結婚するって本当ですか


その4・引っ越し➅


「………………あ、うん……」

答え方がわからなくて、オレはとりあえず頷いた。
結婚する覚悟はできてたんだ。別にいまさら嫌とか言う気はない。

でも、こうして真剣にプロポーズとかされてしまうと、なんだか急に照れてしまう。
ほっぺたどころか顔中が熱くて、オレは横を向いた。大佐はとにかく嬉しそうで、オレを抱き寄せて頭をぐりぐり撫でてくる。

「愛してる、なんて言葉、初めて使ったよ」

言いたくなったのはきみが初めてだ、とか耳元で言われた。大佐はオレの心臓を破裂させたいらしい。さっきからどきどきばくばく、どうしていいかわかんないくらいだ。

初めて触れた大佐の腕や胸は大きくて温かくて、なんでだかちょっと涙が出た。
誰かに抱かれるのは、母さんが死んでから初めてかもしれない。オレってこういうスキンシップに慣れてないから、こんなときはどうしたらいいのかわからないんだけど。

「大佐、オレこうされるの好きかも」
ぽつりと言うと、大佐の動きが止まった。
「時々さ、こうしてもらえたら嬉しいかも」
そう言ったら大佐の腕に力が入った。ちょっと痛いんだけど。

ああそうだ。ついでに聞いちゃえ。

「なぁ大佐、昼に言ってた『風呂じゃなくてそのあとがメイン』てなに?メシ?」

大佐はなにも言わない。なに、ご馳走を期待してんのが恥ずかしいの?オレだって高級ホテルのディナーは楽しみなんだから別にいいのに。

「えーと、あとさぁ。さっき言ってた『今日はなにもしない』って、なにする気だったの?」

大佐は黙ったままオレから少し体を離し、オレの顔をまじまじと見つめた。

本当にわからないのかと聞いてくる。

わからないから聞いてると答える。

誘ってるんじゃないのかと言われる。

なにをだと聞き返す。

それから大佐はベッドに倒れて、しばらく伏せたまま動かなかった。
そうしてそのあとようやく起き上がった大佐に教えてもらった答えを聞いて、今度はオレが倒れた。



知ってるさ、オレだって。

いくらガキでも健康な男の子なんだ。本だの雑誌だの大人達の会話だので、そういうことくらい知ってる。
子供はそうやって作るんだって、初めて知ったときはかなり衝撃だった。


けど。

それは男と女がすることで。

オレと大佐はお互いどちらも男なわけだから。




普通、するとは思わないじゃんか。

そんなん、大佐が楽しみにしてるなんてカケラも思うわけないじゃんか。




「で、できるわけないじゃん男同士で」
「なに言ってるんだ。できるさ、実際やってる奴もいるんだから」
「え、でも大佐はしたことないんだろ。できないよ」
「いや、したことはないがきみとならできる。というかやる気満々だ。今すぐでもしたいぞ」




………信じらんねぇ。




この家に着いたときに少尉が言った謎の言葉の意味をようやく理解したオレは、言われた通りにショックで起き上がれないまま毛布の塊と化して夜を過ごした。



結婚って、そーゆうこと?



………マジでオレ、できるの?





大佐の家での最初の夜は、たくさんのことがありすぎて。


オレはそれから3日、熱を出して寝込んで過ごした。






END.

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