遠い、知らない街へ






「まぁ気にすんな!聞いてたから」
明るく笑うハボックに、エドワードは弱々しい笑顔を返した。聞いたって誰に。
ハボックの車は青いスポーツタイプで、かなり古い型らしかった。名前を聞くとダルマと言われた。なんだそれ。エドワードはがたがたと激しく揺れる振動とものすごい排気音に運ばれて、国道沿いのコンビニに入った。

「リザさんから聞いたんだよ、こないだ。社長が落ち込んでたからさ、どうしたのかと思ってたら」
おまえに会えなくて落ち込んでるだけだとか言われた。ハボックは呆れ顔で笑いながら鍵と携帯を持って車を降りた。
「そうなの」
エドワードは動揺を隠せなかった。ハボックに知られていたことも驚きだが、ホークアイが知っていたことも驚きだった。ロイがホークアイを信用していることは知っていたけど、プライベートなことまでなんでも話す間柄とは思わなかった。
どんな関係なんだろう。
不安が顔に出ていたらしく、ハボックに肩をばしばし叩かれてエドワードは苦笑した。
「社長とリザさんは昔から一緒に仕事しててさ。仲いいんだよ。だから気にすんな」
「…うん」
店に入るとおでんの香りが鼻についた。ハボックが早速そちらに向かって覗きこむ。だが、すぐに出発するハボックにはおでんをゆっくり食べる暇はないらしかった。
「おまえ食うか?」
「うん。ハボックさんは?」
「オレはパンと、あとおにぎりとか……」
片手で食べれるものをとハボックが考えていると、ポケットに入れた携帯が鳴った。なぜドラクエなんだろう。しかもレベルアップのときの効果音だし。
「いやホラ、電話かかるたびにレベルアップできるじゃん」
よくわからない言い訳をしながらハボックが通話ボタンを押すと、傍にはいるがさほどくっついていないエドワードの耳にまで聞き慣れた声が響いてきた。
『ハボック!きさまエドワードを誘拐したな!』
「………起きたんか、あんた」
『どこにいるんだ!私の宝物を返せ!』
恥ずかしい。エドワードは目を逸らし、ケースの中の肉まんを眺めて他人のふりを始めた。
「落ち着いてくださいよ。コンビニにいるんスよ、あんたエドに飯食わしてねぇでしょ」
ロイの声のトーンが落ちたらしい。聞こえなくなった。エドワードはほっとして本棚に移動した。
「………はぁ?こんにゃく?なに言ってんスか、おでんはしらたきでしょ」
なんの話になったんだ。ハボックの声を背中に聞きながら、エドワードは棚を眺めた。そういえばせっかく買ったジャンプをまだ見てなかったな。戻ったら見なくては。
「大根は外せませんて。つくね?いや、牛すじが先でしょ。あんたおでんの真髄をわかってねぇな」
なんでおでんのことでそんなに熱くなれるのかわからない。エドワードは飲料を眺めた。カゴを持ってきてファンタオレンジといちご牛乳を入れる。牛乳は全然ダメだが、これは飲めるようになった。体をつくるためにはやっぱり牛乳も飲まなくては。
「どんだけ買う気ですか。もう器が2つになってますよ。え、卵?厚揚げは?いやいや卵を入れて厚揚げが入らないなんてあり得ねぇでしょうが。奴らは仲良しなんですよ」
どういう理屈だ。卵と厚揚げがそんなに仲がいいなんて知らなかったぞ。

ハボックは3つの器に山盛りにおでんを買い、山ほどのおにぎりやパンとともに会計をすませた。車を飛ばして会社に戻ると、上半身裸のロイがトラックの向きを変えて道路に向けていた。
「ほい社長、飯。で、この寒いのになんで裸なんだ?」
ハボックがコンビニの袋を渡しながら聞いた。わかってるくせに、とエドワードは自分が着ているロイの服を見る。胸に社名が入っている長袖のポロシャツは黒。トラックのキャビンに転がっているはずの自分の服を思い、黒なんて着るんじゃなかったと真剣に反省した。
「いいだろ別に。気分だ、気分」
ロイは別に気にした様子もなく、袋を受け取り代金をハボックに渡した。

ハボックがトラックに乗って出て行くと、また駐車場が静かになった。運転席と助手席の間に食べ物を広げて、遠くの街の明かりを見ながらおでんを食べる。悪くないよな。エドワードは上機嫌で卵にかじりついた。
「どこか食べに行こうかと思ってたんだがね」
申し訳なさげに言うロイに、エドワードは首を振った。ロイはそれを見て微笑み、それからエドワードの着ている服を眺めた。
「なかなか似合うじゃないか」
「あ、ごめん。なんか焦ったから、間違えちゃって」
「いや、いいんだが」
言葉を切ったロイにエドワードが不審な目を向けると、半裸の男はなにを考えているのか丸わかりな顔でにやにやしていた。
「恋人が自分の服を着ている姿というのも、なかなかそそるね」
「………死ねバカ」

エドワードはその日そのままロイのマンションに連れて行かれた。することをしたあとやっぱりすぐに熟睡してしまったロイに下敷きにされたまま見た朝日は、眩しすぎて綺麗すぎて。

なんとなく涙が出てきて、鼾までかいているロイの背中に手を回して抱きついて。

そのまま、エドワードも眠ってしまった。





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