春、桜の中で








春。



エドワードは卒業式に出席した。桜が舞う校庭に下級生が集まり、証書の入った筒を手にした3年生たちを見送った。中にアルフォンスの顔を見つけてエドワードが手を振って笑うと、弟も笑顔で手を振る。礼服を着て他の母親たちとおしゃべりする自分の母親を校門で待っていると、胸に造花をつけて筒を持ったクラスメイトたちが駆け寄ってきた。
皆同じ、ブレザーの制服。もう着ることはないんだな、と思うと不思議な気がする。
「エド、帰らねぇの?」
「うん。まだ母さんしゃべってるし」
「うちのもだよ。おばさんてしゃべるの好きだよな」
うんざりした顔の友達に笑うエドワードを、エンヴィーがつついた。
「彼氏待ってんのかよエド」
「え。いや、まだ仕事中だし……、」
思わず答えたエドワードは慌てて口を閉じた。だが、しっかりとまわりに聞かれていたらしい。たちまち友人たちが騒ぎ出した。
「なんだよ、婚約とかマジなわけ?」
「嘘だろ?いつのまに!」
口々に騒ぐ友人に困って、エドワードはエンヴィーを睨んだ。長い黒髪に赤い瞳のエンヴィーは、にやにやしながらエドワードを見ている。
「だってオレ、はっきり聞いたもん。エド、いつ結婚するんだよ。招待してくれんだろ?」
「うるせぇ。まだ決まってねぇよ」
赤くなる頬をどうにかしたい。だがどうにもならなくて、エドワードはますます困った。
「なによエド、秘密なの?水くさいわね!」
ウィンリィが唇を尖らせて睨んでくる。
「指輪は?もらったんなら見せてよ!」
「なんでしてねぇの?」
だって先生に見つかったら没収されちゃうし。そう思ってからエドワードは、もうたった今からいつ指輪をしていても没収されることはないのだと気がついた。

もう学生じゃない。

明日から正式に、自分はロイたちの仲間なんだ。

エドワードは校舎を見た。3年間通ったそこと、今日でお別れ。目の前の友達たちとも、もう滅多に会えなくなる。

ふいに滲んだ涙を隠そうとエドワードは俯いた。それに気づいたエンヴィーが苦笑して、ちょっと寂しいよなと呟いた。

そのとき、後ろから轟音が響いた。それから、排気が抜ける派手な音。甲高いホーンが1回。
振り向くと、門の向こうの道路に真っ黒な大型トラックがハザードランプを点滅させてとまっていた。

「でか!」
「なにあれ」
「すげぇ。真っ黒」
友人たちが呆然と見上げる運転席で、タバコをくわえたハボックがエドワードに片手をあげてウインクした。
「……ハボックさん」
エドワードが驚いて見ていると、助手席のドアがばたんと音をたてた。
キャビンの前を回ってこちら側に出てきたのは。
「………ロイ!」
「やぁ、エドワード。通りかかったらきみが見えたからね。寄ってみた」
迷惑だったかな?と苦笑するロイの左手の薬指に指輪が見えて、エドワードは急いでブレザーのポケットに手をつっこんだ。
取り出した指輪を左手の薬指にはめてウィンリィに見せると、幼なじみは笑って頷いた。それへ笑って応えて、エドワードは駆け出した。

桜並木から散る花びらが、黒い車体を彩っていく。

ロイは笑って手を広げ、エドワードの体を受け止めた。

「今から会社に戻るんだ。来るかい?」
「うん、行く!」
エドワードは振り向いて、友人たちと校舎に手を振った。

「いつか、おまえが運転するようになったら乗せろよな!」
エンヴィーが笑顔で怒鳴った。ウィンリィや他の友達たちが、足が届くのかと笑って野次った。

それへ舌を出してみせてから、エドワードはロイに抱き上げられてトラックに乗り込んだ。





トラックが走り去ったあと、まだおしゃべりをしていたエドワードの母親に他の母親が駆け寄ってきた。
「ちょっと、トリシャ!あんたの息子、誘拐されちゃったわよ!」
「誘拐?」
「ええ。真っ黒なトラックが来て、連れてったって」
「あら、そう」
トリシャはにっこり微笑んだ。
「ごはんまでに帰るかしら。メールしておかなくちゃ」
「なに落ち着いてるのよ!大丈夫なの?トラックなんて…」
「大丈夫よ。あなた、そういう考えはよくないわ。トラックと言っても、いろんな人がいるのよ」
トリシャは先日行った小さな運送会社を思い浮かべた。
「真っ黒なトラックの会社の人たちはね、みんなとてもいい人よ。特に社長さんが、とても」
「…………なんだ、知り合いなの」
拍子抜けした声を出す相手に構わず、トリシャは携帯を出してメールを打った。

『今日はお祝いだから、ごはんまでには帰りなさい。家族で祝いたいから、マスタングさんも連れてきてね』

「さ、買い物して帰らなくちゃ。アルはどこかしら」
ぱたんと携帯を閉じて、それじゃあと挨拶をしてトリシャは歩き出した。










「メールかい?」
助手席からロイが振り向いた。後ろのベッドに座ってハボックからもらったお菓子を食べながら、エドワードは携帯を差し出した。
「うん。母さんから」
「…………」
ロイは画面の文字を読み、泣きたいくらいにほっとして笑った。
「なにかお祝いを買わなくちゃな、エドワード」
「別にいらねぇよ」
「遠慮すんなよ、もらっとけ。せっかくなんだから」
ハボックが笑った。
「おめでとう、エド。ようやくオレたちの仲間入りだな」
「……うん」
言われて俯くエドワードのほうへ体を乗り出して、ロイは赤くなって涙がひと筋流れる頬にキスをした。

「卒業おめでとう。それから」

ようこそ、エドワード。



エドワードは笑って、ロイの首に両手をまわして抱きついた。











END,

ロイさん首折れるってば。

ようやく終わり。だらだらすいません。猿みたいにトラックに登る兄さんが書きたかっただけとか言うね。それでこんなに長く。どうなの自分。
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