白雪姫は林檎アレルギー
エドワードが近づいてみると、それは小さな家だった。こんな森の中に家があるなんて聞いたことがないと訝しんでみたが、窓から漏れる光や漂ってくる食事の匂いはそんな疑問を吹き飛ばす魅力でエドワードを誘惑する。
木こりかなんかやってる人の家かも。うん、きっとそうだよ。
エドワードは一人でうんうん頷いて、大股に玄関と思われるドアに近づいた。
「ごめんくださーい!」
どんどんどん。
しばらく待つと中から返事が聞こえて、やがてそっとドアが開いた。
出て来たのは、木こりらしき服を着た子供?だった。
え?とエドワードがそれを見つめていると、家の奥から先に出てきた子供とそっくり同じ顔をした子供がぞろぞろと出てくる。一人一人色は違うが、みな同じような格好をしていた。
「どちら様ですか?」
意外に丁寧な言葉で子供が聞いてくる。エドワードは戸惑ったが、奥を見ても大人が出てくる気配はない。数えたら子供は7人もいた。同じような金髪で、同じような金茶色の瞳。それが同じように自分を見つめてくる。エドワードは目眩がしてドアにもたれかかった。
「……えーと、オレ……」
どう言おうかと言葉に詰まるエドワードを見て、子供達は顔を見合わせた。
中の一人、緑の服の子供が顔をあげた。
「あ、そーか。道に迷ったんですね?」
他の色の子供達はそれを聞いて口々にしゃべり出す。声まで同じだよ。エドワードは頭痛がしてきて思わずこめかみを押さえた。
「そっか、夜は道に迷いやすいもんね!」
「じゃあきっと疲れてるよ。中に入れてあげようよ」
「シチューまだあったよね!きっとお腹もすいてるよ」
「どうぞ、入ってください!散らかってますが、遠慮なさらず!」
微妙に礼儀正しい子供達に手を引かれ、エドワードは家の中へと連れ込まれた。
子供サイズの椅子、子供サイズのテーブル。奧のドアの向こうは寝室らしく、子供サイズのベッドが7つ並んでいる。
なんなんだここは。オレは間違ってネバーランドに来てしまったのか?
椅子に座って出された食事を食べ、それから恐る恐るエドワードは疑問を口にした。
戸惑う様子もなく、赤い服の子供があっさりと言う。
「ボクらは森の妖精。小人族です」
なんだそれ。
学問ばかりに興味を示し、難しい学術書しか読まなかったエドワードには妖精などというものは理解の範疇にはなかった。
結果、エドワードはそのまま倒れて気を失った。
翌朝、目覚めるとエドワードはテーブルに寝ていた。毛布がかけられていて寒くはなかったが、背中や腰が痛い。軟らかなベッドでしか寝たことのなかったエドワードは、うーんと唸ってゆっくりと起き上がった。それでもあちこちが痛む。
その痛みと、見慣れない部屋と子供サイズの椅子に、昨夜のことは夢ではなかったのだとエドワードは暗い気持ちになった。
「あ、目が覚めたんですね」
青い服の小人が部屋に入ってきて微笑んだ。
「よかった。ボク達アルフォンスといいます。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
どこで覚えたのか、小人はエドワードよりも立派に敬語を使う。なんだか気後れして、エドワードは小声になった。
「オレはエドワード。えと、昨日家を追い出されて行くあてがなくてうろうろしてたんだ。世話になっちゃって、その……」
ありがとう、と頭を下げるエドワードに、青いアルフォンスは笑って首を振った。
「それじゃ行くところもなくて大変ですね。よかったらここにしばらくいてもいいですよ」
「え、マジ?」
「少しは家事とか手伝ってもらいますけど。ボクらも仕事があるので、あなたに留守番しててもらえると助かります」
願ってもない申し出に、エドワードは喜んで頷いた。村に行こうが町に行こうが、頼るところなどなかったのだ。居ていいと言ってくれるなら、この際小人だろうがなんだろうが大歓迎だった。
「ありがと!よろしく、アルフォンス」
「アルでいいですよ。よろしくお願いします、エドワードさん」
二人はがっちりと握手をし、その日からエドワードは小人の家の居候となった。