結婚するって本当ですか




その11・鐘の音➄



★★★★★★



エドワードは薄く目を開けた。
ロイが出てから眠っていたらしい。たいして時間は経っていないようだったが、それでも体はずいぶん楽になった。

起き上がろうとして頭をあげると、横から優しい声がした。
「起きた?お水持ってこようか?」
「……アル…?あれ、大佐は?」
「大佐は二次会行ったよ。かなり抵抗してたけどさ、ハボック少尉に引きずられてった」
くすくす笑いながらアルフォンスが水の入ったグラスを差し出した。エドワードは苦笑してそれを受け取り、一気に飲んで。
「うま!」
「おかわり要る?」
「いや。てかおまえ、行かなくてよかったのか?」
心配そうなエドワードに、アルフォンスは笑って手を振った。
「行ったってつまんないよ。酔っぱらいばっかで。大佐もきっと酔っぱらいに捕まっちゃってるよ、電話したけど大変そうだったもん」
そう言って笑うアルフォンスに、エドワードは盛大にため息をついてベッドに倒れ込んだ。
「あー、もう。なにやってんだろオレ。大事なときにのぼせるとかさぁ」
「仕方ないよ。今日はほんと忙しかったしさ、疲れたんだよ」
アルフォンスはベッドの脇に寄せた椅子に座りなおし、エドワードの顔を見てにっこり笑った。
「なんだよ」
「いや…だって、嬉しいんだよ。今日兄さん結婚したし、もうボクだけの兄さんじゃないんだなって思ってたからさ。こうやってまた二人きりとか、なんか嬉しい」
「・・・バカだなー。おまえだってそのうち結婚すんだろ」
アルフォンスから伝わってきた寂しさをごまかすように笑って、エドワードは窓のほうを向いた。すっかり夜が更けていて、空には星が輝いている。

「今日さ、父さん泣いてたね」
「ウゼぇんだよあいつ。すぐ泣くしよ」
「そんなこと言っちゃダメだよ。喜んでくれたんだから」

ぽつぽつと話しながら、二人ともお互いは見ずに星を見つめた。

「あいつ、二次会行ってんのか?」
「大佐がぜひにって言ってたけどね。母さんに報告するんだって、夕方の汽車で帰ってったよ」
「そっか…」




「ねぇ兄さん」
「なに」


「結婚、おめでとう」




エドワードが振り向くと、アルフォンスは泣きそうな顔で笑っていて。

その顔は、亡くなった母親によく似ていた。




「……なに言ってんだよ、今さら」
「あはは。だって、ちゃんとお祝いを言う暇がなかったんだもん」



起き上がってベッドに座って、エドワードはまた窓を見た。そこに映るアルフォンスも窓から夜空を見ている。





「幸せになってね」


「うん」


「まぁ大佐だからね。心配はしてないけどさ」


「あいつだから不安なんだけどな」


「大丈夫だよきっと」


「そうかな」


「うん」


「おまえも、幸せにならなきゃ」


「任せといてよ。兄さんよりずっと幸せになるから」






「………あとね、兄さん」


「なんだよ」


「父さんね、今日兄さんの花嫁姿がきれいだってすごく感動してさ」


「・・・・・・・そうか?」


「うん。それでね、村のみんなにも見せたいって言って」







フィルム50本分くらい、写真撮ってたよ。









エドワードの脳に言葉の意味が染み込むまで、しばしの間。




「・・・・あんのクソ親父!」
「ちょ!兄さん、服くらい着てよ!」
「うるせ!放せ、現像する前にカメラ破壊してフィルムを燃やさねぇと、オレ一生リゼンブールに帰れねぇし!」
「まさかそれで汽車に乗る気じゃないよね!?せめてパンツ!パンツ履いて!」
跳ね起きて裸のままドアに突進しようとする兄を必死で捕まえたアルフォンスは、またしても兄と格闘することになった。





ロイは酔っぱらいたちにしがみつかれ、注がれる酒を次々に飲まされてどんどん意識が酩酊していく。



エドワードはケンカでは勝てた試しがない弟にやはり負けて、パジャマを着せられてベッドに押し込まれている。



そうして、結婚して初めての夜はゆっくりと更けていった。




END,
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