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M気質のシンデレラ




組み敷かれた状態でいくら相手の体を押しても効果はなくて、王子はかなり手荒くオレからトランクスを奪い取った。
そのまままじまじと見てほしくないあたりを凝視している。オレは真っ赤になって、手足をばたばた動かした。乗っかられた状態ではろくな抵抗もできやしない。早くどけ、と叫んだが、ワガママ変態王子の耳には人の言葉を聞く機能がついてないらしい。退くどころか、そのまま顔をオレの耳元に近づけてきた。

「なるほど、確かに男だな」
耳にかかる息がくすぐったい。なにコイツ、怒って嫌がらせしてんのか?
「わかったんなら離せっつの!」
「できないな。こんなに魅力的な子が裸でベッドにいるのに、なにもしないのは失礼というものだろう」
コイツは頭がおかしいのかもしれない。
「ふざけんなって!オレは男だってば」
「わかってる。だがね」
王子はオレの目を正面から覗きこんだ。

「一目惚れなんだ。もうこの際、男でもかまわない。私の花嫁になってくれ」

ああ、どうしよう。マジでコイツ変態だ。

嫌だ、と怒鳴ろうとして開けた口を王子の唇で塞がれて、言葉は吸い込まれて消えてしまった。









……腰が痛い。

それと口に出せないところが痛い。

王子はやけにすっきりした顔で身仕度を整えて、客に挨拶してくるから待っていろと言って出て行った。

逃げるなら今しかない。
オレはどうにかベッドから降りて、そこらに落ちていた服を着た。ハイヒールを拾って履いて、大きな扉をゆっくり開ける。廊下には誰もいなかった。




急いで来た道を戻り、ホールを覗いた。まだ客はたくさんいて、王子は着飾った女に笑顔でなにか話している。まわりにも女が群がっていて、その中に姉達の姿も見えた。

なんだよ、やっぱ嫌がらせだったんじゃん。一目惚れとか言ったくせに、嘘つき。

そう思ってから慌てて首を振った。なんだ今のは。あんなのアイツの嫌がらせに決まってんじゃんか。ちょっと初めてえっちなことをされたからって、なにその気になってんのオレ。

かさかさとホールを横切り、外へ続くドアを開けた。澄んで冷たい空気に、ちょっとだけ頭が冷えた。
そのまま外へと足を踏み出したところで、慌てたような足音が追ってくるのが聞こえる。
振り向くと、王子がこっちへ走って来るのが見えた。

急いで駆け出した。ドレスの裾を持ち上げ、必死に階段を駈け降りる。背後から呼ぶ声がするけど待ってられるか。

途中でハイヒールが片方脱げてしまった。が、構ってる暇はない。ホールの大きな時計が12時の鐘を響かせ始めたからだ。
魔法は真夜中までだとウィンリィが言っていた。オレは残ったハイヒールを脱いで手に持ち、ダッシュで走り出した。こんなところで継母達に見つかるわけにはいかないし、腐っても貴族の端くれだからホールの中には他にも顔見知りの子がいるんだ。女装して舞踏会に紛れ込んでたなんてバレたら、オレは生きていけない。
鐘が鳴り終わる前に階段を降りきって、一瞬迷ったが馬車はほっといてそのまま森に駆け込んだ。
馬車は時間がきたらかぼちゃに戻るだろうし、御者はネズミになって適当に逃げるだろう。そんなもんに構って捕まったら大変だ。
後ろから追ってくる気配がなくなっても、オレは走り続けた。継母達が帰って来る前に家に帰っていなくてはならない。森を縫うように走る道を通るより、直線で森の中を抜けたほうが家までの距離は短いんだ。
真夜中を過ぎたらしく、ドレスはいつもの服に戻っていた。ひらひらがなくなった分走りやすくなって、オレは風みたいに森の中を走り抜けた。




家に飛び込んで自分の部屋に駆け上がり、葉っぱや木の枝まみれになってあちこち破れた服を脱いでパジャマに着替える。服が戻ってもなぜか消えなかったガラスのハイヒールをクローゼットに隠し、ベッドに潜りこんでようやく息をついた。

忘れていた色んな痛みや怠さが一気に襲ってきて、さすがに泣きたくなったが我慢する。こんな痛みは慣れてなくて辛いけど、大丈夫。眠って明日になれば、きっといつもの自分に戻れる。
名前も教えてないんだから、あの変態王子もわざわざ探してまでオレを罰そうとはしないだろう。パーティに紛れ込んでちょっとメシ食っただけだもん。たいした罪にもならないし。
だいたい、罰ならさっきさんざん受けた。もう死にたいくらい恥ずかしい格好とか色々したんだ、あれで充分てもんじゃないか?

その色々を思い出してしまって、オレは毛布を顔まで引っ張り上げた。
今までたくさん嫌な目にあったし嫌なことも言われたけど、あんなことまでされたことはなかったんだ。
大丈夫、なんてことない。自分に何度そう言い聞かせても、変態王子の顔は頭からなかなか消えてくれなかった。




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