黒と赤の夢
「最近、エドのやつ来ねぇなぁ」
ハボックの呟きにブレダが頷いた。
「3年生だし、卒業もあるから忙しいのかもな」
「社長、なんか聞いてませんか」
元々あんたが連れて来たんでしょ、とハボックが言う。ロイはパソコンの電源を切ってちらりと時計を見た。
「仕事の邪魔はしたくないと言ってたからな。あの子なりに気を使ったんだろう」
「邪魔とか思ったことねぇのになぁ」
ブレダがため息をついた。
「あの積み替えんときだって、一生懸命やってくれてたし」
「あ!あんとき!」
ハボックがいきなり叫んでロイを見た。
「あんたが何かしたんじゃねぇの?あれから来なくなったし」
「え」
ロイがまわりを見ると、その場にいた社員全員がロイを見つめていた。
「な、なんでそんなことを」
「とぼけねぇでくださいよ。あんたがエドを見る目、かなり怪しかったっスよ」
「そうそう、なんか変態的で」
「うん、もうなんか変質者的な」
ハボックに全員が頷いてみせるのを見て、ロイは慌てて立ち上がった。
「なにを言ってるのかわからんな。じゃ、私はいったん帰るから」
「夜中出発ですから、少しでも寝てください」
リザが言うのへ頷いて、ロイは早足で事務所から出て行った。
「社長なに急いでるんですか?」
不思議そうなフュリーに、ハボックが大げさにため息をついてみせる。
「恋人ができたんだってよ。毎日いそいそ会いに行ってんだ。くそ、おんなじくらい仕事してオレは彼女どころか出会う暇すらねぇのに!どこでサボッてやがんだちくしょう」
「ああ、なんかコンビニで出会ったみたいですよ」
ファルマンが笑顔で言った。
「一目惚れに近かったそうです。いいじゃないですか、幸せそうで」
「仕事してくれれば文句はないわ」
リザが立ち上がった。
「私はもう出発しなきゃ。最後にここ出る人は鍵閉めといてね」
全員がはーいと素直に返事をするのを聞いて、リザはにっこり笑った。
「エドワードくんはまたそのうち来るわよ。今はそのための準備、じゃないかしら」
「あー、危なかった」
ロイは黒い普通車のハンドルを握ってほっと息をついた。車は街中にある自動車学校の駐車場に滑り込み、その端に止まった。
狭いコースの中を走る教習車を眺めると、どれもよたよたびくびく走り回っていて、真剣な目をした生徒が隣に乗った教官に叱られながら前を睨んでいる。
自分も昔はあんなだったんだなとロイが苦笑したとき、学校の建物から恋人が出てきてロイに手を振った。
「どうだ、仮免は取れたか?」
「まだ。明後日試験なんだ。オレ学科自信ねぇ」
助手席に乗ったエドワードにロイは笑ってみせた。
「学科なら私も2回落ちた。まぁ頑張れ」
「不吉なこと言うなっての。それよかロイもバイト雇えるくらいになるまで頑張ってよ!でなきゃオレ春から路頭に迷わなきゃなんねぇからな」
「ははは。きみを一人雇うくらいは大丈夫だよ。早く免許取って一人前になってくれ」
エドワードから卒業したらロイの会社にバイトで入りたいと言われたときにはロイも迷った。
運送屋は楽ではない。見て実際に体験してそれはよくわかったはずだ。
それでも行きたい。みんなの役に立ちたい。そう言ったエドワードの目は真剣で、ロイは頷くほかにできなかった。
「早く中型免許ほしいなー」
「仕方ないだろ。2年だったか?しばらくはバイトだな」
「オレもトラック運転したい」
「普通車がうまく乗れるようになれば練習させてあげるよ」
プロドライバーばかりだから先生はたくさんいる、と苦笑して言うロイの向こうに黒い車体が見えた。
甲高いクラクションが2回鳴り響き、真っ黒なボディに真っ赤なマーカーのトラックが追い越して行く。
「リザだな。少しおとなしく走れといつも言っているのに」
大型よりは少し小さいそのトラックは、ロイがぶつぶつ言っている間にもどんどん小さくなる。
「速ぇ・・・」
「まぁ、4トン車だからね。車体は軽いし、排気量は普通車の倍以上だ。シフトチェンジがうまければ速いよ」
それにしてもスピードの出しすぎだ、とロイは見えなくなっていくトラックを見送りながら文句を言った。
いつか、あんなふうに走れるようになるんだろうか。
やっと見つけた夢を追うように、エドワードはリザのトラックを見つめていた。
いつか。
「そのためにはまず仮免だよな」
「いや、そのためにはまずは飯だろ」
ロイは恋人のきらきら光る金色の瞳に笑いかけてから、レストランへ向けてハンドルを切った。
END
うーんいまいち。
リクエストはロイエドで上司と部下だったんですが、これまだ兄さん卒業もしてないじゃん。全然部下じゃないじゃん。ダメじゃん。