思うが」
「そういうのはこの際置いといて。このロイ王子は、隣の国の国王の次男です」
ホークアイは無表情にイズミに向かってロイの紹介を始めた。この世のどこにでも鏡は存在する。故にこの世でホークアイに見えないものは存在しない。ロイのこともホークアイはよく知っていた。
「長男はすでに王位を継承することが決まっています。こちらに婿に取ろうと思えば簡単に話は進むはずですし、姻戚関係を結べば隣国とは平和に付き合っていけます。それに、このロイ王子はこう見えても剣の腕は立ちますし、焔をあやつる魔法も使えるとか」
ホークアイの説明に憮然としながら、それがなんだとイズミが問いかける。が、ホークアイの言いたいことはなんとなくわかる気がしていた。
「正直申し上げて、エドワード様が将来この小さな国を守っていけるだけの強さを得ることは無理です。ですが、たったひとつだけ方法が」
ホークアイは鏡に映るエドワードを見た。石の上に座り、そばに座ったロイが肩にまわす手を必死に押し退けようとしている。

「この国を守れるだけの強さを持った人物と結婚すること。それには、この王子が適役ではないかと思います」
ちょっと変態なようだけど、というのは飲み込んで、ホークアイはイズミをまっすぐ見た。
イズミは仕方なく頷いた。鏡の精はいつも正しい。

「じゃあ、婚礼の準備をしなくちゃいけないね…」

イズミは深いため息をついて鏡を見た。エドワードはロイに抱きしめられてぎゃーぎゃー喚いている。ロイの黒い瞳は熱をこめてまっすぐにエドワードを見つめていた。

まぁ、あれならいいか。
イズミは諦めて、それから王に話をするために部屋を出て行った。







「だから!オレは男だってば!手ぇ離せ」
「わかってるが、好きなんだから仕方ないだろう。幸せにするから結婚してくれ」

ベンチ代わりの石の上での攻防は続いていた。しかしエドワードはもう押し倒されていて上半身を裸に剥かれ、かなり不利だった。ロイは片手でエドワードを抱きしめて空いた手であちこち触り、いくら暴れてももがいても解放してくれない。

「オレんち、母親がすっげー厳しいから!だから無理!」
「大丈夫、説得するさ。愛の前にはどんなことも障害にはならないんだよ、白雪姫」
「話をちゃんと聞け変態!」

エドワードの怒鳴る声は静かな森の奥の奥まで反響して消えていった。







やがて小さな国は黒髪の青年が王様になり、金色の可愛いお妃様とともに末長く平和に繁栄を続けました。


めでたしめでたし。







END.

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