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結婚するって本当ですか


その13・もうどうでもいい



「オレ逹別れたほうがいいよ、大佐」
エドワードが俯いたまま言った。
「オレ、もうイヤだ」
「……そうか」
ロイは窓の外を見つめたまま頷いた。
「仕方ないな。諦めるよ、鋼の」
「それなりに楽しかったけど、でも……」
「いいんだ。私の我儘だったんだから」
ロイは振り向いて微笑んだ。それがなんだかやけに寂しそうで、エドワードは言葉に詰まった。
でも、もう決めたことだから。
エドワードは立ち上がった。
「オレ帰る」
「ああ。気をつけて帰りなさい」
「うん。………そんじゃ」エドワードは力なく笑ってドアに向かった。
「ああそうだ、鋼の」
その声にノブに手をかけてから振り向いたエドワードに、ロイは微笑んだまま言った。

「帰ったらすぐ入るから、風呂の支度をしておいてくれ」






「………………はぁ?」

間の抜けた疑問の声をあげたのはエドワードではなく、息を詰めてやりとりを見守っていた部下逹だった。

そこはロイの執務室ではなく、みんなが仕事をしている部屋だ。
朝から色々と忙しかったロイは、そこで部下に指示を出しながら仕事をしていた。そこへやってきた元鋼の錬金術師で今はエドワード・マスタングになっている金色の少年が、やけに深刻な表情で思い詰めたように切り出した「別れたほうが」という言葉に、ロイの部下逹全員が仕事を忘れて注目していた。

「それで、なんで風呂の話なんですか?」
戸惑ったように聞くブレダに、ロイは胸を張って見せた。
「風呂だけじゃないぞ。今夜のおかずは何かも聞くつもりだった」
「……いやそうじゃなくて」
「なんだ?まだ他にあるのか?あとは今夜どんな体位でしようかとか前戯はどんなのがいいかとかだが、そこはプライベートだし鋼のの照れて恥じらう可愛い顔をきさまらに見せたくないから家に帰ってから一緒に風呂に入って話そうと思っていたところだ」
「……いや、そういうのは別に聞きたくないです」
「じゃあ何だ?ああそうか、いつも鋼のが帰るときに言う言葉を忘れていたからか。そうだな、私としたことが。鋼の、短時間といえどきみと離れるのは辛すぎる。愛してるよ。いつも頭の中はきみだけだ」
「せめて職場にいる間だけでも仕事を思い出してください」
うんざりして黙ったブレダの代わりにホークアイが無表情で言った。が、ロイはドアの傍で固まったまま真っ赤な顔をしているエドワードになにもかもを持っていかれてしまっているようだ。ホークアイはため息をついてエドワードを見た。
「エドワードくん、なにかあったの?いやに深刻な感じだったけど」
「あ、いや。たいしたことじゃなくてさ」
エドワードはホークアイを見て慌てて言った。
「なんか今、大佐に空前のフルーツパフェブームが到来してて」

毎日エドワードと一緒に食べ歩きしていたのだが、エドワードはあいにくフルーツがそんなに好きなほうではない。それでもロイと街を歩くのは楽しいので付き合ってきたが、さすがにそろそろ限界がきた。

「だから、別行動でそういうの好きな人と一緒に行ったほうがいいんじゃないかなって思って」
エドワードは俯いた。
理由はわかったが、なんて紛らわしい言い方なんだ。部下逹全員、脱力してため息をついた。
「きみ以外の人となんて、なにを食べたっておいしくないに決まってるだろう」
ロイはエドワードに近寄ってその肩に手を回した。
「私の我儘で付き合わせて悪かった。すまない、鋼の」
「オレこそごめん。あの、たまになら一緒に行くから。毎日じゃなきゃ大丈夫だから」
「ありがとう、嬉しいよ」
「大佐…」
「鋼の、好きだよ」
「うん」
「愛してる」
「……うん。ありがと」







「さ、仕事仕事」
軽くぽんぽん手を叩いて、ホークアイが促した。それを合図に全員それぞれの席へ散る。






それきりドアの前でべたべたと戯れる新婚夫婦を気にする者はもう誰もいなかった。










END
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