きっと空も飛べるはず






「エドワード、車を出すから後ろを閉めてくれ」
ロイの声にはっとして、エドワードは慌ててそっちを見た。
「ごめん。オレ、手伝わなくて……」
「いいよ。荷物は少なかったんだから」
優しく言いながら、ロイの目は追っかけの男を睨んでいる。
「閉めたらすぐ車に戻りなさい」
「うん」
頷くエドワードを見て、ロイはキャビンに戻っていった。

話しているところを見られたらしい。

また妬いてる。絶対。

観音ドアを閉め、ヒューズに向き直る。ロイの幼なじみは、今からこの荷物を持って遠い遠い街へと走らなくてはならない。
「気をつけて」
「おぅ、ありがと。おまえも頑張れよ」
ヒューズはエドワードの頭をぽんと叩いた。
「こっちに戻ってきたら、たまにロイと飲んだりするんだ。この次は呼ぶから、おまえも来いよ」
「はい!ありがとうございます」
キャビンへ歩き去るヒューズに手を振りながら、エドワードは考えた。
絶対どこかでなにかと合体して巨大になるんだ、この車。そしてきっと、空も飛べるに違いない。渋滞の列をはるかに見下ろしながら、飛行機よりも高く飛ぶんだ。

ロイの車とはまったく違うエンジン音を響かせて、ヒューズのデコトラは市場の出口を目指して走り去った。

それからエドワードもキャビンに戻り、ロイを見る。携帯でなにか話していたロイは、エドワードを見て優しい目をした。
「会社に戻ろうか。夜の積み込みまで少し休憩だ」
電話を切って、ロイはギヤを入れた。珍しいなと思いながらエドワードは頷く。いつもならここですぐにでもカーテンを引いてしまうのに。
窓の外を見ると、まだあの男が立っていた。携帯で写真を撮っているらしい。あいつがいるからだろう、と思ってから、エドワードは後ろのベッドに置いたお菓子の袋を引き寄せた。無視することにしよう。また会ったときに知り合いみたいな顔をされても嫌だし。
「なにか飲み物でも買うか?」
「うん」
黒い大型は排気の音を響かせながら、男を置き去りに市場を出た。ヒューズの車はずいぶん音が違ったな、とエドワードはきょろきょろする。派手に飾ったデコトラは、もうどこにも見えない。
きっともう、飛び立って行ったんだろう。合体するとこ見たかったな。エドワードは納得しながらお菓子の袋を開けた。






「追っかけかぁ。しつけぇんだよな、アレ」
事務所で話をすると、ハボックが眉を寄せた。
「うちの車も、よそに比べたら派手なほうだからな。たまに来るんだ。まだカメコのほうがマシだぜ」
「か、カメコ?」
それはあれだろうか。アイドルやコスプレ美人に群がるカメラを持ったオタクな連中。
「あいつらはな。写真撮っていいですかってちゃんと言うし、車は褒めてくれるけどしつこくねぇもん」
ブレダも頷いた。
「けどさ、その追っかけの人。そんなにトラックが好きなら、乗ればいいのに。なんで見るだけなの?」
疑問を口にするエドワードに、ホークアイがコーヒーを差し出しながらにっこりした。
「根性ないのよ」
「こ、根性?」
笑顔から聞こえた辛辣な言葉に、エドワードは怯えた声になった。
「そうよ。でかい車に乗る技術もなくて、荷を積み下ろしする力もなくて。好きなら乗ればいいのに、無理だからって見るだけにするのは根性がないってことじゃない?」
ホークアイはなにか迷惑を被ったことがあるのだろうか。
「まぁまぁ。誰にでも事情はありますから」
ファルマンがとりなすように口を出した。
「トラックが好きって、いいことじゃないですか」
「邪魔をしなければ別に構わんさ」
ロイはパソコンを閉じて立ち上がった。
「車のまわりをうろつかれたら動かせないし、呼び止められて話をされたら時間のロスだ。ヒューズは無駄に愛想がいいからな、よくあんなのがつきまとってる」
「ヒューズさんは誰にでも優しいから」
フュリーがにっこりした。
「お元気なんですね。たまには遊びに来てくれればいいのに」
「メガネ仲間だしな」
ひどい、と言うフュリーを無視して、ロイはエドワードを見た。
「出ようか、エドワード。」
「………うん」

まだ時間はあるのに。

そう言っても聞いてくれないから、頷くしかない。








市場の近くに停めた車の中で服を奪い取られながら、エドワードはロイを見つめた。
「なぁ、あんた前はやきもちやきじゃなかったの?」
「…………」
手を止めてエドワードを見て、ロイは眉を寄せた。
「ヒューズの戯言は聞かなくていい」
「戯言じゃねぇよ。オレにとっちゃ気になることなの」
「きみに会う前の話なんて、気にしてほしくないな」
ロイは聞かれたくないらしい。
でも、気になる。
「オレだけなの?やきもちやくの」
「…………………」
黙ったままのロイが目を逸らした。頬が赤い。
「ロイ、」
「…………くそ」
悔しそうに呟いて、ロイはエドワードを抱きしめた。

「仕方ないだろう。好きで好きで、だから不安なんだ」

きみに捨てられたらと思うと、怖くて。

「……………意外。あんたでもそんなこと思ったりすんの?」

「悪いか」

唇を尖らせるロイは真っ赤で、相変わらず子供のようで。

エドワードは自分からロイの背中に手を回した。

「嬉しい」

そんな心配してるの、自分だけかと思ってた。

「愛してるよ」

「うん」




だったら、やきもちも悪くないかもしれない。





END,
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