白雪姫は林檎アレルギー
「うわ!どうしたの?りんごの山じゃない!」
アルフォンス2号が歓声をあげた。他のアルフォンス達もぞろぞろとテーブルに集まってきて、りんごが詰まったカゴをきらきらした目で見つめている。
「昼にりんご売りのバイトしてるばぁさんが来てさ」
予想外に好評なことに気をよくしたエドワードは得意そうに胸を張った。おまえらのためにもらったんだぜ、と言いながら、結局代金を取りに来なかったおばあさんがあれからどうなったのかとちらりと不安になる。雇い主から叱られなかっただろうかと心配になりかけたが、そんなことで落ち込みそうなおばあさんにも見えなかったと思い直した。
それより、嬉しそうにりんごを見つめるアルフォンズに早く剥いてやらなくては。
最近ようやくサマになってきた包丁さばきでするすると皮を剥いていると、アルフォンス4号が白雪姫は食べないのかと聞いた。
「オレさぁ、果物って嫌いなんだよ。特にりんご系は、匂いだけでもなんだか……」
「そうなの。でも、りんごって栄養あるんだよ。少しは食べなきゃ」
心配して見つめてくれる4号に優しい笑顔を向けて、エドワードは剥き終えたりんごを皿に乗せた。
「あとから食べるよ。ほら、まず1個め!誰から食う?」
アルフォンス達はわいわい騒ぎながら手を出してきた。すぐに皿は空になり、エドワードは苦笑しながら次のりんごを手にとった。
「すぐ次剥くから、それ食って待ってな」
はーい!と返事を合唱して、アルフォンス達は手にしたりんごをいっせいに噛った。
「うっ…………」
6号が胸を押さえる。驚いてエドワードが見ると、他のアルフォンス達も苦しそうに喉や胸を押さえていた。
まさか、毒りんご?
エドワードは焦った。みんなが死んだらどうしよう。知らない人から物をもらったりしたオレのせいだ。
慌てて手近なアルフォンスに手を伸ばしたエドワードは、肩に触れようとして動きを止めた。
アルフォンス達はもう苦しんでない。
全員が驚いた顔でお互いを見つめている。
アルフォンス達は、普通の人間サイズになっていた。
「え、どういうこと?」
「なにこれ。なんか背伸びちゃってるよ!」
「白雪姫って、小さかったんだねぇ」
エドワードは呆然と小人達を見た。さっきまで自分の胸くらいまでしかなかったはずの小人達の身長は、今は自分より頭半分くらい上になっている。
小人達に見下ろされ、小さいとまで言われても。
エドワードはそれを怒るどころではなかった。
なんだこれ。さっき4号が言った「りんごは栄養がある」ってこのことか?すげぇよりんご!ビバりんご!背が低いことがなによりのコンプレックスであるエドワードは、急いでカゴからりんごを取った。食ったら伸びるなら、この際好き嫌いなんか言ってらんない。
「待ってよ白雪姫!」
「違うよ!普通はりんご食べたくらいじゃ背なんか伸びないよ!」
「落ち着いて!てかどんだけ気にしてんだアンタ!丸飲み無理!無理だから!」
焦ったアルフォンス達の声を聞いて、エドワードは口に押し込もうとしていたりんごを出した。仕方なく包丁を持ち、剥きにかかる。多少皮が残ったってかまわない、と適当に剥き、4つに割ったりんごの1かけを手にとった。
歴史的瞬間。もう誰にもチビなんて言わせねぇぞ!オレも今日から身長3メートルだ!
それは高すぎるという1号のツッコミは無視して、エドワードはつまんだりんごを口に放り込んだ。
「……………」
なんだか息が苦しい。
目眩がする。
胃のあたりが痛い。
さっきアルフォンスも苦しんでたしな、と無理に納得しようとするエドワードだが、それにしても痛い。手足を見ると、発疹のようなものがぽつぽつと赤くできていて、なんか痒い。
アレ?そういやオレ、りんごって匂いが嫌だから口に入れたことなかったんだよね。
え。なにこれ。苦しい。
医学の本で見たアレみたいだ。
りんごのアレルギーなんてあるのか。
食ったことなかったから、知らなかった。
……りんご食って死ぬなんて、なんか嫌な死に方だよなぁ………。
悲鳴のような声で自分を呼ぶアルフォンス達の叫びを聞きながら、エドワードは意識を失った。