永遠の願い






「ひとりに、してくれ」

ロイの懇願に、ハボックが頷いた。ホークアイの肩を抱いてテントの外へと連れていく。

逃げなければ。
この、死に満ちた場所から。

だって、自分は。

エドワードはがくがく震える足を必死で動かして、体の向きを変えようとした。

だが、遅かった。
ロイがこちらを振り向いた。

「鋼の」

それは、魔法の言葉のようだった。

「会いたかったよ、鋼の」
手を伸ばしてくるロイを、エドワードは恐怖に体をすくませて見つめた。

手を伸ばしてはダメだ。
触れてはいけない。

なのに。
エドワードは手を出した。
ゆっくりと伸ばし、それとともに体が前に出た。
ロイのほうへ。

「待っていたよ。来てくれないかと思った」
変わらない笑顔で、ロイが言った。どうしてだろう、さっきまでと違って見える。
これは、あの日のロイではないか。
まだ若く、病気も知らず、自信と威厳に溢れていて。
優しく自分を抱いてくれた、あの。

「……………大佐」

声が出せることに、エドワードは驚いた。
ロイは嬉しそうに笑った。
「鋼の。もっとこっちへ」
「ダメだよ。行けない」
「いいから。早く」
ロイはぎりぎりまで近づいて躊躇うエドワードの手を乱暴に掴んで引っ張った。

ダメなのに。

触れてしまったら、いけなかったのに。

「あんたまで、死んでしまう……」

エドワードは思い出した。
あの日、自分は汽車で夕陽を眺めていた。
汽車は山にさしかかり、そして脱線した。
衝撃。浮遊感。
谷底に落ちていく汽車の中で、浮かんだのはこの人の顔だった。
死の瞬間までの数秒、願ったのはひとつだけ。

あれほど、二度と会わないと決めていたのに。

その瞬間には、なにもかも忘れていた。




会いたい。




「迎えにきてくれてよかった。探す手間が省けたよ」
ロイは身軽に起き上がり、エドワードを抱き締めて、左手をとって口付けた。
そのとき初めて、エドワードは自分の指にロイと同じ指輪が填まっていることに気がついた。
不思議そうにそれを見るエドワードに、ロイは悪戯が成功したような顔で笑った。
「きみを埋葬するとき、填めさせてもらったんだ」
「最後のときに言った、渡したいものって」
「それだよ。これから先、ずっと傍にいてほしいと言うつもりだったんだ」



二人はテントを抜け出した。ハボックがホークアイの肩を抱いたまま、どこか遠くを見ていた。ホークアイはまだ泣いていた。
丘の上から車が走って降りてきた。助手席にあの軍人が乗っていて、血相を変えて運転手を急かしていた。
テントのまわりに人が集まり始めた。

ロイはエドワードを見下ろして、行こうかと囁いた。
「どこへ?」
「どこでもいいさ。きみと一緒なら」

ようやく、願いが全部叶った。

ロイは晴れやかに笑い、エドワードの手をとって歩き出した。

戸惑いながら一緒に歩き出したエドワードは、左手の指輪を見た。
金色に輝く、愛の証。

そのとき、ようやくエドワードの瞳から涙が溢れてこぼれ落ちた。








願うのは、ひとつだけ。



あなたと、永遠に














END,
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