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サンタクロースと鋼の錬金術師






「おーいみんな!飯だぞ!」
奥から鋼のの元気のいい声がして、子供たちがそちらへ走って行く。ブレダとハボックも引きずられるように連れて行かれた。アルフォンスが私を促して奥へと歩き出す。鋼のが出てきて、早く来いと怒鳴ってまた消えた。

「鋼のは、私に会うのは嫌だったのかな」

足元を見ながら呟くと、アルフォンスがくすっと笑った。らしくない弱気な声に、自分でも笑いが出る。

「私は、待っていたんだがな……」

「照れてるだけじゃないですか?」

アルフォンスは私を振り向いた。背が同じくらいなことに驚く。これでは、鎧だった頃のように見上げなくてはならなくなるのも時間の問題だ。

「さっきのサンタのお話、続きがあるんですよ」
アルフォンスは秘密ですよと言いたげに笑った。
「ボクに聞こえないように子供たちに話してましたけどね。聞こえちゃって」

サンタと鋼の錬金術師の死闘は続いた。だがサンタはじじいのくせに体力があった。なぜなら一年のほとんどがすることなくて暇だったから、ひたすらトレーニングしていたからだ。鋼の錬金術師は次第に押され、最後の錬金術を使った。サンタは苦しみ、倒れそうになる。だがそこでサンタは力を振り絞り、巨大化して襲ってきた。鋼の錬金術師の力はもう残っていない。危ない鋼の錬金術師!負けるな鋼の錬金術師!
するとそこに、一人の男が現れた。たちまちサンタを倒してしまい、鋼の錬金術師を助け起こす。

「そして、世界は平和になりました、で終わりです」
「……………いろいろと突っ込みたいところがあるのだが」
巨大化ってなんだ。ていうかその前に一年ほとんど暇とか夢も希望もないことを子供に言っていいのか。そんなにサンタが嫌いか。なにか恨みでもあるのか。
「……いやまぁ、サンタはおいといて」
アルフォンスもたくさん突っ込みどころがあるのを抑えているらしい。そういえばこの子は昔からツッコミ役だった。鋼のが天然でボケるからだが、あれは意識してやっていたんだろうか。違うだろうな。

「その、最後に出てきてサンタを倒す男って、誰だと思います?」

「…………3分しか地上で暴れられない、例の宇宙人か?」

「はは、違いますよ。兄さんね、ちょっと恥ずかしそうな顔して言ってましたよ」

鋼の錬金術師を助けに来たのは、焔の錬金術師なんだ。強いんだぞ。雨さえ降ってなかったら無敵なんだ。

「………………」

どんな顔をしていいのかわからなかった。
頬が熱い。きっと赤くなっている。
顔を伏せた私に、アルフォンスの声が響いた。

「准将たち東部に帰ってきてるんだから、会いに行こうよって何度も言ったんですけどね。兄さん、准将は忙しくてもうきっと自分のことなんて忘れてるよとか言って」

忘れるはずがない。ずっと会いたかったのに。

「すいません、意地っ張りで。ほんとはあなたに会いたかったはずなのに」

「………いや、」

私のほうこそ臆病で、なにも言えなかったから。

そう言おうとしたとき、奥から女の子が出てきた。
「お兄ちゃん、ごはん食べないの?」
「ごめんね、すぐ行くよ」
アルフォンスは笑って女の子と手を繋ぎ、それから私をちらりと見た。
「この人はね、焔の錬金術師なんだよ」
「え!このおじちゃんが?」
………おじちゃんか。
まぁいい、相手は子供だ。私は頷いて笑ってみせた。
「わぁ、すごい!じゃあ、鋼の錬金術師を助けに来たのね?」
素直にきらきらした目を私に向けてくる子供は、鋼のの創作した話をすっかり信じているらしい。可哀想に。
そんなことを考えていると、奥から子供たちがばらばらと出てきた。アルフォンスはずいぶん慕われているようだ。早くと急かす子供たちに、女の子が嬉しそうな声をあげた。
「ねぇ!焔の錬金術師が来たのよ!ほんとにいたのよ!」
他の子供たちが驚いて私を見る。すげぇ!とかほんとに?とかの声に混じって、じゃあさっきのサンタはやっぱり悪者なのかと言う声がする。ここでは鋼のが創作したものがサンタ像らしい。いかん、ブレダが危ない。
「いや、悪いサンタは私がみんなやっつけたから。もういないよ」
私は慌てて言った。
「今日来ているサンタは、あれは…えーと、改心して子分になったサンタなんだ」
ああ、なんか創作の上塗りをしている気がする。この子たちの将来がとても心配だ。
「じゃあさ、今日はおじさんはなにしに来たの?」
………おじさんか。
前言撤回だ。心配なぞしてやらん。
「悪者がいないんなら、なんで来たの?」
「それはねぇ、」
アルフォンスがなにか言おうとするのを止めて、私は子供たちに微笑んでみせた。

「鋼の錬金術師を迎えに来たんだよ」

開いたままの奥のドアの向こうにいた金色が、ぴくりと身動きしたのが見えた。

「鋼の錬金術師って、エドのことだよね?」
「前に錬金術見せてもらったことあるよ」
子供たちはじつに素直だ。私は頷いた。

「そう、鋼はエドワードだ。私はね、彼がいないとダメなんだよ。世界の平和を守るためには、彼がどうしても必要なんだ。だからね、」

どうか彼が頷いてくれますように。

「お嫁さんになってほしくて、迎えに来たんだ」

「てめぇ、ガキになにしゃべってやがんだアホ!」

真っ赤な顔の鋼のが飛び出てきて、アルフォンスが吹き出した。




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