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M気質のシンデレラ



「あのー。大丈夫?」
オレの問いかけにようやく瞬きをして、ウィンリィが意識を取り戻した。一瞬お花畑が見えちゃったとか言う魔女に、どんだけ驚いてんだと心でツッコミを入れる。女は色々怖いから口には出せない。

「ちょっと、あなたその顔でほんとに男?」
なぜかウィンリィは怒っている。
「そんなこと言ったって、生まれたときから男だし」
「だったら証拠見せなさいよ」
「…………え?」
「脱げって言ってんのよ!証拠見せろ!」
こいつほんとに女かよ。

脱がずに押し問答をしばらく続け、渋々納得したらしい魔女はそれでも頑固にお城にオレを連れて行くと言い張った。なんでなんだと聞くと、そういう決まりなんだとか。なにそれ。

「でもオレ、服持ってないよ」
「任せなさい。ほら、ドレス!」
ウィンリィが杖を振ると、オレが着ていた服が豪華なドレスに変わった。気紛れで伸ばしていた髪もきれいに結われてたくさん飾りがついている。
オレは悲鳴みたいな声で抗議した。ボロっちかったけど、それでも男物の服だったんだ。新しい服なんて買ってもらえそうにないのに、なんてことしてくれてんだ。
「大丈夫。私の魔法は効果が短いのよ。服も髪も真夜中になったら元に戻るわ」
それって自慢になるのか?
「馬車がいるわね。でっかいかぼちゃはないかしら。あとネズミ。御者と馬がいなきゃサマにならないもの」
「あ、じゃあ無理ですね。お世話になりましたサヨウナラ」
「ちょっと、なにあっさり諦めてんのよ!かぼちゃくらいそのへんの畑にいくらでもあるでしょ!」
オレに泥棒をしろと言っているらしい。
そんなことで犯罪者にはなりたくない。そう言うと魔女はぱっといなくなって、すぐに現れた。手にはばかでかいかぼちゃを抱えている。確か隣んちの畑で見たような気がするけど気づかなかったことにしよう。
「さぁ、ネズミをお寄越し!」
据わった瞳でオレを睨んで手を差し出す姿はもはや強盗だ。オレは仕方なく昨日仕掛けておいたネズミ取りを見に行った。不幸なことに、5匹のネズミがかかっていた。
「よっしゃあ!じゃ行くわよ!」
ウィンリィが杖を振ると、オレは庭先にいて目の前にはでかい馬車があった。3頭の馬がつながれていて、2人の御者がそばに立っている。そのうちの1人が馬車のドアを開けてオレを中に押し込んだ。
「じゃ行ってらっしゃい!うまいこと王子を騙して来るのよ。妃になったら私をお城のお抱え魔法使いに推薦してねー!」
笑顔で手を振るウィンリィが本音を吐き出した。そっちが目的かよ。


馬車はすぐに動きだし、オレは浮かない顔のままお城への山道を運ばれて行った。








今夜は本当にたくさんの娘が招待されているらしい。門番も衛兵も、招待状の有無とかオレの名前とか何にも聞かないでさっさと通してくれる。今ので最後か?とかぼそぼそ聞こえたから、客の人数すら確認してないんだろう。
おかげですんなり城内に入り、オレは舞踏会の会場に潜り込んだ。

きらびやかな女の人達の中には継母達もいたが、オレには気づかなかった。まぁ男のオレがこんな格好で舞踏会に混ざってるなんて思ってもみないからだろう。思い込みってすごいな。
会場の脇には料理や飲み物も並んでいる。普段質素な食事をしているオレとしては、主役の王子なんかよりそちらのほうが気になった。いそいそとそばに行き、皿とフォークを手にして心の中でお誕生日おめでとう王子様!とお祝いを述べ、ではと肉にフォークを突き立てたとき。

「はじめまして、お嬢さん。お名前を聞いてもよろしいでしょうか」

あんぐり口を開けたオレに、すぐ後ろから声がかかった。
「あんた誰?」
「私はロイ・マスタング。私のパーティにようこそ、レディ」
気障ったらしい挨拶をする黒髪の男がそう言ったので、オレは慌てて肉を皿に戻した。
「あ、えーと。お招きありがとうございます、王子様」
招かれた覚えはないが一応ぺこっと頭を下げて挨拶をした。王子はにこにこと胡散臭げな笑顔を振りまいてオレを見つめ、オレが名乗るのを待っている。
いやもう名乗るほどのもんじゃないから。あっち行ってほっといてくんねぇかな。
「…………え……えーと、シンデレラと申します………」
他に思いつかなかったから、継母につけられたあだ名を名乗った。意味するところは灰かぶりとかいう言葉だったような気がする。
王子はそんなおかしな名前でも気にならないらしい。オレに手を差し出して、踊っていただけませんかと言った。
はぁ?と喉まで出かかって止めた。オレは皿に肉を盛りまくっていて、今まさに食わんとしていたところだったんだぞ。頬張る寸前だったのをあんたも見たはずだろ?なんでそれでダンスなんか誘うんだ。俺様か?俺様なんだろあんた。だからその年まで嫁が来てくれなかったんだろ。
様々な言葉を飲み込んで、オレはにっこり笑った。
「他にも王子様と踊りたい方がたくさんいらっしゃいますでしょう?どうかそちらの方々と踊ってさしあげてくださいな」

断られるということは、王子のこれまでの人生にはなかったらしい。驚愕に目を見開いたまま固まる王子を見て、さっきもこんな状態になったやつ見たなぁとかのんきに考えながら、オレはフォークに刺したままだった肉をぱくんと口に放り込んだ。



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