蹴落としちゃってごめんね
高速道路を降りて見慣れない道を走り、その街の市場に乗り入れる頃にはエドワードもようやく回復して助手席に這い戻った。無駄な体力だけは溢れている恋人は上機嫌で車を停めてシートベルトを外してこちらを見る。
「リフトを借りて来るから、待っていなさい」
「………あんた、なんでそんなに元気なの……」
爽やかに笑って車を降りてどこかへ走って行ってしまった恋人にため息をついて、エドワードは車から降りて後ろの観音ドアを開けた。
荷をおろして空のままドアを閉め、また街に出る。いつも通る国道とは違う番号が表示されている国道を通り、街から抜けて山へ。
そこまで行くと、夜の闇を照らすようにして輝く空港の明かりが見えてきた。
空港の横を通りすぎ、滑走路を横目にしばらく走ると、倉庫のような建物が目についた。広い駐車場には何台もトラックが並び、その隙間を縫うようにフォークリフトが走り回っている。
そこへゆっくりと入って行き、空いた場所に車を停めたロイに促されて降りてみると、車庫のように扉のない倉庫の中にはたくさんの荷物がパレットに小分けされて積まれていた。
その間にもまたトラックが到着し、駐車場の真ん中で素早くリフトがそれから荷を引っ張りおろしていく。銀色に輝くコンテナにはエアカーゴと書いてあった。色々な航空会社のマークもついている。
「あれが航空便の荷物?」
倉庫の脇の事務所に向かうロイに追いついて聞くと、ロイはちらりと振り向いてから頷いた。
「ここと空港を往復して荷を運んでるんだ。あのコンテナの荷を係員が伝票に従って仕分けしていくんだよ」
「………へぇ」
飛行機に乗って届いた荷物。どんなものが入っているのだろう。
興味津々ではあるが、まずは事務所で伝票を受け取らなくてはならない。
中へ入って行くと、狭い室内に何台ものパソコンが並んでいて数人の男がこちらを見た。
「社長!」
一番奥の机にいた男が立ち上がった。
「なんだ、今日は社長自らお出ましか!フュリーはどうした?」
「新人がいるんでね、交代したんだ」
ロイは男と握手をしながらにこにこと聞こえのいい言い方をする。無理やり代わったくせに、とは口にできないのでエドワードは傍のパソコンの画面を見た。
何時にどこからの何便が到着するか、それにコンテナがいくつ積まれているか、中にはなにがいくつ入っているか。事細かな情報に驚いた。これなら不着の荷があってもすぐにわかるし、遅れて届く荷もいつどれに乗って来るのかがわかる。
なるほど、と感心している間にロイの話は終わったようだ。近くにいた男から伝票を手渡され、では行くかと声をかけてきた。
「今日は飛行機も特に遅れは聞いてない。すぐに荷も揃うと思うぞ」
愛想のいい男に笑顔で言われ、ロイはありがとうと手をあげてみせてからエドワードの肩を抱いて歩き出した。
「ちょ、恥ずかしいよ!」
「いや。きみは私のだと皆に教えておかなくては」
また意味のない嫉妬をしてる。エドワードはため息をついたが、こうなると聞かないロイに仕方なくそのままついて行った。
リフトが勝手にどんどん荷物を持ってくる。ロイに言われるまま伝票と照らし合わせ、順番にトラックに積み込んで行く。最後に行く市場の荷を一番に積み、それから順に詰めていく。最初に行く市場のものは一番最後、トラックを開けてすぐの場所に。今まで同じところに全部おろすような仕事しか知らなかったエドワードは、目眩がしそうにぐるぐるする頭をなんとか抑えた。何ヵ所もあるため、とても一度では覚えきれない。
荷物も様々だった。蟹や鮭があるかと思えばピーマンや玉ねぎなど、かと思えば花があったり果物があったり。それぞれの数は少ないが、種類が多くて箱の大きさや形も様々だ。きれいに積むのは無理で、もう市場別になってさえいればいいとばかりに適当に積み上げた。花と果物、野菜の箱は濡らすわけにはいかないので気を使う。ちょっとでも濡れてしまえば、破損ということになって受け取ってもらえない。
だいたい積んで、あと少しだと二人がほっとしたとき。
リフトが走ってきて、見慣れない大きな箱を目の前に置いた。
「これ………なに?」
外国の文字しか書いてない箱は長方形になっていて、エドワードが横になって入れるくらいの大きさだ。試しにと端を持ち上げようとしたが、まったく動かなかった。
「マグロだよ」
リフトに乗った若い男が笑った。
「無理無理!動きゃしねぇって。150キロあるんだぜ」
「ひゃく………?」
驚くエドワードにまた笑って、男はパレットごと箱をトラックの高さまで持ち上げた。
「そこから二人でずらしながら引っ張って積んでくれ」
「え!でも、引きずったりしたら箱が傷むよ!」
「大丈夫!そんな柔な箱じゃねぇし、中身はがちがちに凍ってるから平気だよ」
「………冷凍マグロなんだ、これ………」
エドワードはロイを見た。ロイも眉を寄せて箱を見つめている。どうやらこういうものを運んだことはないらしかった。