オペラ
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〈繁華街から路地裏へ〉
マジカルストリート
今、マジカルストリートで、新学期の買い物をしています。相変わらずここは人がたくさん。サリバン様と入間くん、オペラさんと、はぐれないようにしないといけないなあって思っていたんだけど、いつの間にかひとりになっちゃった。なぜ?
紙類はあっという間になくなるから多めに買っておこう。黒いペンの替え芯、あ、あと赤ペンも。これも多めに。
生徒には人間学の授業が終わるたびに感想を書かせている。出欠の再確認とどんなことを感じたのかわたしが知りたいから。みんなの感想を読んでいたら、なんとなく、人間と悪魔の違いが分かるようになってきたように思う。彼らは本当に他者に対する興味が薄い。
彼らのレポートの文の一部に線を引いて、
__________________________
↑Why?
って書くのが日常。感想文が短絡的でもうちょっと詳しく知りたいのだ。各机を回って、感想が書かれた紙を個人個人に返しながら、これ、なんで?なんでそう思うの?って直接聞くのも日常。決まって返ってくるのは
理由なんてねえよ!わかんねー!
っていう生徒の台詞。ああ、確かにねえ、楽しそうって思うことに理由を求めることは無意味か。おいしそうなものはおいしそうなのも分かるのだが、どんなところがおいしそうなのか知りたいって思ってしまう。で、みんなを困らせる。
魔界の詳しい事情と照らし合わせて書いてくれる生徒がいて、あーそうなんだーって勉強になる。サブノックくんとか・・・・・・彼は意外と論理的なんだよねえ。本をたくさん読んでいることもあって、こちらが感心させられることがしばしば。
こんな切り口があるのか、という観点で書いてくれる生徒もたくさんいる。みんな一人一人いいことに気がついていて、それを読むと、教師をやっててよかったなって思うこともある。
だから赤ペンが必要で、こうして買いに来ているわけです。文房具屋さんに血のインクはいかが?って進められたときは全力で拒否しました。怖すぎです。
魔界に花丸が無いって知らなくて、レポートの下の方、みんなが書いた文が見えなくならないところに花丸をガンガンつけたら、生徒のノートに落書きをするな!ってカルエゴ先生に叱られた。
ちなみに、とても詳しくかけているときは5重花丸で、もっとかけそうなときは花は咲かないのがわたし流。たまに蝶蝶が飛んだり、サイン代わりに人間界の動物を描いたりもする。
・・・・・・という説明をカルエゴ先生にしたところ、眉間に指を当てて
「はあ・・・・・・結構だ・・・・・・」
と言われた。何が結構なんでしょう?否定?それとも肯定?肯定だよね?
・・・・・・ところで、サリバン様たちはどこに行っちゃったのでしょう。本屋に行くって言ってたからそっちの方にいるかもしれない。
なんて、一人自問自答を繰り返しながら歩く。
「・・・・・・はあ、ヒロインさん・・・・・・」
「ひゃっ」
顔のすぐ横から声をかけられ、びくっとしてしまった。気配を感じさせないなんてさすがはサリバン様のSD。
オペラさんがじとりとこちらを見つめていた。
「まったく、ふらふらと・・・・・・」
「ごめんなさい、買い物に没頭しちゃって」
えへへーなんて言ってごまかすが、オペラさんは耳が上がっていないので少し立腹の様子。
「匂いをつけていますから、心配はしておりませんでしたが、少し歩きすぎです。被食者の自覚はありますか。」
「オペラさんのおっしゃるとおりです。すみません。」
「わたしの目の届く範囲にいてください。」
「はい・・・・・・」
「ところで、何を買ってきたのですか。」
「文房具とか・・・・・・紙とか・・・・・・新学期の準備を。」
「授業でお使いになるものですね。」
「はい。」
言いながら、店先でまた使えそうな厚紙を発見した。
「ヒロインさん、紙も大事ですが新学期用のお洋服も新調した方がよろしいかと。」
「ああ、そうですよね。・・・・・・」
新しい服も必要なのは分かってはいるのだが。正直魔界のファッションがよく分からない。
「・・・・・・」
ショーウインドウを眺めるがピンとくるものがなくぼうっとしてしまう。角用アクセサリー・・・使わないなあ・・・・・・。
それを見かねたのか、オペラさんはわたしの手を引きさっき入間くんたちが入っていったコートのお店のすぐ近くまでどんどん進んでいった。
「オペラさん、」
「とびきりかわいいのを見繕って差し上げます。」
「!」
入るなり、お高い店だ、と、一瞬で認識した。
最低限の服しか置いていないし、スタッフのオーラが違う。オーダーメイドのお店なんて人間界にいた頃は行ったことがない。
「オペラ様、いらっしゃいませ。」
「いつもお世話になっております。さっそくですが、時間がありませんので。サイズは上から、×××・・・・・・」
「待って!なんで知ってるんですか!」
さらっと人のボディサイズを言ったオペラさんに思わずストップをかけた。
「なんでと言われましても・・・・・・ここで理由を申してよろしいのですか?」
急に小声になったオペラの真意を察し、わたしは黙るしかなかった。恥ずかしすぎる。素敵な店員さんはオペラさんの隣でにこにこ楽しそうである。
「あらあら、かわいらしいですねえ」
「はい。かわいいです。」
「うう・・・・・・」
30分後
「オペラさん・・・・・・ほんとにいいんですか・・・・・・」
どこにも値段が書いていないので恐怖を感じ、素敵な店員さんに尋ねたところあまりの価格に目ん玉が飛び出た。
「はい。わたしからのプレゼントです。」
ゆらりと、真っ黒な尻尾を揺らし、オペラさんはそう言った。
「新学期が楽しみですね。ヒロインさん。」
「はい・・・・・・オペラさんありがとうございます。」
大体次の日には仕立て上がるのだそうだ。魔界ってすごい。お仕事早い。
「ヒロインさん、そろそろイルマ様と合流しましょうか。新学期の教科書をそろえるため、本屋にいるはずですので。」
「はい。」
隣を見上げるとまっすぐ前を見据えたオペラさんの横顔があった。ひゃー素敵。
ちらちらと盗み見てニヤついていたわたしは、もう一度左上を見上げ、
「今日、思いがけずオペラさんと一緒にデートできて嬉しかったです。ありがとうございます。」
このように言って頭を下げた。
「そうですか。」
「あの、オペラさん、手、つないでもいいですか。」
ちらとこちらを向いたオペラさんが、するりと、きめの整った白い指を絡めてくれた。
非常に面倒くさいことになるためサリバン様達と合流したら手は離さなければならないが、短い時間でも一緒に歩けるなんて幸せだ。
きゅっと握る手に力を込めると、オペラさんが握り返してくれる。なんて幸せなのだろう。
「・・・・・・」
ひゅっと音がしたようだった。
瞬間、体を持ち上げられ、移動したのだと思う。わたしは一瞬で路地の中へと入れられ、オペラさんの瞳にとらわれた。突然のことに頭がついていかない。どうやら何かの店の裏戸とオペラさんの間に挟まれている。
オペラさんの額が、わたしの額にくっついた。あまりの近さにピントが合わない。そのままオペラさんがわたしの首筋へ顔を埋めた。ひたりと唇が首筋へと当てられ、絡めた指を握り直される。わたしの後頭部に当てられた大きな手が壁とすれる音がした。
そのまま何秒経っただろうか。しばらく柔い抱擁をされ、硬直していたわたしにオペラさんが言った。
「かわいいです。」
「へっ?」
唐突すぎてよく分からない。
「ヒロインさん、先に馬車に行きましょう。」
どうやら変なスイッチが入ってしまったようだ。何がトリガーになったのかは全く思い当たる節がない。
今馬車に行けば密室。変なスイッチが入ったオペラさんと密室に二人きりはどう考えてもまずい。
馬車の中とはいえ野外でするなんて趣味はわたしにはない。
「ああああの、オペラさん、入間くんをお迎えに行かないと。サリバン様の甘やかしが暴走してたっくさんお菓子を買ってるかもしれませんし!」
「・・・・・・たしかに、あり得ますね。」
すん、と少し正気を取り戻したオペラさんが、両手をわたしの腰に滑らせた。
「少し、舞い上がってしまいました。あなたとこうして一緒に歩くことなんて、そう無いことなので。」
「・・・・・・わたしも、嬉しかったですよ。」
ぎゅうっと思わずオペラさんの胸に抱きついてしまった。オペラさんの胸に頬をくっつけると、とくとくと、少しだけ早い心音が聞こえた。
「んーーーー好き。オペラさん。」
顔が隠れるようにぎゅっと抱きついて、あふれる気持ちを言葉にする。新学期になれば、毎日コンスタントに授業があるためゆっくり出かけることもなかなか難しくなる。オペラさんもそれは同じだ。今は本当に贅沢な時間なのだ。
「・・・・・・顔を上げてください。ヒロインさん。」
「ん・・・・・・もう少しこのまま・・・・・・」
オペラさんに顔を見られたくなくて、照れ隠しにしなやかな筋肉に包まれた体を抱きしめる。
「おや、・・・・・・あれはイルマ様。」
「え!」
まずい、と、わたしはオペラさんから咄嗟に体を離した。
すると、オペラさんはぐっとわたしの手を引き、
「うそです。」
そう言って口づけた。
あっという間のことで、「やられた」と思いながらピントの合わない紅の瞳を睨めつけようとした。
すると、思いのほか真面目に閉じられたオペラさんのまぶたが目に入り、ドキッとしてしまう。
彼の瞳がゆっくりと開き、僅かに弧を描いた。
「んぅ・・・・・・ん」
「ヒロインさん、口を開けて。」
ちゅうちゅうと、何度もキスされて、頭の中がとろとろになる。顔もとても街を歩けるようではないだろう。
どうでもよくなってきた。気持ちがいい。ただそれだけ。
街の中の人の視線も、学校の近くの街で買い物中だと言うことも、全部どうでもよくなるくらいの甘く、官能的な口づけだ。
オペラさんが顔の角度を深く傾けじゅるりとわたしの舌を吸い上げた。食べられていると、わたしは彼の手中なのだと思い知らされる。拘束されているわけでも、脅されているわけでもないが抵抗する術が皆無だった。
抗うことのできない甘い甘い呪縛に捕らわれている。
「はぁ・・・・・・甘いですね。」
ちゅっと音を立て、オペラさんの唇が離れる。
「本当は馬車に行きたかったのですが、サリバン様に暴走されても困るので。今はここで我慢することにします。」
「んっ・・・・・・オペラさん、もっと」
「おやおや、欲しがりですね。ヒロインさん。」
わたしの耳に髪をかけ直しながら、オペラさんが囁いた。
悪魔は欲に忠実だと思う。
わたしもまた、今、オペラさんが欲しくて欲しくて、もうそれしか考えられない。どうやらわたしもだんだんと悪魔に近づいていくようだ。
人間学で教鞭を執り、どんなところが違う?なぜそう思う?
こんなことを何度も生徒に聞く。
好きという気持ちに理由はあるのか?
理由って大事かしら・・・・・・
ふわふわとする思考の片隅で理性が警笛を鳴らしているような気もする。
「ヒロインさん、よそ事を考えないでください。」
わたしの思考を飲み込むように、オペラさんがまたわたしの唇に噛みついた。
Fin.