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白雪姫は林檎アレルギー




王子エドワードを城から放り出して3ヶ月。

イズミは秘密の部屋で鏡に向かっていた。
「ホークアイ、エドワードの様子はどうだい」
「はい、森の妖精達と一緒に楽しく暮らしておられるようです」
そう言ってホークアイは鏡から消えた。やがて映し出されたのは、森の奧の小さな家。



「いってきまーす、白雪姫!」
元気よくアルフォンスがドアを開けて出てくる。
「留守番気をつけてね、白雪姫!」
また次のアルフォンスが出てくる。そのあとから次々と、同じ顔と同じ声と同じ背丈のアルフォンスがぞろぞろと。
全員同じ名前だとは思わなかった。エドワードはため息をついて、黄色い服のアルフォンスを呼び止めた。
「おい、アル5号。あれ止めさせろよ、白雪姫っての」
「えー?だってぴったりじゃない。エドワードさんて肌が雪みたいに白くてきれいなんだもん」
エドワードが番号をつけて呼ぶのをあだ名だと思ったらしいアルフォンス達は、おかえしにとエドワードにもあだ名をつけた。
お姫様みたいにきれい。男とは思えない小柄さ。そして、学問ばかりで外に出ることがなかったエドワードの肌の白さを指して、「白雪姫」。
姫と呼ばれて嬉しいはずがないエドワードは嫌な顔をしたが、アルフォンス達は気にいったらしかった。

「あーもういいや。気をつけて行って来いよ」
「はーい!白雪姫も、ボクらがいないときに知らない人が来てもついて行っちゃダメだよ」
「ガキかよオレは!」
アルフォンス5号は笑いながらみんなのあとを追った。
しかたねぇな、と呟きながら朝食の後片付けを始めるエドワードはなんだか楽しそうだ。一人っ子で育ったため、自分より小さなアルフォンス達が弟のような気分になっている。実際は小人達が何年生きているのか見当もつかないが、見た目は可愛い子供なのだ。一緒にいて世話をする毎日に、エドワードはすっかり満足していた。




「…………なんだい、あの小さくておんなじ連中は」
イズミが眉間に皺を寄せてホークアイに尋ねた。
「あれは妖精です。小人族です」
「………なんだかずいぶんアットホームなようだが」
「はい。すっかり馴染んでいらっしゃるようで」
「………………あのクソガキ」

イズミは天井からぶらさがったサンドバッグを殴った。頑丈なはずのそれは、一撃で破れて中から砂をざらざらと床にこぼした。イズミはお構いなしに、鏡に映るエドワードを睨んでいる。エドワードは片付けを終え、今は洗濯物を干していた。
「なにやってんだ、まったく。武者修業して来いとは言ったが、花嫁修業をしろとは言わなかったよ」
「世間を知る上では良い経験かと。住まわせてもらうかわりに家事をするのは、等価交換というものですわ」
無表情に言うホークアイに、イズミも渋々頷いた。ワガママでなにひとつ自分でできなかった息子が、食事の片付けをして洗濯をしている。少しは成長している、と認めてやらねばならないだろう。

「だが、体を鍛えることを忘れては困る。そのために城から追い出したんだからね」
イズミはそう言って、部屋の壁にある書棚から魔法の本を出してぱらぱらとめくり始めた。

そっちはあの子にはむいてないって、いつになったら気づくのかしら。
ホークアイは小さな家の食堂兼リビングの掃除を始めたエドワードを眺めて、こっそりとまたため息をついた。







ある日。
いつものようにアルフォンス1~7号を送り出して、エドワードが窓を雑巾で拭いていると、森の奥から老婆がやって来た。
小さい体に不似合いな大きなカゴを手にさげて、ちまちまと歩いて来た老婆はエドワードに向かって笑いかけた。

「可愛いお嬢さん。りんごはいらんかね」
「目ぇ腐ってんのか。オレは男だぞ」
「そうかい。そりゃ失礼。それよかりんごはどうだい?美味しいよ」
老婆はカゴから赤く輝くりんごをひとつ取ってエドワードに差し出した。
「いらねぇよ。オレ、果物は苦手なんだ」
見もせずに断るエドワードに、老婆はそうかと肩を落とした。

「わたしゃバイトでねぇ。これを受け取ってもらえないと、お給料がもらえないんだよ」
老婆はことさら強調したため息をついてエドワードをちらりと見た。
そんなふうに言われると、なんだか断りづらくなる。罪悪感に表情を曇らせたエドワードは、じゃあひとつだけと手を出した。
すかさずその手にカゴごとりんごを渡し、老婆は嬉しそうに笑って、
「ありがとよ。確かに渡したよ!それじゃ!」
「え、おいばーさん!お代は?金いらねーのか?」
慌てて呼び止めようと声をあげたエドワードを無視して、老婆は森の中に消えた。
「………なんなんだよ……ひとつしかいらねぇって言ったのに」
エドワードは仏頂面でりんごを眺めた。森の妖精がいるくらいだし、今のはもしかしてりんごの妖精だったのか?しかし妖精にしては老けすぎなような。


森から出たところで、老婆は息をついて立ち止まる。そこにはイズミが笑顔で待っていた。
「すまないねぇピナコさん、面倒なこと頼んで」
「いや、いい暇潰しになったよ」
あははと笑うピナコはイズミの昔馴染みだった。もちろん妖精などではなく、イズミがまだ妃になる前にいた村で隣に住んでいた魔女だ。

「しかし、大丈夫なのかい?あのりんご。なんの魔法をかけたか知らないが、なんだか嫌な気配だったよ」
ピナコは心配そうに振り向いた。あれを食べたらどうなるのか。それはりんごに魔法をかけたイズミしか知らなかった。




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