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低血圧の眠り姫



ほどなく、城が崩れ落ちた。
無声映画を見るように、音もなく。
ゆっくりと崩れた城は、すぐに伸びてきた蔦や茨に覆われて見えなくなった。
かろうじて覗く石垣に苔が生えていく。やがて静寂に包まれていた森に鳥の声が戻る頃には、そこに城があったこともわからなくなった。

『あ、ほんとだ。王子様だ』

くすくすと笑う声が聞こえる。全員があたりを見回すと、木々の間を漂うようにゆらゆらと揺らめく白いローブを着た眼鏡の女性がこちらを見ていた。

『ね、来てくれたでしょ?』

隣にラストがふわりと現れて、二人は顔を見合わせて笑った。

『だって、あの人が次の王さまだもの。なら王子様って言ってもいいと思うわよ』
『そうよね。きっとエドワード様は幸せになるわ。だって私がそう願って魔法をかけたんだもの』

二人の魔女は笑いながらこちらを見て、さよならと手を振った。
誰もなにも言えないまま見守るうちに、その姿は薄れてやがて消えていった。


「………次の王さま?」
ぼんやりと間抜けな声を出すフュリーの頭をブレダがこづいた。
「バカ、大総統のことだろ」
「あ、なるほど………」

その未来の大総統はどこだ?とハボックがきょろきょろする。
ロイは、まだ呆然と城の跡を見つめるエドワードの肩を抱いて立っていた。

「……私と一緒に行こう、エドワード」
エドワードは涙を溜めた瞳でロイを見上げた。
「私がきみの王子様らしい。幸せにするから、一緒においで」
「………王子はオレだよ……」
エドワードは俯いて言った。が、小さな手はロイの服をしっかり掴んで離さない。ロイは笑って、エドワードを抱き上げて頬にキスをした。

「エドワードくん、大佐は錬金術が使えるのよ」
ホークアイが微笑んで言うと、エドワードは不思議そうな顔をした。
「魔法みたいなものよ。空は飛べないけどね」
「マジ?こいつ、魔法使いだったの?」
すげぇ、と感心するエドワードにロイは苦笑した。
「あんなにすごい魔法は使えないけどね。素質があれば誰にでもできるさ。興味があるなら教えてあげるよ」
「マジ!やった!リザ、あんときオレと約束したこと覚えててくれたんだな!」

嬉しそうに笑うエドワードに、ホークアイも笑った。






王子様は王様のところに戻り、遺蹟は崩れて調査は不可能だったと報告しました。
帰る途中で姫に魔法を見せてとねだられて、調子に乗って森を半焼させたことは黙っていました。そのあと鷹の目の部下に蜂の巣にされそうになったことも内緒でした。

眠り姫は錬金術を学び、王子様と並ぶ錬金術師になりました。相変わらず低血圧で、寝起きはたいそう乱暴でしたが。

二人はいつまでも、仲良く幸せに暮らしました。








END.
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