昨日を探そう





病院の廊下を歩きながら、ホークアイがため息をついた。
「記憶喪失なんてねぇ」
一緒にアルフォンスもため息をつく。
「そんなの、マンガの中だけかと思ってましたよ」
ハボックも同様。
「二人揃ってとはまたやっかいな…」
三人はまた同時にため息をついた。
医師の話では脳には異常はなかったから一時的なショックで記憶が飛んだだけではないかということだった。多分すぐに戻るでしょうと慰めるように言われたが、身内としてはそんな言葉で安心できるはずもない。
どうしたものかと悩みながら、三人は病室の前まで来て足を止めた。中には犬猿と言っていいくらい仲の悪い二人がいるはずだが、妙に静かで物音もしない。
「寝てるのかしら」
ホークアイがそっとドアを開けて中を覗いた。





隣合わせのベッドの上に座って、ロイとエドワードは俯いていた。
知らない人同士で相部屋なのだから、なにか挨拶をするべきだ。だが、そう思って顔をあげて隣を見るたび、隣も同じように顔をあげてこちらを見る。目が合うとなんだか恥ずかしくなってまた俯く。さっきからその繰り返しだ。

ロイはうるさく鳴る心臓の音が隣まで聞こえてはいないかと心配だった。きらきらの金髪にきらきらの金の瞳。こんなに可愛い子が隣なんて、どうしたらいいんだろう。

エドワードは頬が熱くなるのを抑えきれなくて困っていた。さらさらの黒髪に優しげな黒い瞳。きっとこんなにカッコいい人は他にいない。

どちらも俯いて、どちらも途方に暮れていた。でも隣が気になって仕方がない。勇気を出して顔を向けると、またばっちり目が合ってしまって慌てて下を向く。
このままではどうにもならない。ロイは勇気をふり絞った。

「……あのぅ、はじめまして」
「……は、はじめまして」「えーと、あの……お名前は?」
「あ、えーと」
エドワードはベッドにつけてある名札をちらりと見た。
「エドワード・エルリック、らしいです…」
「そうですか。可愛いお名前ですね」
「あの、あなたは…?」
「あ、私は…」
ロイはベッドの名札を以下同文。
「ロイ・マスタング、みたいです」
「マスタングさんですか。カッコいいお名前ですね」
「いえ…あなたこそ、とても可愛らしい」
「いえ、そんな…」
二人は下を向いたままもじもじしながら赤い顔で笑った。
「あの、エドワードさん……ご趣味とかは…」
「あ、………わかりません」
「私もです。気が合いますね」
「ええ、そうですね」
そしてまた顔を赤らめて微笑みながらもじもじ。






「………なにアレ」
「お見合いみたいですね」
「大将はともかく、大佐キモいな」
三人はドアの隙間に顔を押し当てながら眉をよせた。お見合い中の二人はまだもじもじと語り合っている。

「なにかお仕事されてるんですか?」
「はぁ、多分。あなたは?」
「あ、オレも多分なにかやってます」
「奇遇ですね」
「そうですね」
「なんのお仕事を?」
「わかりません」
「私もです」
「奇遇ですね」
「そうですね」


……………一生やってろ。三人はドアを離れた。



「なんだか信じらんないんスけど」
「そうね…あれだけ仲が悪かったのにね」
「もしかしてアレじゃないですか?ほら、普段は意識しすぎちゃって意地悪しちゃうみたいな。意地っ張りですし二人とも」
「子供かよ」
ハボックはため息をついた。
そういえば、険悪な雰囲気なくせに食事に行くと言えば揃ってついてくるし、悪口言って怒鳴りあいながらも一緒にいる。上司はなんだかんだと用事を見つけては子供を呼び出すし、子供は怒りながらも必ずすぐ来る。
なんだ、そーゆうことか。
ハボックは頷いてホークアイを見た。
「とりあえずこれで仲良くなれば、悪くないんじゃないスか?」
「そうねぇ。雰囲気もよくなるし、うるさくなくなるし」
ホークアイも頷いた。
「けど、なんだか」
アルフォンスはちらりと病室を見た。
「意味が違う感じに仲良くなりそうですよね」

病室ではいまだに記憶のない二人がもじもじとお見合いを続けていた。



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