サンタクロースと鋼の錬金術師
「エド!」
「ねぇ、お嫁さんになるの?」
「いつけっこんするの?」
子供たちが鋼のにたかっていく。鋼のは答えに詰まり、私を睨んだ。
「あんたなぁ、子供になんつーことを…」
「きみが作った夢も希望もないサンタの話よりよほどマシじゃないか」
言い返すと、どうやら自覚があるらしい鋼のは口を閉じた。
「鋼の、焔の錬金術師は雨の日は役に立たないんだろう?きみがサポートしてくれないと、子供たちを守れないよ」
「………………アホ」
鋼のは真っ赤のまま俯いた。子供たちが心配そうにそれを見る。
「エド、顔真っ赤だけど熱あるの?」
「赤すぎだよ。救急車呼ばなきゃ」
「病気なんじゃない?」
追い討ちをかけられた鋼のが、いいから飯食えと子供たちを奥へ追い立てた。女の子がくるりと振り向いてアルフォンスを見る。
「お兄ちゃん、ダメよ!二人きりにしてあげないと」
「な!なに言って、」
鋼のが焦った顔で女の子を見た。
「だって、ラジオドラマで聞いたもん。プロポーズのあとは、二人きりになってキスとかするのよ」
「とかってなんだ、とかって!」
つっこむところはそこなのか、鋼の。
しかし女の子というものは、そういうことを覚えるのが早いようだ。同じ年頃の男の子がよくわからない顔をしているのに、女の子たちはくすくす笑って奥へと走って行く。
「じゃあボクも行こうっと。准将、ごはんが冷めないうちに来てくださいね」
アルフォンスも素早くいなくなった。
がらんとして静かになった聖堂に、私と鋼のだけが残された。床にはプレゼントにかけられていたリボンが散らばっているし、びりびりに破られた包装紙が散乱していて、ツリーからドクロがこちらを見ている。なんとも、素晴らしい聖夜じゃないか。
「……鋼の」
「うるせぇ」
ぷいと横を向いてしまった鋼のの耳は真っ赤だ。
「言った通りだ。私はきみがいないとダメなんだ」
「………そんなん、知らねぇ」
「嫁に来てくれ」
「………………」
「愛してるんだ、鋼の」
「………………バカか、あんた」
鋼のは俯いた。顔どころか手の先まで赤い。
「……オレなんて、なんにも………」
「きみでなきゃ、私はなんにもできない」
「けど、………でも」
否定する言葉を探す鋼のは私を見ようとしない。
私はそれに苛立って、一気に距離を詰めた。
「鋼の」
肩を掴んでこちらを向かせた。それでもまだ逸れようとする視線を、至近距離で覗きこんでこっちに向ける。
「前は、きみの重荷になると思って言わなかったんだ」
「…………」
「好きだよ、鋼の。一目惚れだ。ずっと好きだった」
「…………………くそ、」
鋼のは私の手を振り払った。
「…………そんなん…………オレも、おんなじだ」
そっぽを向いたまま、顔を赤くして。
初めて聞いた彼の告白は、クリスマスイブの聖堂に響いた。まるで誓いの儀式のようなそれが、夢の中にいるような気分にさせる。
私は床にへたりこんだ。
驚いた鋼のが駆け寄ってきて、私の顔を覗きこむ。
「どした、准将!具合でも悪いんか?」
その顔を見つめて、私はようやく実感した。
「………きみも、私を好きでいてくれてたんだな………」
「………悪いかよ」
「いや…………」
鋼のにすがりついて、腹に顔を押し当てた。久しぶりに彼の匂いをいっぱいに吸う。
「ほっとしたら、力が抜けた」
鋼のは呆れたように笑った。
「情けねぇの」
「うん。だから、きみが助けてくれ」
悪者からみんなを守る、ヒーローになるために。
きみがいれば、私はもっと強くなれるんだ。巨大化したサンタも一瞬で灰にできるくらい、強く。
「しかしきみ、絵本作家になれるんじゃないか?」
「……あれはその、ガキがうるさくせがむから。適当に作っただけだもん」
「サンタになにかトラウマでもあるのか」
「違うけど。昔、サンタの正体が知りたくて罠作って捕まえたらクソ親父だったから、それがショックだったんだ」
「………捕まえたのか……」
窓の外は雪が降り始めていた。
聖夜に聖堂。二人きり。
出来すぎなイブに、私は信じてもいない神に感謝した。
「メリークリスマス、鋼の」
やっと恋人になってくれた鋼のは、まだ赤い顔で私を見て。
「バーカ」
可愛くない返事と一緒に、唇にキスをプレゼントしてくれた。
さらにお返しをと抱きこんだら殴られて、私は渋々彼のあとについて奥へ行った。
END,