天女は月夜に恋をする





ひとしきり舞ったあと、トリシャはロイを見ました。ロイはエドワードを抱いたままぼんやりとトリシャたちを見つめています。エドワードはまだ青い顔をして気絶していました。
「マスタングさんだったかしら。私たちは月に住んでいて、基本的に地球とは関わってはいけない決まりなのよ」
「…………はぁ」
「私はどうしても地球に降りてみたくて、来てしまったの。そこでこの人に出会ったわ。でも無理やり引き離されてしまって、おかげで両親とは死ぬまで口をきかなかった。エドには、私と同じ思いはさせたくないと思うの」
「………では、」
「エドをよろしくね。短気で我儘で乱暴だけど、必死で探せばいいところもたまにはある子よ」
「……………」
それは褒めてはいないな。ロイは腕の中で虫の息のエドワードを見て、頷きました。
「ありがとうございます。お任せください」








エドワードが目覚めると、話はすっかりついていました。トリシャは台所で食事を作りながらホーエンハイムとピンクな雰囲気を作っていて、アルフォンスはホーエンハイムに息子として挨拶をしたあとはウィンリィに夢中です。
「……なにがどうなったの?」
まだ自分を抱いたままのロイを見て、エドワードは不思議そうに聞きました。とっくに月へ連れ戻されたかと思っていたのに、まだホーエンハイムの家にいてロイに抱かれているなんて。
「きみのお母さんは、ホーエンハイムさんと結婚するんだそうだよ」
ロイは嬉しそうにエドワードの頬を撫でました。
「だから、お母さんとアルフォンスくんはここに引っ越して来るそうだ」
「そ、そうなの?」
金の瞳を丸くして驚くエドワードに、ヒューズが笑いました。
「これでおまえは皇帝の花嫁だな。よかったなぁ、エド!」
「……………えー」
やっぱり結婚するのか。エドワードは眉を寄せました。

「なんだエドワード、その顔は!きみは私が好きなんじゃなかったのか?」

「だって…さっきオレ死にかけたし。なんか、自信なくなった………」

「ええっ」

「キス、しねぇんなら嫁になってもいいけど」

「ええええ!」

ロイの悲痛な叫びは、月夜の空にこだまして消えていきました。





それから少しして、トリシャとアルフォンスは月から引っ越してきました。

エドワードはロイの元へお嫁に行き、ロイは天女を妻に迎えた皇帝として国民に広く支持と嫉妬を受けました。

ヒューズはそのロイに忠実に仕える家臣として常に側から離れることはなく、同じく家臣となったハボックは時々天女にちょっかいを出してはロイに前髪を燃やされたりして。



みんな、幸せに暮らしました。






END,
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