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昨日を探そう





ロイの部屋に着くと、部下達と弟は帰っていった。ロイは中に入り、珍しそうにきょろきょろしながらエドワードを手招きした。
「お邪魔します」
エドワードも遠慮がちに中へ入り、まわりを見回した。佐官用の官舎はそれなりに贅沢な造りだが、単身者用なので部屋数も少なく狭い感じがする。キッチンも狭く、使われた形跡がない。寝るために帰っていただけのロイの自宅は乱雑で埃が溜まっていて、あちこちに本や新聞や洗濯物が積み上げてあった。
「どうやら私は掃除は苦手らしいな」
ロイは見渡してから呟いた。今もそれを見て片付けようと思わないあたり、生来無精なのだろう。
だが、女性が出入りしていた形跡はない。それだけはほっとした。なにも覚えてないだけに、少し不安だったのだ。エドワードに不快な思いをさせたくなかった。
二人で中を探検し、寝室を見つけて荷物をおろす。
ロイは寝室を占領するダブルベッドに驚いた。そのまわりに蓄積された洗濯物にも驚いた。素晴らしい無精ぶりだ。本当に睡眠だけをメインにした家らしい。
エドワードは壁面を埋める書棚に驚いた。錬金術に関する本がこれでもかというほどある。タイトルを見て内容を推測できるあたり、自分も少しは錬金術がわかるらしい。が、それにしても半端な量じゃない。きっと素晴らしい錬金術師なんだ。そういう人は多少偏屈で変わった人が多いというし、だったら家事をしないのもわかる気がする。

「散らかっていてすまないね」
「ううん、大丈夫」
軽蔑されたかと不安になったロイだが、エドワードはますますきらきらと尊敬の念を顕にロイを見つめた。
「よかった。じゃ、とりあえず買い物でも行こうか。きみの物を色々買わなきゃいけないからね」
「……うん」
さりげなく肩に回された手に、エドワードは赤くなって俯いた。これからここで、この人と一緒に暮らすんだ。そう思うとなんだか緊張する。

二人はまた手を繋いで買い物に出掛けた。





「あ、出かけるみたいですよ」
「また手繋いでるし」
「新婚さんみたいねぇ」
通りを挟んだ小さな喫茶店で、窓を見ながら部下二人と弟が苦笑いした。ロイ達を送ってから司令部に戻る前にちょっと休憩しようかと入った店で、三人はこれからを相談中だった。
「とりあえず兄さんはあそこで住むとして、ボクはどっかに部屋借りようかなぁ」
アルフォンスが思案顔で言った。通院が長引けば滞在も長くなる。宿屋にいると費用がかかりすぎるのだ。だからといって一人で先に故郷に帰るのは躊躇われる。ピナコやウィンリィにエドワードはどうしたのかと聞かれても、どう答えていいのかわからない。
「おうちには連絡入れて、しばらく私のうちに居なさいよ」
コーヒーをかき混ぜながらホークアイが言った。
「ブラハの世話をしてくれたら助かるし、ついでにごはんも作ってくれたら嬉しいわ」
お嫁さん欲しかったのよね、と言うホークアイにアルフォンスが返答に困っていると、ハボックがタバコを持ったまま挙手した。
「はいはい!オレも嫁さん欲しい!」
「あら、私が先よ」
「中尉は自分で飯作れるじゃないスか!オレなんか毎日出来合いだし、残業とかで店が閉まってたりしたらビールだけ飲んで寝る日もあるんスよ!」
「あんたんち狭いしベッドもないじゃない。アルフォンスくんを床に寝かせる気?」
「いや、軍の簡易ベッド借りてきますよ!それなら置く場所くらいあります!だからアル、オレんち来て飯作って!」
「むさ苦しい男の部屋より私んちのほうがいいわよね、アルフォンスくん」
「え………えーと」
アルフォンスは答えに詰まった。どうしよう。ボク今すごくモテてるよ。
普通に考えれば女性の部屋に男の自分が居候なんてできるわけがない。だが、昨夜泊めてもらったホークアイの部屋は女性らしさの欠片もなかった。乱雑に置かれた荷物と脱ぎ散らかした服、あまり使われていないキッチン。男の独り暮らしと変わらないように思えた。だからこそ妙な遠慮もしなくてすんだが、ずっと一緒となるとやはりまずいのではないか。
しかしハボックの部屋は、昔一度だけ兄と一緒に行ったことがあったが、部屋に小さなベッドがひとつあるだけで家具らしいものはなにもなく、クローゼットに服と多少の手荷物があるのみだった。だからといって広いわけではない。足の踏み場もないくらいゴミや空き缶が散乱していて、キッチンはもう腐敗しているのではないかと思うほどだった。兄と二人で半日かけて掃除をしたらお礼にとエロ本くれたっけ。あれはずいぶん前で、まだ自分が鎧だった頃だ。多分すでに元に戻っているか、もっとひどい有り様になっているに違いない。

自分を取り合って揉めている軍人二人を前に、アルフォンスはため息をついた。二人とも忙しいんだから仕方ない。できることで手伝いをするのは今まで世話になった恩返しだと思おう。

「あの、じゃあ」
アルフォンスが言うと、ホークアイとハボックは言い合いをやめて向き直った。
目が真剣だ。怖い。
「い……一週間ごとに二人の家を往復というのはどうですか」
怯えながら言うアルフォンスに、二人はちらりとお互いを見てから渋々頷いた。




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