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魔法が使える人魚姫





しばらくエドワードは悩んだ。どうしたらいい。どうしたら。

「エド、なに悩んでるの?」
トリシャが優しく頭を撫でた。
「ね、明日はあなたが来てから1年目よ。なにかお祝いしなくちゃね」

1年。

トリシャはなんのご馳走を作ろうかしらと言いながらキッチンへ行った。
エドワードは窓の外を見た。青い海が太陽に輝いている。

限界だ。

エドワードは決心した。

もう、人間ではいられない。
辛すぎて死にそうだ。








夜が更けてから、エドワードは家を出た。
城の庭を横切り、たくさんある窓を見上げる。ロイの部屋は明かりがついていた。

小さな小石を拾って投げた。狙い通りにロイの部屋の窓に当たり、シルエットになった王子が顔を出す。
エドワードが見上げていると、すぐにシルエットはいなくなった。しばらく待つと、目の前のテラスの大きな窓のカーテンが開いた。
鍵を開ける音。それから静かに窓が開く。

「エドワード、どうした?」
ロイが出てきた。話があると短く告げてエドワードが見つめると、ロイは少し迷って体を避け、エドワードに手招きした。
「外より私の部屋のほうがいいだろう。おいで」

初めて入る城の中をロイについて歩きながら、エドワードはまだ迷っていた。
ここに来たのは正解だったんだろうか。
自分にわからなければ、きっと誰にもわからない。エドワードは目を伏せた。


ロイの部屋は広くて豪華だ。アルフォンス達が住む家がまるごと入りそうな。見回してベッドがないのに気づいて、では寝室はまた別なのかとエドワードは感心した。海の底はどの洞窟もワンルームだ。帰ったら部屋がいくつかあるようなでっかい洞窟を探してみようかな。

「話ってなんだ?ああ、その前になにか飲むかい?」
「いらないよ」

ロイは戸惑っているようだった。エドワードに椅子を勧めるのも忘れて、ひたすら見つめてくる。
エドワードは勝手にソファに座った。ロイの視線が痛くてなんだか早くも後悔し始めたが、決心したんだ。言わなくちゃ、心残りで帰れない。

「あのさ、オレ」

エドワードは俯いた。
今さら、反応が怖かった。

「オレ………あんたのこと、好きみたいなんだけど」



どうしたらいい?と問いかける暇もなかった。
素早く傍に来たロイの手がエドワードをソファから立たせて、そのまま抱き締める。

「……聞き間違いだとしても、もう離してやれないぞ」

ロイの声は掠れていた。
エドワードは黙って目を閉じた。あとは未知の世界だ。わからないから、任せるしかない。

自分の唇に当たる柔らかいものがロイのそれだと気づいたとき、どうしようもなく嬉しかった。









夜明け前は冷える。エドワードは少し震えながら砂を踏みしめて歩いた。

ロイはまだ眠っているはず。さっきまでの温もりを思い出して、さらに寒さが増したような気がした。

なんだかあちこちダルい。人間て、みんな好きな人とあんなことしてるのかな。

痛くて、暖かくて、幸せだった。

だからもういいや。
エドワードは波打ち際に近寄って足を止めた。

自分はもう幸せになった。あれで充分だ。

次は、みんなが幸せになる番じゃないか?



頭に浮かぶ魔法は、対象が多くて大変そうだ。
成功するのかな。
不安になったが、首を振って追い払う。成功させなくてはならないのだ。やるしかない。

エドワードは目を閉じて呪文を唱えた。
それから祈る。
アルフォンスとウィンリィが幸せになりますよう。
トリシャが幸せになりますよう。
それから、ロイも。誰かと幸せになりますように。

エドワードの体が金色に輝いた。光が砂浜を照らし、空に駆け上がる。

やがて光が消えて、エドワードは息をついた。
成功したんだろうか。でも、確かめる時間はもうない。

さよなら、みんな。

ロイ、さよなら。ありがと。幸せになってくれな。




ぽちゃん、と水音がひとつ。



それきり静かになった浜辺には、もう誰もいなかった。



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