お一人様5個まで






毎度のごとく手厳しい起こされ方で目覚めたロイは、半分眠った顔でエドワードと共に隣で朝食をとった。寝室へ行っていびきをかいて寝ているハボックの顔にマジックで落書きをして嫌がらせして、少し目が覚めたと言って車に乗る。子供のような恋人に呆れたため息をついたエドワードは、会社に着く頃には今日の仕事を思ってきらきらと目を輝かせていた。

知らない仕事は楽しい。まごつくのも失敗するのも、新しく覚えるためだと思えば落ち込むこともなかった。

「あのチラシのスーパーに行くの?」
「ああ。もしかしたらきみのご家族も買い物に来られるかもしれないな」
それはちょっと照れ臭いかも。エドワードは苦笑しながらホークアイのトラックに乗った。きれいに片付いた車内はいい匂いがする。芳香剤が見当たらないところを見ると、これは彼女の匂いなのだろう。居心地悪くそわそわしてしまうエドワードは、ホークアイが他人が乗るからと前日に必死に掃除して片付けていることを知らなかった。仕事に出れば車内で食事をして仮眠をとるドライバーたちにとって、キャビンの中は狭い自宅のようなものだ。油断すると生活感が溢れてしまう。ホークアイたち女性ドライバーもそこは例外ではなかった。
「女の人の車って、ちょっと緊張する」
ちょっぴり頬を染めて言うエドワードに、ロイは微妙に微笑んだ。覚めるまでは夢を見させてやったほうが幸せに決まっている。



積み込みはパレットが8枚分。すべてに山積みになっているたくさんの種類の冷凍食品を、ものすごく無造作にロイが積んでいく。放り投げるような積み方に不安になったエドワードが聞くと、ロイは肩を竦めた。
「崩れようがごっちゃになろうが、別に構わん。全部同じ店の荷物なんだし。それに、冷食は少々では壊れんからな」
「そ、そうなの」
ぽいぽいと積んでいき、1時間ほどして倉庫会社を出る。国道を通って見慣れた街の見慣れた道に入り、子供の頃からよく来ていた店に入っていくのを不思議な思いで見つめていたエドワードは、店の裏手の搬入口に数人立ってこちらに手を振る集団を見つけた。
「あれ、なに?」
スーパーの制服ではなく、私服で胸にバッジをつけた集団はどうやらこの車を待っていたようだった。
「あれは、荷主が雇ったアルバイトだ。搬入や陳列を主にやる連中で、私たちはその手伝いをするんだ」
「3人もいるのに、手伝うの?」
「まぁ、数が多いから。奴らの中に必ず一人はベテランアルバイトがいるから、そいつに仕切りは任せて言われた通りにやればいいさ」
話をしている間にトラックはバックで搬入口に停まり、ロイはエンジンを切った。
「エンジン切るの?」
驚いたエドワードが慌てて聞いた。トラックについた冷凍機はエンジンでまわしている。切ってしまえば冷凍機も止まり、箱はもう冷えなくなる。荷物を出すためにドアを開ければ、外気が流れこんで温度は上がるばかりだ。
「ご近所からクレームが来るからエンジンは切るんだそうだ。まぁアイスクリームと違ってそうそう溶けないし、万が一溶けたとしても私たちの責任じゃない。行くぞ」
「うん……」
トラックを降りてしまったロイについてエドワードも降りた。調理の匂いが漂っているのは惣菜売り場だろう。
冷凍食品て、意外と扱いがいい加減なんだ。
変な感心をしながらロイに追いつくと、アルバイトたちが頭を下げて挨拶をしているところだった。

「よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
よそいきの顔で微笑むロイに、まわりで仕事をしていたスーパーの店員たちが振り向きながらきゃーきゃー言っている。ちょっと眉を寄せてそれを見るエドワードに上機嫌になったロイが後ろのドアを開けた。バイトの一人が素早く台車を引いて来る。
適当に山積みにして売り場へ。片っ端から詰めてまたトラックに戻り荷物を山積みにする。何度か繰り返し、売り場が満杯になったところで休憩となった。
開店前のスーパーはしんと静かで、照明も半分しかついていない。歩き回る店員たちの足音や荷物を陳列する物音が響き、レジを準備する音がやけに大きく聞こえた。
その合間にちらちらとこちらを見てはひそひそと話をする店員たちにエドワードの機嫌は急降下する。ロイは確かに目立つ顔立ちをしていて、普通にしていればイケメンな部類に入るだろう。でも、あんなにあからさまに覗きに来なくてもよさそうなものだ。
不機嫌な恋人とは反対に、ロイはすこぶる上機嫌だ。やきもちをやく恋人の肩を抱いて自販機に連れていき、温かいコーヒーのボタンを押す間もにこにこと嬉しそうに笑っている。
「………なにがそんなに嬉しいの」
睨んでみるが効果はない。
「いやぁ、きみが妬いてくれるのが嬉しくて。だってきみは普段は気持ちを表に出さないだろう」
ほやっと笑う恋人のほっぺたを、アザができるまで殴りたい。エドワードはそれを抑え、代わりに缶コーヒーを握りしめた。



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