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サンタクロースと鋼の錬金術師






クリスマスイブ。

世間は煌めくツリーと色とりどりのリボンのついたプレゼントと揺らめく蝋燭の灯りに浮かれて楽しく騒いでいる今日という日に、私と私の腹心の部下たちは軍用車に揺られて郊外へ向かっていた。
夕暮れの田舎道は畑が広がり、ぽつぽつと建っている小さな家からは煙がたなびいている。普段なら風情のある風景を楽しんで走るのだが、今日はそんな余裕がない。寒々しいその景色に、気持ちは沈むばかりだ。厚く空を覆う雲からは今にも雪が降りだしそうで、冷たい風が窓ガラスをたたいて吹き抜けていく。
車の中も静けさに満ちている。さっきまでつけていたラジオはあまりの場違いさにハボックがスイッチを切ってしまい、エンジンと悪路を進む車の軋む音しか聞こえなくなっていた。誰もなにもしゃべらない。時折遠慮がちに漏れ聞こえるため息だけが妙に鮮明だ。

やがて行く手に教会が見えてきた。明るく輝く窓から讃美歌がわずかに聞こえてくる。小さな教会の裏手に建つ家は田舎にしては大きい。そこは牧師が個人的に経営している孤児院になっていて、10人かそこらの孤児たちが養われていた。経営といっても国や町からの寄付が頼りのほとんどボランティアのようなもので、孤児たちも牧師も貧しい暮らしをしているらしい。
教会の裏手に車を停め、エンジンを切る。私たちは今夜、そこに用事があって来たのだ。

『孤児院への視察を兼ねた慰問に行ってくれ』
それは昨日、大総統から下された命令だった。孤児たちが虐待や売買といった目に合っていないか、寄付がきちんと正しく使われているか。それに加えて、親や兄弟のいない孤児たちに楽しいクリスマスを過ごさせてやろうという軍のイメージアップ大作戦も組み込まれている。他の司令部の軍人たちもあちこちに派遣されているはずだ。私たちに割り当てられた孤児院がここ、というわけだった。

「………行きましょうか」
中尉が促して、全員がコートの襟をかき合わせて車から降りた。経理の視察は中尉とフュリーの役目だ。私は牧師と話をする。そして残りが子供たちの相手だ。

もちろん、そういう視察は大事だと思う。不幸な子供がさらに不幸な目に合うのは許されないことだし、国民の税金が正しく使われているかどうかを見るのも大切な仕事だ。

けれど。

「なにもクリスマスじゃなくてもなぁ………」

ぽつりとハボックが呟いた言葉が、私たちみんなの気持ちを代弁していた。

クリスマス。年末。
忘年会も計画していたし、デートの予定があった奴もいるかもしれない。
なにもわざわざ、恋人たちが浮かれ騒ぐこんな日にやらなくても、と思っても仕方がないというものではないか。
私だって予定があった。もうずいぶん長く会っていない、今どこにいるかもわからなくなってしまった大切な人を、クリスマスくらいは帰ってくるかもしれないと淡い期待をして自宅で待つという大事な予定だ。もしも帰ってきたら、ずっと心に抱えていた気持ちを告げてこれから先傍にいてもらいたいと夢見てあれこれ妄想していたのに。こんなところで見慣れた連中とともに仕事をしながら過ごさねばならないなんて、どんな呪いなんだこれは。
「准将のは予定とは言いません。ただの希望です」
無表情に言い切った中尉の冷たい声を思い出すと、ただでさえ寒いのがまたさらに寒くなる。
私はため息をついて未練を振り切った。
「さぁ、さっさと終わらせるぞ」
「うぉーい」
今日の軍用車はトラックだ。荷台には子供たちのためのプレゼントが積んである。赤と白の衣装をすでに着こんでいたブレダがプレゼント入りの大きな袋を担ぎ、フュリーが妙に楽しそうにブレダの二重顎につけ髭を貼りつけた。なかなか似合う。本物みたいだ。
「よっしゃ、行きますか」
髭をつけたらその気になったらしいブレダが笑った。中尉までが無表情を崩してくすくす笑っている。
「どうせやるなら、楽しくいきましょうぜ」
ブレダとハボックは教会の入り口に立って、勢いよくドアを開けた。少し離れた私たちのところまで、子供たちの歓声が聞こえてきた。
「サンタだぞー!」
言いながらハボックたちが中へ入って行く。いち早く飛び出てきた子供がブレダに飛びつくのが見えた。
「意外にノってますね」
フュリーが苦笑した。
「私たちも行きましょうか」
中尉が先に立って歩き出した。それへついて足を踏み出して、それから私は立ち止まった。

確かに今、あの子の声が聞こえた気が。

耳を澄ます必要はなかった。教会のドアから、すぐに本人が顔を出したからだ。

「大佐!あんたも来たの?」

金色の髪と金色の瞳。
最後に会ったときより、少しだけ大人びた顔の鋼のがこちらを見て笑った。






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