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結婚するって本当ですか


その16・風邪もひけない



なんか、気分悪い。
吐いたりまではしないけど、胃がむかつく。
そうアルに言って、とりあえずベッドに横になった。風邪をひいたのかもしれない。

しかし夕方帰ってきた大佐は、なぜだか髪を振り乱す慌てぶりで寝室に駆け込んできた。

「鋼の!具合はどうだ!?」
「気分がちょっと悪いだけだから、大丈夫だよ」
言うと大佐はオレをじっと見つめ、なにか考えていたかと思うと部屋の外に向かって大声を出した。
「ハボック!車を出せ!」
了解、と階下から声がする。ハボック少尉は毎日大佐を送迎して、ついでみたいにうちで飯を食う。だからいるんだろうけど、わざわざ車なんてなんだか申し訳ない。
「病院へ行こう」
妙に優しい声の大佐に頷いて、オレは起き上がろうとした。だが大佐が布団を剥ぐほうが早い。
なんだなんだと目を丸くしているうちに、オレは大佐の腕に抱かれて車へと運ばれていた。お姫様抱っこに顔が赤くなる。呆れてんじゃないかなと気になってアルたちを見ると、二人ともコートに袖を通しながら気遣うような視線をオレに向けていた。

たかが風邪なのに、こんなに心配してもらえるなんて。

感動しているうちに車は病院に着いた。

看板を見ると、産婦人科だった。

「ちょ、なんなんだ!内科に行くんじゃねぇのか?」
慌てたオレを抱きしめて、大佐があくまで優しく見つめてくる。
「妊娠かもしれないだろう。ちゃんと診てもらわなくては」

に、妊娠て。
オレ、男なんですけど。

壊れ物を扱うように大佐がオレを中へ運ぶ。アルが受付を終え、少尉がオレを安心させるように微笑みかけてくる。

ダメだ。みんな本気だ。

頭、大丈夫なんだろうか。

診察室に呼ばれ、顔から火が出そうな思いで中に入った。もちろん大佐もついて来る。来なくていいのに。
「………妊娠?」
医者が目を真ん丸にしてオレを見る。
「いや、風邪だと思うんですけど…」
「わからないだろう、鋼の!もしも妊娠していたら、薬なんて飲んだら大変なことに……!」
真剣な顔の大佐。死にたい。
笑い飛ばしてくれると思っていた医者は、真面目な顔でオレを見た。
「内診してみましょう」
なんでだ!
ていうか内診てなに?

診察室の奥に連れて行かれると、摩訶不思議な診察台が置かれていた。戸惑うオレに、看護師さんが優しく説明してくれる。

下を全部脱いで、こことここに足をかけて……。

オレは暴れた。気分は悪いままだったけど、逃げ出そうと必死で頑張った。診察室の外にいたアルと少尉にあっけなく捕まって連れ戻されてからも暴れ続けた。
あんなもん乗るくらいなら、オレは風邪で死ぬほうを選ぶ。

あまりの暴れように、医者は仕方なくエコーにしましょうと言った。聞くと腹に像映剤を塗って機械をあてて、間接的に中を見る診察らしい。
腹を捲ればいいと言われて、オレは渋々頷いた。

医者は真剣に機械をあてる。大佐もアルも少尉も、看護師さんまでが真剣にそれを見る。

生まれたときから男だと思っていたのに、なんだかだんだん自信がなくなってきた。
誰か、オレは男なんだと言ってくれ。ここから救い出してくれ。

診察がすんで、真面目な顔で自分を見つめるオレ以外の全員に、医者が口を開いた。

「風邪でしょう」

残念そうな皆の顔。なぜか医者まで残念そうだ。
「なんか、この子なら妊娠するかもしれないと思って」
それ医者が言うセリフじゃねぇだろ。

産婦人科でも風邪薬は出してくれるんだ、と初めて知った。薬の包みを持って車に乗ると、大佐がまたオレを抱きしめた。
ものすごくがっかりした顔。他の皆も同様だ。
「子供がほしけりゃ離婚してやるから、女と結婚しろよ」
唇を尖らせてそう言うと、大佐は慌てて顔をあげた。
「違う!きみに生んでほしかったんだ!」
無理だから。
「なんだか、きみなら本当に妊娠しそうな気がして」
医者と同じこと言ってる。
オレはつんと横を向いた。
「一生無理。だったら離婚する」
「嫌だ!絶対しないぞ!」

おいおい泣く大佐をそのままに、車は家に到着した。歩いて部屋に行こうとしたオレを、大佐がまた抱き上げて連れていく。

「いつか、養子をもらおうか。赤ん坊の」

「…………それはまぁ、いいけど」

大佐はとにかく優しくて、オレはちょっとだけ申し訳なくなった。

子供生めなくてごめん。

そう言うと、大佐は微笑んだ。

「好きだよ、鋼の」

愛してる。大好きだ。

子守唄みたいに言われながら眠りについたオレは、夢を見た。
養子にもらった赤ちゃんを抱いたオレと、それを嬉しそうに見る大佐がいた。

そんな未来も、悪くないと思った。







「あーあ。兄さんなら絶対子供生めると思ったのになー」

翌朝回復して食卓についたオレにそう呟いたアルに、拳骨をお見舞いしてからオレはパンにかじりついた。


とりあえず、もう二度と風邪はひくまいと決心した。





END,

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